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142.幕末の決着 (斎藤・張・影宮・夢主・時尾・蒼紫)
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時刻は深夜零時前。
蒼紫は藤田家の屋根に音もなく飛び上がると辺りの警戒に入った。
周囲の灯りは消え人っ子一人通らずシンと静まり返っている、そんな中、蒼紫は先ほど武尊の涙をぬぐった指をペロリと舐めた。
そして武尊が駆けて行った警視庁方面を見ながら
(間に合えばよいが・・・。)
と呟いた。
緋村抜刀斎と斎藤一。
共にあの幕末の京都からの宿敵。
ならば今回の決闘いは避けられまいと蒼紫は思った。
(俺が抜刀斎に対して挑戦者となったのと同様、今度は抜刀斎が挑戦者・・そして斎藤にはそれを受ける義務がある。今は只、結果を待つしかない・・。)
蒼紫は前髪を夜風にそよがせながら己と抜刀斎の決闘を思い出していた。
**************
「はっ、もうわいもほんまに我慢の限界や。」
帰宅後、殆どない荷物をまとめていた張だったが、斎藤の言う通りこのまま仙台へ歩いて行って蝦夷にいくのが突然馬鹿らしくなった。
「なんでわいがあんな風にこき使われなあかんのや、腐ってもわいは十本刀の張やで!明治政府も斎藤の旦那もええ加減にせい!」
散々ぼやいた後、張はせっかく荷物もまとめた事だし、と、今日こそはトンズラすることに決めた。
そして斎藤が決闘へ向かっていると思われる時間に警視庁へ潜入し、今までこき使ってもらったお礼がてらに金目のモノを頂くことにした。
深夜、警視庁には門番と宿直しか起きている者はいない。
だが勝手知ったる警視庁とばかりに張は容易く中に潜入して、まずは総務に寄ろうと二階へ上がった。
総務の金庫なら当面の逃亡資金ぐらいあるんじゃないかと思ったからだ。
それにあのお宝もそこにあるはず・・・と総務の部屋を開けようとしたその時、三階に誰かがいる気配がした。
(誰やろ・・わいの他にも潜入者がおるんかいな?)
若しかしてそいつは同業者(この場合泥棒)で、自分より先に金目のものを取っていったかもしれないと思った張はそいつが逃げる前に奪い返そうと気配のする三階へ上がった。
その気配はなんと斎藤の部屋からだった。
(何や、そこには何もあらへんのにアホなやっちゃ。どこのどいつか知らへんけど金は置いて行ってもらいまっせ。)
と、ガチャっと扉を開けたとたん、音に反応して振り返った斎藤と目が合った。
「なっ・・・!」
明かりも付けず窓際で煙草を吸っていた斎藤を見て張は驚いた。
なんで斎藤がここにいるのか分からず張は焦った。
斎藤の方こそこんな時間に部屋へ来る意味が分からずいぶかしげに言った。
「何だ、こんな時分になんの用だ?」
「いや、わいは密偵はもう飽きたさかいに金目のもんかっぱらってトンズラしようと・・・」
動揺のあまり思わず本音が出てしまったがそれどころではない。
「--ってそんなことより旦那、何しとるんや!『決闘』の時刻はもう過ぎてるで!はよ行かんと!」
抜刀斎の指定時刻は子の刻、張も一応剣客として時間が気になった。
そう、先程部屋の柱時計が午前零時になり終わったばかりなのだ。
あの抜刀斎からの決闘なのに何故?と張が困惑していると、斎藤がとんでもない事を言った。
「フン・・・誰が決闘に応じると言った。」
「は?」
張は驚きのあまりに目を皿のようにした。
「俺が決着を望んだ相手は人斬り抜刀斎であってあの男ではない・・・狼は狼、新撰組は新撰組、人斬りは人斬りだと思っていたのだがどうやら俺の見込み違いだったようだ。」
「何でや、緋村剣心と人斬り抜刀斎は同一人部やろ?旦那の言うとる事、何や訳わからんさかい。」
「わからんならわからんでいい、人を殺さなくなった人斬りなどと今更決着をつけても、もはやなんの感慨も湧きもせん・・・ただそれだけのコトだ。」
(わからん・・わいには旦那が何を言うとるのかさっぱりわからん、どないなってんねん。)
と、張が斎藤の後ろ姿を眺めていると急に突風が部屋に入ってきた。
「うわっぷ!」
カーテンは激しく煽られ、机の書類がバサバサと舞った。
斎藤はそんな突風に動じる事はなく、また一本新たに煙草を取り出すと火を点けた。
「冷えて来たな・・・。」
珍しく皮肉も何も入っていない素直な斎藤の言葉。
張はそんな言葉に一瞬戸惑いながら、
「あ?ああ・・せやな、もう秋やさかい・・。」
と答えた。
(そうか・・秋か・・・。)
斎藤は大きく息を吸ってそして煙を吐きだした。
今が季節の変わり目、そして人生の転機、そしてもう抜刀斎と壬生狼との決着は金輪際ないだろうと、斎藤は思った。
(俺達の幕末はすでに終わっていた、ということだ抜刀斎。お前は自ら人斬りでなくなったくせに何の決着をつけようというのだ。幕末の亡霊に憑りつかれているのはお前の方だ。)
