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133.都鳥 (蒼紫・夢主・斎藤・左之助)
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翌日、斎藤は家の片付けの事で時尾に少し手伝って欲しい事があると言われ、武尊は先に出勤し昨日の続きの仕事を黙々と進めていた。
************
集中力もきれて武尊が肩を叩きながら窓の外を見れば太陽は南中近くにあった。
「もうお昼近くか・・斎藤さん遅いなぁ・・・、でも時尾さん一人じゃやっぱり大変だよね。というか宅配やトラックがない明治ってどうやって引っ越すの。」
と、思ってたらドアをノックする音。
「はいー!(誰だろ?)」
と返事をし、武尊がドアを開けるとそこに立っていたのは蒼紫だった。
「蒼紫!」
この頃はすっかり名前を呼ぶ癖がついたと武尊を見て内心フフと思う蒼紫だった。
武尊は予想もしなかった人物に驚いていると、蒼紫は手に持っていた風呂敷の包を武尊に差し出した。
「仕事中邪魔をすると思ったのだがこれを返しに来た。」
それは武尊が神谷道場へ置いてきた重箱。
「わざわざ?近いうちに取りに行こうと思ってたからよかったのに・・でもありがとう蒼紫、助かります。」
と、武尊は遠い所を来てくれた蒼紫に正直に礼を言いぺこりと頭を下げた。
蒼紫もそんな武尊を見て安堵し緊張を解いた。
内心余計な事をしたのではないかと心配だったからだ。
「でもどうして持って来てくれたんですか。」
と、武尊は不思議に思って聞いてみた。
「いや・・・ついでだ。近くまで来たものだからな。」
「近くまで?近くに何かあるんですか?」
武尊はそう言ってしまってから、自分んで何て間抜けな質問をしているんだと思った。
用事があったからこそこの辺に来て、尚且つ、わざわざ重箱を返す為に警視庁へ寄ってくれたとさっき蒼紫が言ったばかりじゃないかと武尊は思った。
「いや・・・特にというわけではないが・・・。」
と、蒼紫は部屋を見た。
「とりあえず入ってよ。よかったら座って。」
「・・・斎藤はいないのか。」
「ちょっと外へ・・もうすぐ来ると思うんだけど・・・。」
「ならば少しだけ。」
と言って蒼紫は部屋へ入り部屋をぐるりと見渡した。
「何をしていた。」
「斎藤さんに言われて資料の複写を。もうすぐ終わるけど・・・あの・・お茶入れてきましょうか。」
「いや、いい。斎藤が戻って来ると面倒だ。」
と、窓辺に立って警視庁の入り口を隠れて見下ろした。
蒼紫は警視庁の出入者を見たまま武尊に話しかけた。
「武尊・・・、俺は近々京都へ戻る。」
「え?」
唐突な蒼紫の言葉に武尊は思わず聞き返した。
蒼紫の東京での用事は済んだはず。
それに入院最中から蒼紫に何度も京都へ帰ったらと提案したのは他でもない武尊なのだ。
それでも知った人が自分から離れていくという事に武尊は寂しさを覚えた。
それは斎藤との別れも近いという事だからだろうか。
そういう気持ちが『え?』という先程の一言に現れていた。
「今日都鳥を見た。この時期隅田川に渡ってくる鳥だ。だが平年よりかなり見かけるのが早い・・すなわち寒波が来るのが早いという事だ。」
「そっか・・・それなら土が凍るのも早いってことだよね・・・。」
武尊は蒼紫が早めに帰る理由がすぐ分かった。
「嗚呼・・・。」
「・・・連れて帰ってあげるんだったもんね。」
武尊は蒼紫を、いや、蒼紫の周りに今もいるだろう四人の魂を想像して周囲を見た。
そう思って見ると何となく気配があるようなないような・・・。
蒼紫の御頭としての優しさが蒼紫の後ろ姿からあふれ出ているような感じがしてフッと微笑んだ。
