ヒプノシスマイク
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日間賀島 ※未完
幼馴染兼腐れ縁の伊弉冉一二三の突飛な発言と行動に振り回されるのには慣れていた。
抵抗虚しく、事の結果が大抵は自分に不幸として降りかかる事が多く、月日を重ねるごとに抵抗の力は衰え、今では昔に比べたら流されるばかりの日々である。
売り言葉に買い言葉よろしく、一二三と友達になる前に戻って、選択をやり直したい。
そうキツイ言葉を投げつけても、彼は「独歩は俺がいなくなったら友達ゼロになっちゃうじゃんかよ」と、けらけらと笑いながら指をさすだけだ。
何度でも繰り返されるこのやり取りは、既に二人の中でお約束となってしまっており、行き場のない苛立ちを、分かっていても繰り返し湧き立たせては持て余すばかりである。
何より一番困るのは、そんな彼とのやり取りを――――嫌だと思っていない自分がいることなのである。
「……にしたってこれは急すぎるだろ」
「でも独歩どうせ予定なんてなかっただろ~~?いいじゃんちょっとしたバカンスだと思えば!」
ゴオオ、と野太い音を立てて海を割り進む一隻の船。
ゆらゆらと左右に揺れるそれは速度を上げ、白波と泡を海面に起こして水平線を目指し進んでいく。
次第に遠く小さくなるかの港、師崎(もろざき)港を先ほど出発したばかりの白いその船に、独歩とその友人一二三は乗船していた。
事はこの突飛な友人らしいもので、此度も独歩は有無を言わさず巻き込まれる形で始まった。
双方一人暮らしということで、互いの家を自由に行き来する事が多く(ほとんど一二三が独歩の家に上がり込む形であるのだが)そのきっかけの日も、一二三が独歩の家に遊びに来ている時であった。
連日の終電帰宅、休日出勤が重なり、心身ともに疲弊の極みに達していた独歩は、もはや友人が自室で何をしていても気にするだけの体力は残っておらず、テンションの高い彼の声は全て左から右へと聞き流され、適当な相槌を打つので精いっぱいだった。
言葉の終わりのイントネーションで、疑問形で話しかけられていることだけは分かっていたが、内容を精査出来るほどの働きは、脳がすでに拒絶していた。
うん、うん、うん。
全てに適当な肯定の意を投げたことが、結果として今日の事を招いたことは独歩が一番よくわかっている。
友人、伊弉冉一二三は「日間賀島への観光旅行」を提案していたのだった。そして現在に戻る。
幸い、一二三が提案した日付周辺に大きな案件はなく、自宅へ持ち帰るほどの仕事量もなく、この週末は珍しくフルに休む事が出来る予定であった。
一方、一二三の働くホストクラブも店内の改装があるらしく、今週の頭から一週間だけ休店となっているようで、週末の休みが二人一致するという珍しい現象が起こっていたのである。
だからこうして二人で遠出することそのものは、独歩も悪い気はしなかった。
色々と計画を立てて提案していた一二三に、適当な返事をしたことを悪いと思う気持ちはあったが、約束を破るような結果にならずによかったと今では思っている。
――――思っては、いるのだが。
「大体なんで日間賀島なんだよ…このあたり行くなら普通、佐久島とかじゃないのか?」
「え。独歩アートとかに興味あんの?」
ない。ないけれども。
愛知県の南部、太平洋に浮かぶ日間賀島、佐久島、篠島は日帰りできる島として最近人気が出ている観光地である。
その中でも特に“佐久島”は特に観光誘致に力を入れており、島のあちこちに大きなオブジェやアート作品を設置し、おしゃれ好きな若者をターゲットとした活動が盛んである事を部内で耳にしたことがある。
