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138.大きな三角 (斎藤・夢主・時尾)
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武尊はしゃがんで薪をくべながらじっと赤く揺らぐ炎を見ていた。
その光と音は武尊の心を落ち着かせる効果があった。
そして今日、何が起こったのか回想していた。
しばらくして武尊の斜め後ろから足音が近づいて来た。
武尊が振り返ると斎藤がすでに五歩ぐらい後ろに近づいて来る所だった。
「斎藤さんだめですよ、時尾さんの所離れちゃ。あれだけ頭を打ったんだったら少なくとも一日は体調の変化をみておいた方がいいんですから。」
「大丈夫だ。時尾は夕餉の後すぐに寝たし、洗い物は済ませておいたぞ。」
「えっ!斎藤さんが洗ったんですか!」
「何を驚いている。俺にだってそのくらいは出来る。」
「それはそうですが・・・(イメージが・・・)。)
「それより武尊、夕餉は食べたのか。」
「まだです、これが終わったら頂きますからお気遣いなく。(というか全然食欲ないし・・・今日はパスしようかな・・。)もうすぐいい温かげんになりますから向こうで時尾さんについていてあげて下さい、湧きましたら交代で私が時尾さんにつきますから。」
「・・・悩んでいる顔だな。」
「え?」
斜めに振り返ってた武尊の顔を焚口の炎が照らす。
「大方ここで今日の事でも考えていたんだろ。」
「(うっ、図星!)な、何でわかったんですか!」
「それしかないだろ、お前の考えそうなことは。」
「う・・。」
当たっているだけに何も言い返せないでいると、
「手を出せ。」
と、斎藤に言われた。
急にそんな事を言われ反射的に竹筒を持っていない方の左手を斎藤に差し出すと、手のひらに白い塊が乗せられた。
「おにぎり!え?!これ斎藤さんが作ったんですか?!」
武尊がびっくりして斎藤を見上げると、斎藤は少し笑ったような顔をして食べろと言った。
「さっきから俺をなんだと思っているんだ。塩にぎりぐらい俺にもできるぞ。こうでもしないと飯を抜いて寝かねないと思ったんでな。ただでさえ病み上がりなんだ、しっかり食べろ。腹が満たされんと人間ろくなことを考えないもんだ。」
と、斎藤は自分の手に残ったご飯粒を口に運んだ。
(何から何まで御見通し?)
と武尊は単純な自分の思考が全て斎藤に読まれているとは知らずに斎藤の洞察力にまた舌を巻いた。
そして手の中のおにぎりを少し見つめた。
そのおにぎりは自分が握るよりずっと大きなおにぎり。
それはきっと斎藤の手が大きいからだと、そして思ったよりもずっと整った三角の形のおにぎりが斎藤の器用さを物語っていた。
(私の為に・・・。)
胸が熱くなったがこのままだとまた泣いてしまいそうだったので、武尊は大きく口を開けてパクっとかじった。
泣きすぎてかなりの塩分が失われたからだろうか、ただの塩おにぎりが今の武尊には体に沁みわたる美味しさだった。
「おいしい・・・斎藤さん。」
「そうか、それはよかったな。よしよし、ちゃんと食えているな。」
と、斎藤もしゃがんで薪を足した。
その後握り飯を持ってこなかった方の手で煙草を取り出すと焚口から火を点け言った。
「今日の件はとりあえず明日張に様子を見に行かせる。」
「・・・そういえば今日みたいな場合ってどうなるんですか?・・あの・・・たぶん・・・家元は死んだと思うんだけど・・・。」
「悪即斬・・・。」
そう言って斎藤は煙草の煙を大きく吐きだした。
そして武尊の方を見て言った。
「言って話がつく相手じゃなかったんだろ・・・ああでもしなければ武尊も時尾も無事ではなかったんだ、気にするな。」
「ううん、そうじゃなくて・・・今回の事は私は自分の意志で許せないと思ったから相手が可哀想とかは思ってない・・・ただ、一応死傷者が出たからあれも事件でしょ?警察が調べに来たら面倒だなぁ・・って。」
「案ずるな、その家元がどれだけえらいか知らんが悪は悪。そいつを庇って正義が立たぬような警察なら・・。」
「やめて下さい!そんな事!」
「ほほう、俺の考えが分かるのか。」
「警察組織相手に戦おうなんて考えたんじゃないですか。」
「・・・珍しく勘がいいな。」
「珍しくないー!そんな言い方されたらそう思いますよ!もう、本当にやめてくださいそんな事考えるのは!斎藤さんはもう独り身じゃないんですから!」
「案ずるなと言っただろ、明治政府はようやく足元が固まりつつあるんだ。志々雄のようにもう一度内乱を起こしてまた無秩序な社会を築こうとする組織に対して政府も警察も甘くはない。 薬と武尊の事を知っているという事はその力を利用して何かを企んでいる可能性は大いにあるからな・・・ほら、口が動いてないぞ。」
と、斎藤は途中でお口が留守になっている武尊のほっぺたを小突いた。
(えっ、薬の話?)
