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156.記憶の刻印(8) (斎藤・夢主)
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(雨・・・。そう、目を瞑れば今もはっきりと思い出せるあの夜。)
武尊は激しく窓を叩く雨音に遠い昔を思い出した。
斎藤も然り。
「食事の時にはまさかこんな事になるなんて思ってもいなかった・・。」
「全くだ。あの時は十六夜丸が女だとは思っていなかったからな。」
「・・・。」
「だが・・・武尊が女で良かった。今は真にそう思う。」
「ちなみに・・男だったらどうなっていたの?」
「さあな・・そこまで考えてもいなかったな。それにたかが御猪口二杯であれほど酔っぱらうとは思ってもいなかったし雨が降っていなければ武尊の後をつけて正体を暴こうと思っていたからな。」
「・・・。」
今初めて聞いた当時の裏話を知り驚きながらも武尊はふと考えた。
もし、あの晩滝のような豪雨が降ってこなければ、今の自分達の運命も変わっていただろう。
それ以前にあの甘味処に行った日が一日、いや、一時間でもずれていたらお互い出会う事すらなかったかもしれない。
だが・・・実際、二人は出会った。
「何故・・・(こんな生まれの私にこんな運命が・・・。)」
言葉の後半は口には出さなかったが膝を抱えて呟いた武尊の目元に薄ら涙が滲んだ。
自分は人間として異物だ。
しかもどういう理由か時代をさかのぼって少なからず歴史に関わった。
間違いなく時の異物でもある自分の存在。
何故神様はこんな自分の存在を許しているのか、その理由が知りたい武尊だった。
作り物の人間なら機械のように感情を持たなければよかった。
武尊はそう思ったがすぐにその気持ちを否定した。
斎藤の傍にいるだけで感じる強く生きる意志、熱い心。
揺らぐことのない強い気が武尊に流れ込んで冷えた心を包んでいく。
(一・・・。)
だがどんなに心が一つになろうとも、共にいられない運命にあるというのなら何故自分達は出会い、恋になど落ちたのだろう、何故愛したのだろう。
こうやって二人きりでいられることが夢だというのなら、この夢が覚めた時はどんな思いが待っているのだろう。
そう考えると切ない想いで胸がいっぱいになる武尊だった。
その上確実に訪れる別れの日の数日後を考えるとどうしても目頭が熱くなった。
(わかってる、わかってる・・・。)
武尊はそう自分に言い聞かせ、スン、と鼻をすすると斎藤の片手がそっと武尊の肩を抱いて引き寄せた。
「どんな縁だか運命だか知らんが俺達はただ精一杯時代を駆け抜けるだけだ。この先互いが違う道を歩もうともな。そうだろ武尊。」
そして斎藤は今一度ぐっと武尊を抱く肩に力を入れた。
「だが、この生涯を終えた時、藤田五郎としての人生を終えた時、すべてのしがらみから解放されたその時は武尊・・・必ずお前を迎えに行く。何、今生の別れなど後から振り返れば・・・あっという間に過ぎたと思うもんだ。」
その声は優しく力強かった。
武尊は黙って涙をぽろぽろとこぼした。
死んでも尚自分を願ってくれる、そんな斎藤の心が武尊には十分に嬉しかった。
「ただ泣き虫なのが・・・心配だな。」
斎藤は武尊にフッと微笑み指で涙を救った。
「それと俺の北海道赴任に伴って一つだけ心残りがある・・それは武尊を狙う奴等の正体が突き止められなかった事だ。守ってやれなくてすまない・・。」
武尊は自分の目の前の斎藤の指を握り締めた。
「大丈夫・・・心配しないで・・・。一が私の事に気を取られて仕事に支障が出てはいけない・・・。」
そうだ、泣いている暇などないのだ。
斎藤に心配なんかかけさせられない。
自分がやるべきことははっきりしているのだ。
「恐らくあいつらは元長州藩関係だ。抜刀斎のくだらん話が終われば出来るだけ早く東京を離れた方がいい。」
