「蒼紫？」



意外な人物に武尊は驚いた。



いったいなんの用事だろうかと尋ねた。



「どうしたの蒼紫？」



「斎藤は帰っているか。」



「・・・まだ。早く帰って来ると思ったんだけど遅いみたい。」



武尊の返事を聞いて蒼紫はやはり緋村の事を言わねばと思った。



「武尊、落ち着いて聞け。」



蒼紫のその言葉に武尊の頭に斎藤がどこかで怪我をしたとか最悪事故ったとかそんな事が浮かんで思わず塀に駆け寄った。



「斎藤さんがどうかしたの！？」



塀の板一枚挟んで向かい合う武尊と蒼紫。



蒼紫がわざわざ来るなんてただ事じゃないはずと武尊は目を大きくして塀の戸板に手をあてがった。



「緋村が今日斎藤に果し状を出した。」



「えっ？（果し状？ってまさか・・・まさか・・・。）」



武尊の脳内にぱっとその言葉から行われるであろう光景が浮かんだ。



その間蒼紫は言葉を続けた。



「斎藤はどうしたかと思いここへ来た。」



「それを・・・私に伝えに来てくれた・・の？」



「嗚呼・・・もし斎藤が受けて立っているならば武尊は見届けるべきではないかと思ってな。」



（どうしよう・・・斎藤さんが勝負に負けるなんて思わないけど・・・相手は伝説の最強の人斬り・・・蒼紫もかなわなかったぐらいの・・。）



そう思うと武尊は胸騒ぎがして居ても立ってもいられない気持ちになった。



今すぐ斎藤のもとに駆けつけたい気持ちだけがはやった。



（だけど・・・・。）



と、武尊は行燈がついている部屋を振り返った。



時尾の警護は斎藤から命ぜられた事項。



時尾を置いては行けない。



武尊はぐっと、握りこぶしを握ったがはっと代案を思いついた。



そして再び塀の板に近づき、コンコンと叩いた。



「蒼紫・・・。」



「何だ。」



「お願いがあるんだけど・・・とりあえず中に入ってもらっていい？」