関東に住んでいる周囲に、愛知県まで日帰りで出かけたという話は聞かないが、ニュースなどで取り上げられる情報に、いわゆるSNS映えという言葉が飛び交うこともあってか、営業職の独歩の記憶にはしっかりと残っている島である。
しかし今回一二三が手配したのはその佐久島ではなく“日間賀島”であった。
日帰りできる島というのが売り文句のその島に、宿泊を兼ねて関東から行く人間はおそらく自分達だけだろう。
船に乗る他の客を見渡してみても、みな小さな鞄を持っている程度で、宿泊を予定している人間はほぼいないと推測される。
「日間賀島って……何があるんだ?」
「確かタコが有名なんだぜ!で、そのタコをせんべいにするとかって、町中に開いたタコが干してあるんだってさ!」
「…………タコ」
タコ。蛸。タコの旬は確か夏だ。
旬だからといって買って食べたいと心を寄せることは少ないであろうその食品に、珍しく己の喉は期待に鳴った。
「(きっと新鮮なものは食感とか違うんだろうな…)」
職場と自宅との往復ばかりの、都会のコンクリートジャングルでは味わうことが難しい“本場の味”に思いを馳せる。
独歩とその幼馴染を乗せた船はほどなくして日間賀島の西港へと到着したのであった。
ぞろぞろと船を下りる客の中には釣り具を持っている者も多い。
釣りが好きな幼馴染を見やれば、興味津々にその様子を眺めていた。
大きな声を出し、目を輝かせるその姿は小学生のようで、所構わず釣り人に声をかけに行くのではないかと独歩は内心冷や冷やする。
しかしその焦りでさえ、ワクワクといった胸の高鳴りを含んでいるのは、観光地効果なのであろうか。嫌な気はしない。
結局、我慢しきれず一二三は近くにいた男に声をかけた。
釣り人曰く、この時期だとタコ以外にも、チヌ――――クロダイなども狙えるらしい。
人気のあるクロダイを釣ることができると知った一二三の目は一層輝いたが、如何せん用意をしていない東京人二人ではどうすることもできない。
「また来たらいいだろ」―――肩を落とす幼馴染を見かねてかけた言葉は、自分でも驚くほど前向きな響きを放っていた。
西港すぐに広がる、日間賀島の観光入り口。
フェリー乗り場を出てすぐに目に入ったのは「タコ料理」ののぼりのアーチだった。
時刻はおあつらえ向きの正午前。昼食には少し早いかもしれないが、混む前に食べてしまったほうがいいのかもしれない。
フェリーから降りた客たちは海を眺めて足を止めている、その様子を見て、独歩は一二三へ声をかけた。
「先に昼食にしないか。思ったより客が多くて混むかもしれないからな」
「そうだな~。あ、俺っちあの店気になるかも……あ…やっぱ無理」
一二三が指刺した先には、いわゆるインスタ映え必至なカフェがあった。
生成り色のコンクリートの壁に、木製のテラス。
大きなガラス張りのウィンドウで中を開放的に見せており、軒先の黒板が小洒落た雰囲気を醸し出している。
ヴィンテージ調の木の板を貼り合わせて作ったらしいドアの向こうにある冷蔵ケースには、瑞々しいオレンジやグレープフルーツの果実玉が並んでおり、生絞りジュース―――あるいはアルコール割りとやらがこの店の一押しのようであった。
爽やかな初夏を過ぎ、し烈な夏へ差し掛かるこの時期は体がバテやすい。加えて久々の遠出。
そんな疲労感もあってか、瑞々しい果実の誘いに独歩の目は酷く引き付けられた―――のだが。
「……まあ、無理そうだな。レジ担当女性っぽいし、店内も女性が多そうだ」
「ど、独歩が買ってきてくれるとかでもいいんだぜ」
「その間お前ひとりで待ってるとか無理だろ…」
ひとり。その言葉に一二三は一瞬にして白い顔を青くさせた。
日間賀島を訪れている観光客は家族連れが多いものの、中には女性だけの集団もある。