と武尊は思わず斎藤を注視した。
武尊は実は先ほど斎藤に今日の出来事の概要を言う時に薬の事は言わないでいた。
自分が言ってないのならこの話をしたのは時尾。
「どうして知っているかという顔だな。時尾が心配していたぞ、武尊は薬を飲むほど何処か悪いのかと。薬の件、武尊から話がなかったのは報告漏れか?」
と斎藤が言ってきた。
「いえ・・さっきは気が動転していて大体の話しか出来なくて・・。」
それも嘘じゃない、と武尊はうつむいた。
けれどもそれをあえて黙っていたのは、赴任の前に斎藤に薬の事で心配をかけたくなかったからだ。
赴任まで後八日。
正体が分からない相手を調べるには時間がなさすぎる。
斎藤も武尊のそんな考えも推測できており、小さくため息をつき、
「まあいい、今日はその事はもう言わん。とりあえず食べろ。」
と、武尊の代わりにまた薪を足した。
「うん・・・。」
と、武尊はおにぎりを食べるのを再開した。
「おいしい・・・。」
「そうか。」
と、斎藤は武尊の頭をなでなでし、自分が作った握り飯を食べるのを若干目を細めて見ていた。
武尊は最後の一口を口に入れるとハッと何かを思い出し顔色を変えて駆け出した。
走って風呂の入り口から風呂釜へ行くと風呂のふたをがばっと開け、湯に手を突っ込んだ。
「熱っ!斎藤さん熱いです!火、よけて下さい!」
と、窓から外にいる斎藤に叫んだ。
しまった、食べている間に焚き過ぎたと思いながら武尊は斎藤の所へ戻った。
「すみません、かなり熱いです。今ふた開けてます。」
「着替えを取りに戻っている間に冷めるだろ、戻るか。」
「はい、あの・・斎藤さん。」
と、武尊は斎藤を呼び止めた。
斎藤が振り返って武尊を見た。
「御馳走様でした!」
と武尊は頭を下げた。
「嗚呼。」
斎藤はそんな武尊を見てふっと笑う。
こうやって何かしてやれるのも後八日。
再会してひと月に満たないはずなのにずっと共にいるような錯覚を覚え、八日後にはこの現実が消える。
(今見ているのは幻か、己の夢か。)
それは目の前の武尊の姿が己の想いの凝集した結晶ではないかと思うほどに。
「行くぞ。」
「はい!」
打てば響く、そんな返事が返って来るのはいつまでだろうか。
そんな思いを胸に武尊がついて来る気配を名残惜しむように斎藤はーー刹那ーー瞼を閉じた。
その光と音は武尊の心を落ち着かせる効果があった。
そして今日、何が起こったのか回想していた。
しばらくして武尊の斜め後ろから足音が近づいて来た。
武尊が振り返ると斎藤がすでに五歩ぐらい後ろに近づいて来る所だった。
「斎藤さんだめですよ、時尾さんの所離れちゃ。あれだけ頭を打ったんだったら少なくとも一日は体調の変化をみておいた方がいいんですから。」
「大丈夫だ。時尾は夕餉の後すぐに寝たし、洗い物は済ませておいたぞ。」
「えっ!斎藤さんが洗ったんですか!」
「何を驚いている。俺にだってそのくらいは出来る。」
「それはそうですが・・・(イメージが・・・)。)
「それより武尊、夕餉は食べたのか。」
「まだです、これが終わったら頂きますからお気遣いなく。(というか全然食欲ないし・・・今日はパスしようかな・・。)もうすぐいい温かげんになりますから向こうで時尾さんについていてあげて下さい、湧きましたら交代で私が時尾さんにつきますから。」
「・・・悩んでいる顔だな。」
「え?」
斜めに振り返ってた武尊の顔を焚口の炎が照らす。
「大方ここで今日の事でも考えていたんだろ。」
「(うっ、図星!)な、何でわかったんですか!」
「それしかないだろ、お前の考えそうなことは。」
「う・・。」
当たっているだけに何も言い返せないでいると、
「手を出せ。」
と、斎藤に言われた。
急にそんな事を言われ反射的に竹筒を持っていない方の左手を斎藤に差し出すと、手のひらに白い塊が乗せられた。
「おにぎり!え?!これ斎藤さんが作ったんですか?!」
武尊がびっくりして斎藤を見上げると、斎藤は少し笑ったような顔をして食べろと言った。
「さっきから俺をなんだと思っているんだ。塩にぎりぐらい俺にもできるぞ。こうでもしないと飯を抜いて寝かねないと思ったんでな。ただでさえ病み上がりなんだ、しっかり食べろ。腹が満たされんと人間ろくなことを考えないもんだ。」
と、斎藤は自分の手に残ったご飯粒を口に運んだ。
(何から何まで御見通し?)
