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159.北へ向かうあなたへ (夢主・外国人紳士)
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武尊が近くまで行くと何処からか音楽が聞こえてきた。
(この音・・オルガンだ・・・。)
久しぶりに音らしい音を聞き、誘われるように教会に辿り着いた武尊は開いていた入口からそっと中を覗いた。
最奥には白いマリア像、その右にオルガンを弾いている初老のおじさんと彼を取り巻いて数人の外国人女性がいた。
(この曲・・・アヴェマリアだ・・。)
キリスト教信者でない武尊でも少しは聞き覚えのあるそのメロディ。
懐かしさと音の美しさに聞きほれていると武尊は肩を叩かれてはっとした。
しまったと構えをとりながらその方を振り向くとオレンジ色の髪のおばさんだった。
慌てて構えを解いたのはいいが、今度は向こうのほうから何やらまくし立ててきた。
それに気が付いてオルガンを囲んでいた御夫人方が武尊の方に向かって来た。
(いやはやまいったなぁ・・。もっとオルガンを聞きたかったんだけど・・・。)
とりあえず部外者は自分の方で何でもありませんというジェスチャーの為に両手を細かく振る武尊だったがすっかり異国の女性達囲まれてしまった。
「怪しいものではありません。(って分からないだろうな・・こう言っても、あっちも英語じゃないからわかんないや・・困った・・。)」
と、武尊が本当に困ったと思った時、
「アナタハ!」
と、男の大きな声がして一斉に御夫人方が振り返った。
その声の主は先ほどのオルガン演奏者だった。
こちらに近寄って来た彼に御夫人方が道を開けると彼は武尊を抱きしめ背中とポンポン叩いた。
(え・・ええっ??)
驚きのあまり立んぼうの武尊は親しい外人などいないと思ったがそのあごひげは若しかして・・と心あたりを掴んだ。
「あの時のカフェおじさん!?」
武尊は多分あの時のおじさんだろうと思ったが以前に会ったのは築地、でもここは横浜、予想外の出来事にそこまで想像力が及ばなかった。
彼は周りの御夫人方に何か言うと、みんな納得して警戒を解いてくれた。
最初に武尊を発見した人なんかは笑顔で武尊の肩まで叩いてくれた。
「・・ありがとうございます、助かりました。何て言ったんですか?」
「ナニ、タイシタコトデハアリマセン。ワタシノトモダチダトイッタダケデス。ソレニシテモオドロキマシタ。」
「私もです。」
「ミンナニホンノケイカンアマリスキデハナーイ。デモモウシンパイナーイ。」
「すみません、驚かせてしまって・・あの・・お邪魔でしょうか。」
「イエ、ダイジョウブ。キョウハウタノレンシュウダケ、モウスグオワル。アナタハドウシテココニ?」
「あの・・・オルガンが綺麗な音だったので・・つい足がこちらに向きました。」
「ソウデスカ、ドウゾ、ヨケレバモットチカクデキイテイッテ、サアコチラニ。」
「ありがとうございます。」
武尊は軽く会釈をすると、彼の後をついて行ってオルガンからちょっと離れた所に立たせてもらった。
それから10分ほど経っただろうか、何度も繰り返し聞いていると歌詞もだいぶ覚えてきた武尊はつい、口ずさんでしまった。
オルガンの音が少し経って・・・止まった。
耳の良い音楽家は小さな武尊の声をしっかりとらえていた。
「タケル!スバラシイコエ!モウイチド!」
「え?(聞こえてた?小さい声に抑えてたんだけど・・。)」
でも・・・と、武尊の心に自分を解放したい欲求がむずむずと湧きあがってきた。
歌う事は嫌いじゃない、むしろ好きな歌は風呂場でよく口ずさんでいたほど。
それに歌う自分は十六夜丸としての過去を背負わない自由な自分、そういう思いもあった。
少しの間悩んだ武尊だったが一歩前へ踏み出すと音楽家に目で合図をした。
音楽家は一度頷いてオルガンを弾き始めた。
「Ave Maria・・・
透き通るようなソプラノ。
武尊の声が教会内に響くと、音楽家も含め、御夫人方はマリア像の頭上から一筋の光が空高くから差し込んだ錯覚を見てしまったほどだ。
gratia plena
Dominus tecum
benedicta tu in mulieribus,
et benedictus fructus ventris tui Jesus.