普段はホストという職業についているだけあって、整った顔立ちをしている一二三の外見や雰囲気では、開放的なこの空間で、声をかけられないとも限らない。
極度の女性恐怖症を患っているこの幼馴染は、例え敵意も害意もない相手であっても、それが女の性を持っているだけで動けなくなるほど恐怖に支配されてしまう。
その状態を引き起こしかねない事象を実行することや、ましてやひとりで彼を放っておけるほど、独歩自身は冷たい人間ではない。
彼の奔放な発言・行動に振り回されて不利益を被ることばかりが目立つが、それでも一二三は独歩にとっては大切な友人であることに変わりはないのだから。
独歩は小さくため息をついて、カフェの先の小料理店を指さした。
一二三の視線が動き、女性の気配で曇っていた瞳が光を取り戻す。大きく開かれた金色の瞳に「たこ料理」の文字が反射した。
「あそこにしよう。…あそこなら多分、大丈夫だろ」
軒先に出ている海をイメージさせる青色ののぼり。
大きく書かれたたこ料理の文字を頼りに、二人はその小料理屋へと入っていったのだった。
お世辞にもお洒落とは言い難い、小さな木造の小料理屋。
潮風に風化する深茶の木の格子。その間にはめ込まれたすりガラスには観光連盟のステッカーや何らか団体の共通シールなどが貼られている。
どれも端が捲れていたり、色が剥げていたりと、ありがちな様子で独歩たちを出迎えた。
麻か綿か、いずれにせよざらりとした感触の使い古された暖簾を抜けたその先、床一面に広がる正方形のタイルが目に入った。
店の目の前は港。釣り客も多いのだろう。
まるで海のそばの旅館のような出で立ちは、かつて家族で出かけた海水浴での光景を思い出させた。
店内はこじんまりとしているが、すでに客でにぎわっている。
唯一空いていた奥の席に案内されるのだろうと、予測を立てたところで、腰の曲がった老婆が人のいい笑顔を携えて二人の前へとやってきた。
「いらっしゃいませ。二名さま?」
柔らかくゆったりとした問いかけに、独歩ははいと答える。
想像通り、奥の席へと案内され、老婆は緩慢とした動きでお品書きとお茶、おしぼりとを運んできてくれた。
冷たく冷えたおしぼりを受け取り、小さく礼を言えば、気を良くしたらしい老婆は一言二言、この島の特徴を口にする。
この時期に獲れる魚、最近の天候、気温。
ぽつぽつと語られるそれはお決まりの文句なのだろう、簡潔明瞭。的を得た言葉で淡々とした響きがある。
けれども、言葉の端端にこの島を慈しむ老婆の心根が感じられた。
都会人には、他愛もない地元住民の話というものが新鮮で、自分でも無意識の内に目が関心に開かれている。
もう少し話を聞いてみたかったが、満席となった店内は賑やかだった。口を開く一二三を制し、話を切り上げさせる。
申し訳なさそうに頭を下げ、老婆は厨房へと戻っていく。賑やかな店内を一人で取り仕切るには、あまりにも小さな背中だった。
日常的に外食する習慣はあるが、注文はチケット、水・おしぼりといったサービスはセルフサービスであることが多い。
店員も、仕事終わりの独歩が行くような時間帯は日本人の店員は少なく、外国人労働者が多い印象だ。
こうした会話が発生する飲食店というのは久しぶりに訪れた気がする。
正直なところ、仕事で疲れきっており人と話す気力など残っていないので、その無機質さが心地よくはあったのだが、本来の飲食店とはこういうやり取りがあるものだということを、新鮮な気持ちで眺めていた。
人と話す事が仕事である一二三には分からないかもしれない。
そう思うと、この些細な気づきを口にするのは憚られ、独歩は胸に灯ったちいさなそれを、瞬き一つ――――ひとり、秘め隠した。
少しして運ばれてくる二つの盆。細い腕に器用に乗せられたそれを受け取ると、視界に広がったたこ料理の数々に目が輝いた。
すげーうまそう!