と武尊は単純な自分の思考が全て斎藤に読まれているとは知らずに斎藤の洞察力にまた舌を巻いた。
そして手の中のおにぎりを少し見つめた。
そのおにぎりは自分が握るよりずっと大きなおにぎり。
それはきっと斎藤の手が大きいからだと、そして思ったよりもずっと整った三角の形のおにぎりが斎藤の器用さを物語っていた。
(私の為に・・・。)
胸が熱くなったがこのままだとまた泣いてしまいそうだったので、武尊は大きく口を開けてパクっとかじった。
泣きすぎてかなりの塩分が失われたからだろうか、ただの塩おにぎりが今の武尊には体に沁みわたる美味しさだった。
「おいしい・・・斎藤さん。」
「そうか、それはよかったな。よしよし、ちゃんと食えているな。」
と、斎藤もしゃがんで薪を足した。
その後握り飯を持ってこなかった方の手で煙草を取り出すと焚口から火を点け言った。
「今日の件はとりあえず明日張に様子を見に行かせる。」
「・・・そういえば今日みたいな場合ってどうなるんですか?・・あの・・・たぶん・・・家元は死んだと思うんだけど・・・。」
「悪即斬・・・。」
そう言って斎藤は煙草の煙を大きく吐きだした。
そして武尊の方を見て言った。
「言って話がつく相手じゃなかったんだろ・・・ああでもしなければ武尊も時尾も無事ではなかったんだ、気にするな。」
「ううん、そうじゃなくて・・・今回の事は私は自分の意志で許せないと思ったから相手が可哀想とかは思ってない・・・ただ、一応死傷者が出たからあれも事件でしょ?警察が調べに来たら面倒だなぁ・・って。」
「案ずるな、その家元がどれだけえらいか知らんが悪は悪。そいつを庇って正義が立たぬような警察なら・・。」
「やめて下さい!そんな事!」
「ほほう、俺の考えが分かるのか。」
「警察組織相手に戦おうなんて考えたんじゃないですか。」
「・・・珍しく勘がいいな。」
「珍しくないー!そんな言い方されたらそう思いますよ!もう、本当にやめてくださいそんな事考えるのは!斎藤さんはもう独り身じゃないんですから!」
「案ずるなと言っただろ、明治政府はようやく足元が固まりつつあるんだ。志々雄のようにもう一度内乱を起こしてまた無秩序な社会を築こうとする組織に対して政府も警察も甘くはない。 薬と武尊の事を知っているという事はその力を利用して何かを企んでいる可能性は大いにあるからな・・・ほら、口が動いてないぞ。」
と、斎藤は途中でお口が留守になっている武尊のほっぺたを小突いた。
(えっ、薬の話?)
と武尊は思わず斎藤を注視した。
武尊は実は先ほど斎藤に今日の出来事の概要を言う時に薬の事は言わないでいた。
自分が言ってないのならこの話をしたのは時尾。
「どうして知っているかという顔だな。時尾が心配していたぞ、武尊は薬を飲むほど何処か悪いのかと。薬の件、武尊から話がなかったのは報告漏れか?」
と斎藤が言ってきた。
「いえ・・さっきは気が動転していて大体の話しか出来なくて・・。」
それも嘘じゃない、と武尊はうつむいた。
けれどもそれをあえて黙っていたのは、赴任の前に斎藤に薬の事で心配をかけたくなかったからだ。
赴任まで後八日。
正体が分からない相手を調べるには時間がなさすぎる。
斎藤も武尊のそんな考えも推測できており、小さくため息をつき、
「まあいい、今日はその事はもう言わん。とりあえず食べろ。」
と、武尊の代わりにまた薪を足した。
「うん・・・。」
と、武尊はおにぎりを食べるのを再開した。
「おいしい・・・。」
「そうか。」
と、斎藤は武尊の頭をなでなでし、自分が作った握り飯を食べるのを若干目を細めて見ていた。
武尊は最後の一口を口に入れるとハッと何かを思い出し顔色を変えて駆け出した。
走って風呂の入り口から風呂釜へ行くと風呂のふたをがばっと開け、湯に手を突っ込んだ。
「熱っ!斎藤さん熱いです!火、よけて下さい!」
と、窓から外にいる斎藤に叫んだ。
しまった、食べている間に焚き過ぎたと思いながら武尊は斎藤の所へ戻った。
「すみません、かなり熱いです。今ふた開けてます。」
「着替えを取りに戻っている間に冷めるだろ、戻るか。」
「はい、あの・・斎藤さん。」
と、武尊は斎藤を呼び止めた。
斎藤が振り返って武尊を見た。
「御馳走様でした!」
と武尊は頭を下げた。
「嗚呼。」
斎藤はそんな武尊を見てふっと笑う。
こうやって何かしてやれるのも後八日。
再会してひと月に満たないはずなのにずっと共にいるような錯覚を覚え、八日後にはこの現実が消える。
(今見ているのは幻か、己の夢か。)
それは目の前の武尊の姿が己の想いの凝集した結晶ではないかと思うほどに。
「行くぞ。」
「はい!」
打てば響く、そんな返事が返って来るのはいつまでだろうか。
そんな思いを胸に武尊がついて来る気配を名残惜しむように斎藤はーー刹那ーー瞼を閉じた。