Sancta Maria mater Dei,
ora pro nobis peccatoribus,
nunc, et in hora mortis nostrae.
・・・ Amen. 」
曲が終わった時、武尊以外は感動で動けなかった。
(え?あれ?どうしちゃったのかな、やっぱ下手くそ、というか耳コピだったから何言ってるのか分からなかったのかな?)
と、思うと恥ずかしさがこみあげてきた武尊だったがそれ以上に思いっきり声を出して【超】すっきりしていた。
それくらいのタイムラグの後、沢山の拍手が沸き起こった。
(え?)
音楽家のおじさんが立ち上がって武尊のところにやってきて武尊を抱きしめた。
面食らう武尊だったが、おじさんは、
「ブラボゥ!スバラシイ!」
と言って大感激のようだった。
「ゼヒ、ニチヨウビノミサ、ソロデウタッテクダサーイ!」
「おじさん、私は・・あの・・・。」
褒められて少しは嬉しい武尊だったが、そんなミサでいきなりソロで歌えだなんて無理・・というかすみませんと言おうとした矢先、先ほどの御夫人・・武尊が最初に見つかった御夫人が教会の入り口で白い布らしきものを広げているのが目に入った。
(あれは・・・!?)
武尊はおじさんの腕をすり抜け、その御夫人の元に走った。
そしてそれを見せて下さいと手振りで一生懸命アピールした。
そのおばさんも武尊の先ほどの声に感動した人だったので言葉は通じなくとも武尊の言わんとすることを理解してくれて手に持っていたものを武尊に渡して見せた。
(これ・・・ってマフラーかな、ウールだ!明治初期に毛織物って日本にあったっけ・・?いや、まてよ、この手触り・・・・これってカシミヤだ!!このサイズなら制服の上でも下でも邪魔にならない・・・。)
武尊は斎藤に送る品はこれしかないと思った。
「こ、これ、どうしたんです?」
武尊が辺りを見回すと他にも幾つもカバンがあり、その中から衣服がちらほらとはみ出ている。
「コレハニチヨウビノ チャリティーバザーノダシモノデース。ソレガオキニイリデスカ?デハトクベツタケルノタメニトッテオクヨウニオネガイシテミマショウカ?」
「すみません、これ、今買えませんか?・・・御無理を言ってるのは分かってます、でも日曜じゃ間に合わないんです、私の・・・・私の大事な人が・・・。」
と、言って武尊はのどを詰まらせた。
目の前に斎藤の姿が浮かぶ。
「・・大事な人が・・遠い所に行ってしまうんです・・・。」
と、武尊は急に感情が込み上げてきて涙をポロポロこぼした。
「あの人にこれをあげたいんです、寒い北国に行ってしまうあの人に・・・・日曜じゃ船が出た後・・・うっうぅ・・。」
泣き落としの為に泣いているわけじゃないとは思いつつも武尊の目からは涙があふれた。
音楽家は黙って武尊を見ていたが武尊の肩を静かに叩き言った。
「ワカリマシタ、ワタシカラモ オネガイシテミマショウ。」
音楽家のお蔭で武尊は白いマフラーを手に入れることが出来た、もちろん日曜日に歌う約束をして。
それから二円金貨を寄付をした。
武尊は教会にいた皆に礼を言うとその場を後にした。
他の人に取られては大変と、サラシと制服の間にマフラーを忍ばせて、その後適当な風呂敷を買い洋館には戻らずに横浜駅で斎藤を待った。
2104. 7. 25
(この音・・オルガンだ・・・。)
久しぶりに音らしい音を聞き、誘われるように教会に辿り着いた武尊は開いていた入口からそっと中を覗いた。
最奥には白いマリア像、その右にオルガンを弾いている初老のおじさんと彼を取り巻いて数人の外国人女性がいた。
(この曲・・・アヴェマリアだ・・。)