一二三の飾らないその言葉に大きく頷くと、厨房へと戻る小さな背中が微かに振り向いていた。
たこの刺身にたこぶつ。島でとれたものだろうか、ゆでられたわかめと赤い色をした海藻が添えられ、淡色の醤油がゆらゆらと揺れている。
一人用の小さなお櫃を開けると、蒸気とともに上がる磯の香り。
薄茶色に色づき、誇らしげに立ち上がる炊きこまれた米のよい香りと、惜しみもなく入れ込まれたたこ身。
間違いなく、おいしいと確信した。
「いただきます」
新鮮なたこの引き締まった身。弾力。一歯入れる度に染み出てくる旨みに頬が緩んだ。
醤油を添えられているが、たこ本来の香りだけで十分食べられる。おいしい。
ちらりと隣のテーブルに目をやると、白く露を吹く大きなビールジョッキが目に入った。わかる。これは酒が欲しくなる味だ。
「美味いな、驚いた」
「な~!俺っちもこれだけ新鮮なたこは初めて食べるかも!」
たこ料理の他にも地元で獲れた海の幸を使った汁物も美味しく、どれも田舎らしいしっかりとした味付けで、汗をかいて疲れていた体にじわりとしみ込んでいく。
おいしい、おいしい、と普段割と小食である事を忘れ、独歩も一二三も日間賀島名産に舌鼓を打った。
惜しみなく盛られた量を結局ぺろりと平らげ、冷えた麦茶で喉を潤す。よく煮出された、少し芳ばしい苦みがちょうどよかった。
料理の感想を伝えたいとどこかで思ったが、相変わらず店内は賑わっている。小さな背中は忙しそうにくるくると店の中を行き来していた。
メニュー数が少なく回転の速いらしいこの店は、フェリー乗り場近くということもあり、集客がよいらしい。
擦りガラスの入り口の向こう、人の影が揺らめいていたから、おそらくは待ち客もいるのだろう。
「一二三、行こう」
本当はもう少し腹を休めていきたいが、混んでいる店内だ。迷惑にはなりたくない。
てきぱきと支度を進め、レジカウンターでまとめて支払う。あの小さな老婆がとことことやって来て、想像以上に手慣れた手つきでレジを叩いた。
「美味しかった。ごちそうさまでした」
感想をすかさず伝えると、皴いっぱいの細い目をさらに細まり「ありがとうねえ」と返って来た。
ああ、あたたかい。こんな些細なやり取りが、ひどく懐かしく、うれしく感じるだなどと。
「美味かったな~!あそこで正解!」
入り口を出た先、暗い店内から真っ青の空と白い砂浜とのコントラストに目がくらんだ。
刺すような日差しの鋭さにじくじく痛む目をゆっくりと開き、一二三の言葉に応えるべくその姿を探す。
コンクリートの防波堤の段差を行く幼馴染は、子供のように飛び跳ねて、海だ、砂浜だと、楽しそうにしている。
幼馴染の金の髪は光に透け、一層きらきらと輝いている―――常ならば、新宿の夜に輝く髪が、まるで違う光り方をするのに漠然とした不安を思った。
ああ、ここは新宿じゃあない――――ここは、ここには夏があるんだ。
その言葉が適切かどうかは測りかねた。しかし今の独歩に、それ以上の言葉は探せそうにない。
そのもどかしさに一縷の葛藤を感じながら、前を行く幼馴染の背中に「よかったな」と声をかけたのだった。
島は決して広くはない。
フェリーでたどり着いた西港から東港まではおよそ数キロ。
二人は島の観光マップを片手に、右回りで島を回ることに決めた。西港付近にある大きなタコのモニュメントを見る。
一緒に写真を撮ろうと騒ぐ一二三を押し退けかわしつつ、旅館街の前を進んでいく。
街の至る所にある案内看板のほとんどが手作りで、ぺったりと塗られたペンキ看板が、島の素朴な雰囲気をより盛り立てていた。
島を行きかう人々の足は原付バイクらしく、その誰もがヘルメットをかぶらない。
タンクトップにハーフパンツ、ビーチサンダル…絵に書いたような出で立ちで、たぱぱぱぱ…と走っていく住民達に思わず突っ込みが漏れた。
「長閑だな……」
海の音も少し遠い。
じりじりと焼けつくようなアスファルトの道を、見慣れない植物のアーチをくぐって進んでいく。
