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137.守りたいもの、守りたかったもの (夢主・時尾・家元達・斎藤)
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夜、少し遅くなった斎藤が家に帰って来た。
日はすっかり落ち、辺りはすでに暗い。
玄関を開けていつものように帰った斎藤だが、いつも出迎える時尾がいない。
「まだ帰ってないのか。ちょっと遅いんじゃないか?まあ武尊も一緒だから大丈夫だろうが・・・。」
とりあえず靴を脱いで家にあがった斎藤だが静かな家の中になにやら人の気配がすることに気が付いた。
「何処のどいつか知らんがここが俺の家だと知って忍び込んでいるのか?命知らずめ。」
と、その気配に向かって斎藤は刀に手をかけつつ家の奥へ注意深く進んだ。
己の気配を消し進んでいくと自分の寝室に灯りが点いているのが見えた。
「・・・。」
斎藤は更に静かに部屋の前まで進みスパーンと障子を開けた。
斎藤の視界に入ったのは、音に驚いて自分の方を見た目を腫らした武尊と布団に横たわった時尾の姿。
「時尾!」
斎藤は即座に武尊と反対側の時尾の枕元に駆け寄った。
『死』
と、一瞬その一文字が斎藤の頭をよぎったが、近くに寄ってスースー聞こえる時尾の寝息に安堵し、すぐ顔を武尊に向けた。
武尊は正座したまま俯いて握りこぶしをももの上で震わせていた。
「武尊、どういう事だ、何があった。」
「ごめんなさい・・・斎藤さん・・・。」
武尊は家に帰ってから時尾を布団に寝かせた。
寝かせて時尾が回復するのをただ待つ、それしか出来なかった。
医者を呼びに行こうにも体の内部の損傷が分かる医者がこの時代にいるのも分からないのに闇雲に探し回るのは無駄に思えたし、時尾の側を離れてその間に万が一敵が追って来たらと思うとなおさら離れるわけにはいかなかった。
そして回復を願ってずっと側についていたのであった。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・。」
武尊はごめんなさいを連呼しながらずっと心で詫びていた。
自分は藤田家の幸せを壊すために居候しているのではなかった。
自分の所為で時尾さんがこんな目に合ったのなら、自分の所為で斎藤の家庭の幸せを壊してしまうなら、武尊は死んで償うしかないと思った。
(守りたかったのは斎藤さんの幸せな未来・・・。)
下を向き、嗚咽を堪えながら武尊はごめんなさいとそればかり繰り返した。
斎藤はズボンに落ちた涙の滲みと、先程みた武尊の顔、つまり腫れた目でどれだけ武尊泣いていたか想像がついた。
斎藤はいったん立ちあがり、武尊の横へ座ると、
「怒りはしない、だから何があったか話せ。」
と言って、斎藤は武尊の肩をそっと抱いた。
いつもなら自主的に報告する武尊が謝る事しか出来ないのは余程の事だと斎藤は直感したからだ。
斎藤の落ち着いた声、斎藤の腕の温かさに武尊の涙が更に増えた。
斎藤は黙って武尊が話し出すのを待った。
声をあげて泣きたいのを押し殺し、上手く呼吸が出来ないのを無理に息を吸い、袖で涙をぬぐい、ようやく武尊は口を開いた。
「斎藤さん・・・。」
と、斎藤の名を呼んで腫れた目を斎藤に向けた。
「まずは落ち着け。」
斎藤にそう言われ、武尊は返事をする代りに二度頷いた。
武尊は時々嗚咽で喉を詰まらせながらこれまでの概要や時尾が頭を打ったらしくてそれ以来意識がない事などを話した。
「なるほどな・・・。」
頭部への負傷の所為か、と斎藤は時尾の顔を見た。
武尊も時尾の顔を見て、
「私の所為で時尾さんが・・・。」
と、また泣きだした。
(このまま目を覚まさなかったらどうしよう。)