キリスト教信者でない武尊でも少しは聞き覚えのあるそのメロディ。
懐かしさと音の美しさに聞きほれていると武尊は肩を叩かれてはっとした。
しまったと構えをとりながらその方を振り向くとオレンジ色の髪のおばさんだった。
慌てて構えを解いたのはいいが、今度は向こうのほうから何やらまくし立ててきた。
それに気が付いてオルガンを囲んでいた御夫人方が武尊の方に向かって来た。
(いやはやまいったなぁ・・。もっとオルガンを聞きたかったんだけど・・・。)
とりあえず部外者は自分の方で何でもありませんというジェスチャーの為に両手を細かく振る武尊だったがすっかり異国の女性達囲まれてしまった。
「怪しいものではありません。(って分からないだろうな・・こう言っても、あっちも英語じゃないからわかんないや・・困った・・。)」
と、武尊が本当に困ったと思った時、
「アナタハ!」
と、男の大きな声がして一斉に御夫人方が振り返った。
その声の主は先ほどのオルガン演奏者だった。
こちらに近寄って来た彼に御夫人方が道を開けると彼は武尊を抱きしめ背中とポンポン叩いた。
(え・・ええっ??)
驚きのあまり立んぼうの武尊は親しい外人などいないと思ったがそのあごひげは若しかして・・と心あたりを掴んだ。
「あの時のカフェおじさん!?」
武尊は多分あの時のおじさんだろうと思ったが以前に会ったのは築地、でもここは横浜、予想外の出来事にそこまで想像力が及ばなかった。
彼は周りの御夫人方に何か言うと、みんな納得して警戒を解いてくれた。
最初に武尊を発見した人なんかは笑顔で武尊の肩まで叩いてくれた。
「・・ありがとうございます、助かりました。何て言ったんですか?」
「ナニ、タイシタコトデハアリマセン。ワタシノトモダチダトイッタダケデス。ソレニシテモオドロキマシタ。」
「私もです。」
「ミンナニホンノケイカンアマリスキデハナーイ。デモモウシンパイナーイ。」
「すみません、驚かせてしまって・・あの・・お邪魔でしょうか。」
「イエ、ダイジョウブ。キョウハウタノレンシュウダケ、モウスグオワル。アナタハドウシテココニ?」
「あの・・・オルガンが綺麗な音だったので・・つい足がこちらに向きました。」
「ソウデスカ、ドウゾ、ヨケレバモットチカクデキイテイッテ、サアコチラニ。」
「ありがとうございます。」
武尊は軽く会釈をすると、彼の後をついて行ってオルガンからちょっと離れた所に立たせてもらった。
それから10分ほど経っただろうか、何度も繰り返し聞いていると歌詞もだいぶ覚えてきた武尊はつい、口ずさんでしまった。
オルガンの音が少し経って・・・止まった。
耳の良い音楽家は小さな武尊の声をしっかりとらえていた。
「タケル!スバラシイコエ!モウイチド!」
「え?(聞こえてた?小さい声に抑えてたんだけど・・。)」
でも・・・と、武尊の心に自分を解放したい欲求がむずむずと湧きあがってきた。
歌う事は嫌いじゃない、むしろ好きな歌は風呂場でよく口ずさんでいたほど。
それに歌う自分は十六夜丸としての過去を背負わない自由な自分、そういう思いもあった。
少しの間悩んだ武尊だったが一歩前へ踏み出すと音楽家に目で合図をした。
音楽家は一度頷いてオルガンを弾き始めた。
「Ave Maria・・・
透き通るようなソプラノ。
武尊の声が教会内に響くと、音楽家も含め、御夫人方はマリア像の頭上から一筋の光が空高くから差し込んだ錯覚を見てしまったほどだ。
gratia plena
Dominus tecum
benedicta tu in mulieribus,
et benedictus fructus ventris tui Jesus.