夏の草らしい、蔦を這わせる青々とした葉の生命力に圧倒される。
とはいえ、島自体にあまり緑が多い印象はなく、海辺から中央部へ移動すると森や林ではなく、密集した住宅街が広がっているようだ。
暑い日差しを避けるように、ノウゼンカズラの群集を往き、西港から島の北あたりへと移動した。
どうやらこのあたりは漁船の停留所らしい。繋がれた漁船がゆらゆらと波に船体を預けていた。
ふと、何かを見つけたらしい一二三が海へ向かって走り出す。大きな声を上げて、手を振った。
「独歩~!見ろよこれ、たこつぼ!」
「たこつぼ…?うわ、本当だ」
近づいてみると赤茶色の小さな壺が紐で繋げられている。一二三の説明によると、この壺を海へ投げ入れ、数日してから引き上げるらしい。
身を隠す習性のあるたこはこうした隠れ家となる壺に入り込み、また急いで逃げる事もないため、壺を用いた漁をするのだという。
「普通に釣りでも釣れるけどな。たこ釣りは道具が少なくて済むから楽ちんなんだぜ」
「そうなのか……詳しいな」
得意げに話す一二三を素直にすごいと思った。
独歩自身は特に趣味というものを持っていない。
小さな頃から一つに執着したり熱中するという事も特になく、当たり障りなく有り余った時間を流してきただけのように思う。
スポーツや旅行といったアウトドアな趣味があるわけでない。
読書やゲームといったインドアな趣味があるわけでない。
ただその場で誘われれば趣き、当たり障りなくその場にいる感じだ。特別、器用というわけでも、もちろんなく。
好きなこと。そしてその知識を持ち、熱く語れる一二三がひどく眩しく見えた。
「ところで一二三」
「ん?」
「お前が言ってた“タコせんべい”とやらはどこに干されてるんだ?名物という割には一度も見かけないぞ」
「あっれ~~~?そういやそうだな~」
手持ちの地図を広げてみる。
現在位置は西港から道なりに北にある漁船停留場。
日間賀島の特徴を記したその観光マップによると、この地域一帯にタコを開いて干した「タコせんべい」の光景が見られるはずなのだが、今のところそれはどこにも見当たらない。
じりじりと焼け付く夏の日差しで揺らぐ港の一角。その脇に立てられた木の柱とそれにくくられた紐―――は先ほどから幾度も目にしている。
無論、何かが干されているということはない。考えたくは、ないのだが。
「なあ一二三。あれ、せんべい干す棚じゃないのか」
「違うんじゃね~?だってせんべい干してないし!地図にこの辺りって書いてあったっけか~~?この辺りだな~おっかしいな~」
「……………おい見ろ『秋の風物詩です』って書いてあるぞ。この時期の名物じゃないのかよ!あるわけないだろ!!」
「う~わ、ホントだ!よく見てから言えよ独歩~!」
「お前だよ!!」
予感は的中するものだ。普段から周りばかり気にしているせいかもしれない。あまり役には立たないのだが。
結果的に、日間賀島で獲れたたこを開き、姿せんべいとして町中に干す風景は有名なのは事実である。
しかしその光景が見られる季節というのが秋から冬にかけてのようで、夏は漁に出るのがメインであるという。
今回の日間賀島の訪問の大きな目的が、そのたこせんべいの風景であったので(というか一二三がそれを推した)メインディッシュを逃したような脱力感が独歩を襲っている。
けれども、いつものように「(俺が勝手に期待したから…)」などと、卑屈な気持ちにはならなかった。
もちろん、その光景を楽しみにしていたのもあったのだが、もうここにたどり着く前にいくつかの「旅行の記録」が記されていたからに他ならない。
名物を食べたこと、島の人とのふれあい、幼馴染のいいところ…。その心地よい記憶が、独歩の心を穏やかに変えていた。
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独歩の前からある日姿を消した夢主と
この日間賀島旅行で再会して
「独歩くんには分からないよ」って突き放される話(25.12.18公開)