「分かった・・・。」
「死ぬなよ。」
「一・・・。」
「武尊・・。」
斎藤は武尊を抱きしめた。
願わくば時がこのまま止まればいいと思うほどに・・・。
武尊は激しく窓を叩く雨音に遠い昔を思い出した。
斎藤も然り。
「食事の時にはまさかこんな事になるなんて思ってもいなかった・・。」
「全くだ。あの時は十六夜丸が女だとは思っていなかったからな。」
「・・・。」
「だが・・・武尊が女で良かった。今は真にそう思う。」
「ちなみに・・男だったらどうなっていたの?」
「さあな・・そこまで考えてもいなかったな。それにたかが御猪口二杯であれほど酔っぱらうとは思ってもいなかったし雨が降っていなければ武尊の後をつけて正体を暴こうと思っていたからな。」
「・・・。」
今初めて聞いた当時の裏話を知り驚きながらも武尊はふと考えた。
もし、あの晩滝のような豪雨が降ってこなければ、今の自分達の運命も変わっていただろう。
それ以前にあの甘味処に行った日が一日、いや、一時間でもずれていたらお互い出会う事すらなかったかもしれない。
だが・・・実際、二人は出会った。
「何故・・・(こんな生まれの私にこんな運命が・・・。)」
言葉の後半は口には出さなかったが膝を抱えて呟いた武尊の目元に薄ら涙が滲んだ。
自分は人間として異物だ。
しかもどういう理由か時代をさかのぼって少なからず歴史に関わった。
間違いなく時の異物でもある自分の存在。
何故神様はこんな自分の存在を許しているのか、その理由が知りたい武尊だった。
作り物の人間なら機械のように感情を持たなければよかった。
武尊はそう思ったがすぐにその気持ちを否定した。
斎藤の傍にいるだけで感じる強く生きる意志、熱い心。
揺らぐことのない強い気が武尊に流れ込んで冷えた心を包んでいく。
(一・・・。)
だがどんなに心が一つになろうとも、共にいられない運命にあるというのなら何故自分達は出会い、恋になど落ちたのだろう、何故愛したのだろう。
こうやって二人きりでいられることが夢だというのなら、この夢が覚めた時はどんな思いが待っているのだろう。
そう考えると切ない想いで胸がいっぱいになる武尊だった。
その上確実に訪れる別れの日の数日後を考えるとどうしても目頭が熱くなった。
(わかってる、わかってる・・・。)
武尊はそう自分に言い聞かせ、スン、と鼻をすすると斎藤の片手がそっと武尊の肩を抱いて引き寄せた。
「どんな縁だか運命だか知らんが俺達はただ精一杯時代を駆け抜けるだけだ。この先互いが違う道を歩もうともな。そうだろ武尊。」
そして斎藤は今一度ぐっと武尊を抱く肩に力を入れた。
「だが、この生涯を終えた時、藤田五郎としての人生を終えた時、すべてのしがらみから解放されたその時は武尊・・・必ずお前を迎えに行く。何、今生の別れなど後から振り返れば・・・あっという間に過ぎたと思うもんだ。」
その声は優しく力強かった。
武尊は黙って涙をぽろぽろとこぼした。
死んでも尚自分を願ってくれる、そんな斎藤の心が武尊には十分に嬉しかった。
「ただ泣き虫なのが・・・心配だな。」
斎藤は武尊にフッと微笑み指で涙を救った。
「それと俺の北海道赴任に伴って一つだけ心残りがある・・それは武尊を狙う奴等の正体が突き止められなかった事だ。守ってやれなくてすまない・・。」
武尊は自分の目の前の斎藤の指を握り締めた。
「大丈夫・・・心配しないで・・・。一が私の事に気を取られて仕事に支障が出てはいけない・・・。」
そうだ、泣いている暇などないのだ。
斎藤に心配なんかかけさせられない。
自分がやるべきことははっきりしているのだ。
「恐らくあいつらは元長州藩関係だ。抜刀斎のくだらん話が終われば出来るだけ早く東京を離れた方がいい。」
「分かった・・・。」
「死ぬなよ。」
「一・・・。」
「武尊・・。」
斎藤は武尊を抱きしめた。
願わくば時がこのまま止まればいいと思うほどに・・・。