そう思うと、涙が止まらない。
「これは仕方のない事だ。武尊はよくやった。」
「そんな訳ない!(むぎゅ!)」
と、泣く武尊をこれ以上何も言わせぬように斎藤は更に引き胸元に寄せ強く抱きしめた。
「自分ばかり責めるな。これは俺の責任でもあるんだからな。」
と、斎藤は自分の探りが甘かったのかと記憶を遡らせた。
(確かに調べでは全員白だったはずだ。)
斎藤は東京に来て時尾がお茶を習いたいと申し出た時、裏でそのお茶を教える先生やその門下生などの身元を調べていたのだった。
もちろんそれは明治になっても未だ新撰組を目の仇にする薩長などの残党から家族を守る為である。
極まれに川路(薩摩出身)や斎藤のように上手く付き合っている間柄もあったが、政治上、官職上でも小競り合いが起きているのである。
そういう事から念入りに調べはしておいたはずだった。
それが何故今回こんなことに・・と考えていると自分の体を武尊が一生懸命叩いていた。
「ん~~んんん~!(斎藤さん苦しい~!)」
嗚呼締めすぎたか、と斎藤は腕を緩めた。
ゴホッ、ゴホッっと武尊はむせながら本気顔で、
「(斎藤さんに殺される)覚悟は出来てますけどゴホッ、今は時尾さんのことが大事です。斎藤さん、何処かにいいお医者さんを知りませんか、呼んで来ます。」
と言いながら立ち上がった。
この時代の事はこの時代の人に聞け。
若しかしたら斎藤ならいい医者を知っているのではないかと武尊はそう思って聞いてみた。
「意識がない怪我人のどこが悪いかなんぞ分かる医者などいるか、それよりここにいろ。」
と斎藤は武尊の手を引っ張り座らせた。
「それに俺が武尊を絞め殺すわけがないだろう、阿呆が。勝手に俺が武尊を殺すなど考えるな。」
「でも・・・私の所為で時尾さんが・・。」
と、またグスっと鼻をすすりだした。
「そんなに俺に殺して欲しいのか。」
と斎藤は言った。
もちろん本気ではない。
斎藤には武尊の思考は手に取る様に分かる。
だがいつまでも子供のようにだだをこねるように泣くのであれば、後ろ向きにしか考えられないようであれば、お灸をすえなければと思ったが故に言った言葉だった。
「時尾さんに万が一の事があったら私・・・死んで償います。」
武尊は斎藤が予想した通りの返事をする。
「時尾に万が一の事がなくてもこの状況に俺が不満足だったらどうする。」
「時尾さんの怪我は私の責任です。斎藤さんの気が済むようにして下さい。」
「本当にそれでいいのか。」
「はい。」
十六夜丸の事さえなければ・・つまりこれは私の全面的責任と、武尊は斬首される囚人のように首を前に出した。
斎藤はそんな武尊に眉間に皺をよせると、
「分かった・・・・・・ならばこの場で望み通りはめ殺してやる。」
と言い、同時に武尊を押し倒した。
(えっ!?しめ?はめ?今斎藤さん何て言った?)
武尊は自分の耳を疑ったが押し倒された状況から言えば今聞いた言葉は空耳なんかじゃないと焦りに焦った。
意識がないとはいえ、しかも何で時尾さんの真横で!と思った武尊は両手で覆いかぶさって来る斎藤に必死に抵抗した。
「ちょっ、何考えてるんですかこんな時に!斎藤さん!」
「武尊が言ったんだぞ、気が済むようにしろとな。何故抵抗する。」
「言ったけどそれとこれとは別!」
斎藤はあがく武尊のお腹の上に乗ると武尊の両腕を掴み、その手を武尊の頭の上へと持って一つの手で押さえつけた。
身体も両手も封じられた武尊は斎藤の顔を見た。
斎藤も武尊の眼を見つめた。
静けさが二人を包む中、斎藤は武尊の眼の中に写る・・背徳・・不義・・恐怖・・など目まぐるしく入れ替わるそんな感情をじっと見ていた。
そして、
「・・・これは己を見失っているお前に対しての仕置きだ。耐え切れなかったら遠慮なく死んでいいぞ。」
と宣告した。