「蒼紫・・・京都からいろいろありがとう。気を付けて帰ってね・・・翁さんや皆さんによろしく伝えて下さい。」
「嗚呼・・・。」
そう返事をしながら蒼紫は柔らかな武尊の口調に振り向いた。
目に映る武尊の姿。
「・・・・。」
何か言葉を、と思う蒼紫だったが適当な言葉が見つからなかった。
だがそう言えば昨日相楽に殴られた時背中を強打したという事を思い出した。
「傷の具合はどうだ・・・昨日の事で酷くなっていないか。」
自分がつけた傷、相楽の所為で悪化してはいないかと心配していた所でもあった。
「大丈夫ですよ、ちょっと痛むけど大した事ありませんから。傷もそのうちよくなりますから蒼紫はもう気にしないでください。」
心配そうな目で自分を見る蒼紫に武尊は大丈夫だと両手を振ってそう言った。
「そういう訳にはいかぬ。だが大事でないのなら良い・・・体を厭い早く治せよ。」
「蒼紫・・・。」
深い海のような静かな瞳。
いつも鋭い鷹のような眼をしているのに今武尊を見つめているのはそんな瞳。
こんな眼をする人だったんだと武尊は一瞬その瞳に見入ってしまった。
「京都に戻って来たなら葵屋へ寄れ。比古清十郎の所へ戻る前にゆっくりしていくがいい。翁や皆も喜ぶだろう。」
「ありがとう、その口調じゃ蒼紫もすっかり葵屋の若旦那様だね。」
ははっと笑う武尊を蒼紫は少し困ったような顔で見ていた。
そしてまた窓の下へと視線をやり、はっとすると武尊に、
「斎藤が来た・・・俺は行かねば。」
ドアの方へ向かう蒼紫に武尊は最後に一言呼びかけた。
「蒼紫。」
武尊の言葉に今一度蒼紫は振り向いた。
「友になってくれてありがとう・・・私にとって蒼紫は初めての友・・・嬉しかった。」
「・・・嗚呼、俺も武尊が初めての友だ・・・何かあれば俺を頼れ、力になる。」
「ありがとう。でもまだ帰るまでに日にちがあるのだったらまた会えるかも。」
例えそれが社交辞令だとしてもそう言ってくれるだけで嬉しいと武尊は思った。
「そうだな。是非会いたいものだ。」
蒼紫は武尊と別れるのを名残惜しそうにしながら、かと言って斎藤と顔を合わせる気もなく、静かな風のように出て行った。
************
集中力もきれて武尊が肩を叩きながら窓の外を見れば太陽は南中近くにあった。
「もうお昼近くか・・斎藤さん遅いなぁ・・・、でも時尾さん一人じゃやっぱり大変だよね。というか宅配やトラックがない明治ってどうやって引っ越すの。」
と、思ってたらドアをノックする音。
「はいー!(誰だろ?)」
と返事をし、武尊がドアを開けるとそこに立っていたのは蒼紫だった。
「蒼紫!」
この頃はすっかり名前を呼ぶ癖がついたと武尊を見て内心フフと思う蒼紫だった。
武尊は予想もしなかった人物に驚いていると、蒼紫は手に持っていた風呂敷の包を武尊に差し出した。
「仕事中邪魔をすると思ったのだがこれを返しに来た。」
それは武尊が神谷道場へ置いてきた重箱。
「わざわざ?近いうちに取りに行こうと思ってたからよかったのに・・でもありがとう蒼紫、助かります。」
と、武尊は遠い所を来てくれた蒼紫に正直に礼を言いぺこりと頭を下げた。
蒼紫もそんな武尊を見て安堵し緊張を解いた。
内心余計な事をしたのではないかと心配だったからだ。
「でもどうして持って来てくれたんですか。」
と、武尊は不思議に思って聞いてみた。
「いや・・・ついでだ。近くまで来たものだからな。」
「近くまで?近くに何かあるんですか?」
武尊はそう言ってしまってから、自分んで何て間抜けな質問をしているんだと思った。
用事があったからこそこの辺に来て、尚且つ、わざわざ重箱を返す為に警視庁へ寄ってくれたとさっき蒼紫が言ったばかりじゃないかと武尊は思った。
「いや・・・特にというわけではないが・・・。」
と、蒼紫は部屋を見た。