Sancta Maria mater Dei,
ora pro nobis peccatoribus,
nunc, et in hora mortis nostrae.
・・・ Amen. 」
曲が終わった時、武尊以外は感動で動けなかった。
(え?あれ?どうしちゃったのかな、やっぱ下手くそ、というか耳コピだったから何言ってるのか分からなかったのかな?)
と、思うと恥ずかしさがこみあげてきた武尊だったがそれ以上に思いっきり声を出して【超】すっきりしていた。
それくらいのタイムラグの後、沢山の拍手が沸き起こった。
(え?)
音楽家のおじさんが立ち上がって武尊のところにやってきて武尊を抱きしめた。
面食らう武尊だったが、おじさんは、
「ブラボゥ!スバラシイ!」
と言って大感激のようだった。
「ゼヒ、ニチヨウビノミサ、ソロデウタッテクダサーイ!」
「おじさん、私は・・あの・・・。」
褒められて少しは嬉しい武尊だったが、そんなミサでいきなりソロで歌えだなんて無理・・というかすみませんと言おうとした矢先、先ほどの御夫人・・武尊が最初に見つかった御夫人が教会の入り口で白い布らしきものを広げているのが目に入った。
(あれは・・・!?)
武尊はおじさんの腕をすり抜け、その御夫人の元に走った。
そしてそれを見せて下さいと手振りで一生懸命アピールした。
そのおばさんも武尊の先ほどの声に感動した人だったので言葉は通じなくとも武尊の言わんとすることを理解してくれて手に持っていたものを武尊に渡して見せた。
(これ・・・ってマフラーかな、ウールだ!明治初期に毛織物って日本にあったっけ・・?いや、まてよ、この手触り・・・・これってカシミヤだ!!このサイズなら制服の上でも下でも邪魔にならない・・・。)
武尊は斎藤に送る品はこれしかないと思った。
「こ、これ、どうしたんです?」
武尊が辺りを見回すと他にも幾つもカバンがあり、その中から衣服がちらほらとはみ出ている。
「コレハニチヨウビノ チャリティーバザーノダシモノデース。ソレガオキニイリデスカ?デハトクベツタケルノタメニトッテオクヨウニオネガイシテミマショウカ?」
「すみません、これ、今買えませんか?・・・御無理を言ってるのは分かってます、でも日曜じゃ間に合わないんです、私の・・・・私の大事な人が・・・。」
と、言って武尊はのどを詰まらせた。
目の前に斎藤の姿が浮かぶ。
「・・大事な人が・・遠い所に行ってしまうんです・・・。」
と、武尊は急に感情が込み上げてきて涙をポロポロこぼした。
「あの人にこれをあげたいんです、寒い北国に行ってしまうあの人に・・・・日曜じゃ船が出た後・・・うっうぅ・・。」
泣き落としの為に泣いているわけじゃないとは思いつつも武尊の目からは涙があふれた。
音楽家は黙って武尊を見ていたが武尊の肩を静かに叩き言った。
「ワカリマシタ、ワタシカラモ オネガイシテミマショウ。」
音楽家のお蔭で武尊は白いマフラーを手に入れることが出来た、もちろん日曜日に歌う約束をして。
それから二円金貨を寄付をした。
武尊は教会にいた皆に礼を言うとその場を後にした。
他の人に取られては大変と、サラシと制服の間にマフラーを忍ばせて、その後適当な風呂敷を買い洋館には戻らずに横浜駅で斎藤を待った。
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