武尊の唇が微かに動くが、恐ろしすぎる斎藤の言葉にそれは音にならない。
だが、斎藤の手が武尊の詰襟にかかりそうになった時、武尊は最後の抵抗だと、
「斎藤さんダメー!」
と、気を振り絞って叫んだ。
日はすっかり落ち、辺りはすでに暗い。
玄関を開けていつものように帰った斎藤だが、いつも出迎える時尾がいない。
「まだ帰ってないのか。ちょっと遅いんじゃないか?まあ武尊も一緒だから大丈夫だろうが・・・。」
とりあえず靴を脱いで家にあがった斎藤だが静かな家の中になにやら人の気配がすることに気が付いた。
「何処のどいつか知らんがここが俺の家だと知って忍び込んでいるのか?命知らずめ。」
と、その気配に向かって斎藤は刀に手をかけつつ家の奥へ注意深く進んだ。
己の気配を消し進んでいくと自分の寝室に灯りが点いているのが見えた。
「・・・。」
斎藤は更に静かに部屋の前まで進みスパーンと障子を開けた。
斎藤の視界に入ったのは、音に驚いて自分の方を見た目を腫らした武尊と布団に横たわった時尾の姿。
「時尾!」
斎藤は即座に武尊と反対側の時尾の枕元に駆け寄った。
『死』
と、一瞬その一文字が斎藤の頭をよぎったが、近くに寄ってスースー聞こえる時尾の寝息に安堵し、すぐ顔を武尊に向けた。
武尊は正座したまま俯いて握りこぶしをももの上で震わせていた。
「武尊、どういう事だ、何があった。」
「ごめんなさい・・・斎藤さん・・・。」
武尊は家に帰ってから時尾を布団に寝かせた。
寝かせて時尾が回復するのをただ待つ、それしか出来なかった。
医者を呼びに行こうにも体の内部の損傷が分かる医者がこの時代にいるのも分からないのに闇雲に探し回るのは無駄に思えたし、時尾の側を離れてその間に万が一敵が追って来たらと思うとなおさら離れるわけにはいかなかった。
そして回復を願ってずっと側についていたのであった。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・。」
武尊はごめんなさいを連呼しながらずっと心で詫びていた。
自分は藤田家の幸せを壊すために居候しているのではなかった。
自分の所為で時尾さんがこんな目に合ったのなら、自分の所為で斎藤の家庭の幸せを壊してしまうなら、武尊は死んで償うしかないと思った。
(守りたかったのは斎藤さんの幸せな未来・・・。)
下を向き、嗚咽を堪えながら武尊はごめんなさいとそればかり繰り返した。
斎藤はズボンに落ちた涙の滲みと、先程みた武尊の顔、つまり腫れた目でどれだけ武尊泣いていたか想像がついた。
斎藤はいったん立ちあがり、武尊の横へ座ると、
「怒りはしない、だから何があったか話せ。」
と言って、斎藤は武尊の肩をそっと抱いた。
いつもなら自主的に報告する武尊が謝る事しか出来ないのは余程の事だと斎藤は直感したからだ。
斎藤の落ち着いた声、斎藤の腕の温かさに武尊の涙が更に増えた。
斎藤は黙って武尊が話し出すのを待った。
声をあげて泣きたいのを押し殺し、上手く呼吸が出来ないのを無理に息を吸い、袖で涙をぬぐい、ようやく武尊は口を開いた。
「斎藤さん・・・。」
と、斎藤の名を呼んで腫れた目を斎藤に向けた。
「まずは落ち着け。」
斎藤にそう言われ、武尊は返事をする代りに二度頷いた。
武尊は時々嗚咽で喉を詰まらせながらこれまでの概要や時尾が頭を打ったらしくてそれ以来意識がない事などを話した。
「なるほどな・・・。」
頭部への負傷の所為か、と斎藤は時尾の顔を見た。
武尊も時尾の顔を見て、
「私の所為で時尾さんが・・・。」
と、また泣きだした。
(このまま目を覚まさなかったらどうしよう。)
そう思うと、涙が止まらない。
「これは仕方のない事だ。武尊はよくやった。」
「そんな訳ない!(むぎゅ!)」
と、泣く武尊をこれ以上何も言わせぬように斎藤は更に引き胸元に寄せ強く抱きしめた。