「とりあえず入ってよ。よかったら座って。」
「・・・斎藤はいないのか。」
「ちょっと外へ・・もうすぐ来ると思うんだけど・・・。」
「ならば少しだけ。」
と言って蒼紫は部屋へ入り部屋をぐるりと見渡した。
「何をしていた。」
「斎藤さんに言われて資料の複写を。もうすぐ終わるけど・・・あの・・お茶入れてきましょうか。」
「いや、いい。斎藤が戻って来ると面倒だ。」
と、窓辺に立って警視庁の入り口を隠れて見下ろした。
蒼紫は警視庁の出入者を見たまま武尊に話しかけた。
「武尊・・・、俺は近々京都へ戻る。」
「え?」
唐突な蒼紫の言葉に武尊は思わず聞き返した。
蒼紫の東京での用事は済んだはず。
それに入院最中から蒼紫に何度も京都へ帰ったらと提案したのは他でもない武尊なのだ。
それでも知った人が自分から離れていくという事に武尊は寂しさを覚えた。
それは斎藤との別れも近いという事だからだろうか。
そういう気持ちが『え?』という先程の一言に現れていた。
「今日都鳥を見た。この時期隅田川に渡ってくる鳥だ。だが平年よりかなり見かけるのが早い・・すなわち寒波が来るのが早いという事だ。」
「そっか・・・それなら土が凍るのも早いってことだよね・・・。」
武尊は蒼紫が早めに帰る理由がすぐ分かった。
「嗚呼・・・。」
「・・・連れて帰ってあげるんだったもんね。」
武尊は蒼紫を、いや、蒼紫の周りに今もいるだろう四人の魂を想像して周囲を見た。
そう思って見ると何となく気配があるようなないような・・・。
蒼紫の御頭としての優しさが蒼紫の後ろ姿からあふれ出ているような感じがしてフッと微笑んだ。
「蒼紫・・・京都からいろいろありがとう。気を付けて帰ってね・・・翁さんや皆さんによろしく伝えて下さい。」
「嗚呼・・・。」
そう返事をしながら蒼紫は柔らかな武尊の口調に振り向いた。
目に映る武尊の姿。
「・・・・。」
何か言葉を、と思う蒼紫だったが適当な言葉が見つからなかった。
だがそう言えば昨日相楽に殴られた時背中を強打したという事を思い出した。
「傷の具合はどうだ・・・昨日の事で酷くなっていないか。」
自分がつけた傷、相楽の所為で悪化してはいないかと心配していた所でもあった。
「大丈夫ですよ、ちょっと痛むけど大した事ありませんから。傷もそのうちよくなりますから蒼紫はもう気にしないでください。」
心配そうな目で自分を見る蒼紫に武尊は大丈夫だと両手を振ってそう言った。
「そういう訳にはいかぬ。だが大事でないのなら良い・・・体を厭い早く治せよ。」
「蒼紫・・・。」
深い海のような静かな瞳。
いつも鋭い鷹のような眼をしているのに今武尊を見つめているのはそんな瞳。
こんな眼をする人だったんだと武尊は一瞬その瞳に見入ってしまった。
「京都に戻って来たなら葵屋へ寄れ。比古清十郎の所へ戻る前にゆっくりしていくがいい。翁や皆も喜ぶだろう。」
「ありがとう、その口調じゃ蒼紫もすっかり葵屋の若旦那様だね。」
ははっと笑う武尊を蒼紫は少し困ったような顔で見ていた。
そしてまた窓の下へと視線をやり、はっとすると武尊に、
「斎藤が来た・・・俺は行かねば。」
ドアの方へ向かう蒼紫に武尊は最後に一言呼びかけた。
「蒼紫。」
武尊の言葉に今一度蒼紫は振り向いた。
「友になってくれてありがとう・・・私にとって蒼紫は初めての友・・・嬉しかった。」
「・・・嗚呼、俺も武尊が初めての友だ・・・何かあれば俺を頼れ、力になる。」
「ありがとう。でもまだ帰るまでに日にちがあるのだったらまた会えるかも。」
例えそれが社交辞令だとしてもそう言ってくれるだけで嬉しいと武尊は思った。
「そうだな。是非会いたいものだ。」
蒼紫は武尊と別れるのを名残惜しそうにしながら、かと言って斎藤と顔を合わせる気もなく、静かな風のように出て行った。