斎藤はただ一言、すべての思いを込めて、
「阿呆が・・・。」
と呟いた。
2014. 4.10
蒼紫は藤田家の屋根に音もなく飛び上がると辺りの警戒に入った。
周囲の灯りは消え人っ子一人通らずシンと静まり返っている、そんな中、蒼紫は先ほど武尊の涙をぬぐった指をペロリと舐めた。
そして武尊が駆けて行った警視庁方面を見ながら
(間に合えばよいが・・・。)
と呟いた。
緋村抜刀斎と斎藤一。
共にあの幕末の京都からの宿敵。
ならば今回の決闘いは避けられまいと蒼紫は思った。
(俺が抜刀斎に対して挑戦者となったのと同様、今度は抜刀斎が挑戦者・・そして斎藤にはそれを受ける義務がある。今は只、結果を待つしかない・・。)
蒼紫は前髪を夜風にそよがせながら己と抜刀斎の決闘を思い出していた。
**************
「はっ、もうわいもほんまに我慢の限界や。」
帰宅後、殆どない荷物をまとめていた張だったが、斎藤の言う通りこのまま仙台へ歩いて行って蝦夷にいくのが突然馬鹿らしくなった。
「なんでわいがあんな風にこき使われなあかんのや、腐ってもわいは十本刀の張やで!明治政府も斎藤の旦那もええ加減にせい!」
散々ぼやいた後、張はせっかく荷物もまとめた事だし、と、今日こそはトンズラすることに決めた。
そして斎藤が決闘へ向かっていると思われる時間に警視庁へ潜入し、今までこき使ってもらったお礼がてらに金目のモノを頂くことにした。
深夜、警視庁には門番と宿直しか起きている者はいない。
だが勝手知ったる警視庁とばかりに張は容易く中に潜入して、まずは総務に寄ろうと二階へ上がった。
総務の金庫なら当面の逃亡資金ぐらいあるんじゃないかと思ったからだ。
それにあのお宝もそこにあるはず・・・と総務の部屋を開けようとしたその時、三階に誰かがいる気配がした。
(誰やろ・・わいの他にも潜入者がおるんかいな?)
若しかしてそいつは同業者(この場合泥棒)で、自分より先に金目のものを取っていったかもしれないと思った張はそいつが逃げる前に奪い返そうと気配のする三階へ上がった。
その気配はなんと斎藤の部屋からだった。
(何や、そこには何もあらへんのにアホなやっちゃ。どこのどいつか知らへんけど金は置いて行ってもらいまっせ。)
と、ガチャっと扉を開けたとたん、音に反応して振り返った斎藤と目が合った。
「なっ・・・!」
明かりも付けず窓際で煙草を吸っていた斎藤を見て張は驚いた。
なんで斎藤がここにいるのか分からず張は焦った。
斎藤の方こそこんな時間に部屋へ来る意味が分からずいぶかしげに言った。
「何だ、こんな時分になんの用だ?」
「いや、わいは密偵はもう飽きたさかいに金目のもんかっぱらってトンズラしようと・・・」
動揺のあまり思わず本音が出てしまったがそれどころではない。
「--ってそんなことより旦那、何しとるんや!『決闘』の時刻はもう過ぎてるで!はよ行かんと!」
抜刀斎の指定時刻は子の刻、張も一応剣客として時間が気になった。
そう、先程部屋の柱時計が午前零時になり終わったばかりなのだ。
あの抜刀斎からの決闘なのに何故?と張が困惑していると、斎藤がとんでもない事を言った。
「フン・・・誰が決闘に応じると言った。」
「は?」
張は驚きのあまりに目を皿のようにした。
「俺が決着を望んだ相手は人斬り抜刀斎であってあの男ではない・・・狼は狼、新撰組は新撰組、人斬りは人斬りだと思っていたのだがどうやら俺の見込み違いだったようだ。」
「何でや、緋村剣心と人斬り抜刀斎は同一人部やろ?旦那の言うとる事、何や訳わからんさかい。」
「わからんならわからんでいい、人を殺さなくなった人斬りなどと今更決着をつけても、もはやなんの感慨も湧きもせん・・・ただそれだけのコトだ。」
(わからん・・わいには旦那が何を言うとるのかさっぱりわからん、どないなってんねん。)
と、張が斎藤の後ろ姿を眺めていると急に突風が部屋に入ってきた。
「うわっぷ!」
カーテンは激しく煽られ、机の書類がバサバサと舞った。
斎藤はそんな突風に動じる事はなく、また一本新たに煙草を取り出すと火を点けた。
「冷えて来たな・・・。」
珍しく皮肉も何も入っていない素直な斎藤の言葉。
張はそんな言葉に一瞬戸惑いながら、
「あ?ああ・・せやな、もう秋やさかい・・。」
と答えた。
(そうか・・秋か・・・。)
斎藤は大きく息を吸ってそして煙を吐きだした。
今が季節の変わり目、そして人生の転機、そしてもう抜刀斎と壬生狼との決着は金輪際ないだろうと、斎藤は思った。
(俺達の幕末はすでに終わっていた、ということだ抜刀斎。お前は自ら人斬りでなくなったくせに何の決着をつけようというのだ。幕末の亡霊に憑りつかれているのはお前の方だ。)
斎藤はただ一言、すべての思いを込めて、
「阿呆が・・・。」
と呟いた。
2014. 4.10