「自分ばかり責めるな。これは俺の責任でもあるんだからな。」
と、斎藤は自分の探りが甘かったのかと記憶を遡らせた。
(確かに調べでは全員白だったはずだ。)
斎藤は東京に来て時尾がお茶を習いたいと申し出た時、裏でそのお茶を教える先生やその門下生などの身元を調べていたのだった。
もちろんそれは明治になっても未だ新撰組を目の仇にする薩長などの残党から家族を守る為である。
極まれに川路(薩摩出身)や斎藤のように上手く付き合っている間柄もあったが、政治上、官職上でも小競り合いが起きているのである。
そういう事から念入りに調べはしておいたはずだった。
それが何故今回こんなことに・・と考えていると自分の体を武尊が一生懸命叩いていた。
「ん~~んんん~!(斎藤さん苦しい~!)」
嗚呼締めすぎたか、と斎藤は腕を緩めた。
ゴホッ、ゴホッっと武尊はむせながら本気顔で、
「(斎藤さんに殺される)覚悟は出来てますけどゴホッ、今は時尾さんのことが大事です。斎藤さん、何処かにいいお医者さんを知りませんか、呼んで来ます。」
と言いながら立ち上がった。
この時代の事はこの時代の人に聞け。
若しかしたら斎藤ならいい医者を知っているのではないかと武尊はそう思って聞いてみた。
「意識がない怪我人のどこが悪いかなんぞ分かる医者などいるか、それよりここにいろ。」
と斎藤は武尊の手を引っ張り座らせた。
「それに俺が武尊を絞め殺すわけがないだろう、阿呆が。勝手に俺が武尊を殺すなど考えるな。」
「でも・・・私の所為で時尾さんが・・。」
と、またグスっと鼻をすすりだした。
「そんなに俺に殺して欲しいのか。」
と斎藤は言った。
もちろん本気ではない。
斎藤には武尊の思考は手に取る様に分かる。
だがいつまでも子供のようにだだをこねるように泣くのであれば、後ろ向きにしか考えられないようであれば、お灸をすえなければと思ったが故に言った言葉だった。
「時尾さんに万が一の事があったら私・・・死んで償います。」
武尊は斎藤が予想した通りの返事をする。
「時尾に万が一の事がなくてもこの状況に俺が不満足だったらどうする。」
「時尾さんの怪我は私の責任です。斎藤さんの気が済むようにして下さい。」
「本当にそれでいいのか。」
「はい。」
十六夜丸の事さえなければ・・つまりこれは私の全面的責任と、武尊は斬首される囚人のように首を前に出した。
斎藤はそんな武尊に眉間に皺をよせると、
「分かった・・・・・・ならばこの場で望み通りはめ殺してやる。」
と言い、同時に武尊を押し倒した。
(えっ!?しめ?はめ?今斎藤さん何て言った?)
武尊は自分の耳を疑ったが押し倒された状況から言えば今聞いた言葉は空耳なんかじゃないと焦りに焦った。
意識がないとはいえ、しかも何で時尾さんの真横で!と思った武尊は両手で覆いかぶさって来る斎藤に必死に抵抗した。
「ちょっ、何考えてるんですかこんな時に!斎藤さん!」
「武尊が言ったんだぞ、気が済むようにしろとな。何故抵抗する。」
「言ったけどそれとこれとは別!」
斎藤はあがく武尊のお腹の上に乗ると武尊の両腕を掴み、その手を武尊の頭の上へと持って一つの手で押さえつけた。
身体も両手も封じられた武尊は斎藤の顔を見た。
斎藤も武尊の眼を見つめた。
静けさが二人を包む中、斎藤は武尊の眼の中に写る・・背徳・・不義・・恐怖・・など目まぐるしく入れ替わるそんな感情をじっと見ていた。
そして、
「・・・これは己を見失っているお前に対しての仕置きだ。耐え切れなかったら遠慮なく死んでいいぞ。」
と宣告した。
武尊の唇が微かに動くが、恐ろしすぎる斎藤の言葉にそれは音にならない。
だが、斎藤の手が武尊の詰襟にかかりそうになった時、武尊は最後の抵抗だと、
「斎藤さんダメー!」
と、気を振り絞って叫んだ。