短編
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不倫の話 1話
かち、かち、とマウスを鳴らす。
目の前に映る白んだ映像は優しい音楽を奏で、幸せな男女の姿を浮かび上がらせた。
幼少期、少年期、青年期――――巡る軌跡がただただ目映い。
その断片的なひとつひとつを繋ぎ合わせたところで、リンはそっと停止ボタンを押した。
「―――校正は…13時半だった、よね?」
疲れの痺れに滲む目を転がしながらカレンダーを見れば、今日の日付に約束の時間。
深く腰掛けた椅子を軋ませ、疲れ目を隠すべく腕を被せた。真っ暗な視界の中、それでも浮かび上がる真っ白な映像達。
それは数週間後にここで結婚式を挙げる二人の映像ファイルであった。
結婚式を盛り上げる座興の一つ、ムービー演出。
リンは式場の奥、日の当たらぬ小さな小部屋でその製作にあたることが生業となっている。
ここ近年はソフトの品質向上もあり、プロに製作を依頼する件数は減少傾向であるのがネックであったが、それでもプロの技術があるとリンは自身の仕事に自信を持っている。
―――最高の舞台で、最高の演出を。
決して楽な仕事ではないが、その分深いやりがいを感じている。
元より人の為に何かをするという事を好む性格もあり、リンはこの仕事をとても好んでいたのであった。
「(今日の人はすごく気にしいだから…ちょっとやりにくいかもなあ…)」
顧客が思い描くイメージと自分の聞き取ったイメージを一致させることはとても難しい。
特に同性だからこそちょっとした事で不和を呼びかねない事をリンは経験から心得ている。
ぐるぐると色んな事を考えながら、紙コップのコーヒーを飲み干した頃。
内線コールで始まる、召集の伝達。
「遠坂さん、お客様がいらっしゃったようです。フロントまでお願いします」
「はーい、頑張ってきます」
閲覧用タブレットと名刺ケースと。戦闘準備を整えて、リンはフロントへと足を向かわせたのであった。
どんなに刺々しい女も、結婚となれば目の色が変わる。
―――そんな斜な見方をしていたわけではないのだが、そう形容せざるを得ない程に、式場での女の態度はころころと変わる。
前回リンへ喧々と物申したその女は式が近づいてきた不安からであろうか、その牙を潜めている。
彼女に満足してもらえるよう気合いを入れて完成させた映像がまるで空回るかのような反応に若干の物足りなさを感じながら、それでも了承を得られた充実感が胸を彩る。
「――素敵な式になりますよ」励ましと決意を半に分けてかけた言葉に、女は緊張を解きほぐして微笑んだ。
特別美人な顔立ちではない、けれども。幸せに満ちた不安定な女の心は本当に繊細で。
そのうつくしさはどんな宝石でさえも霞ませてしまうのだろう。そう、思った。
「―――では詰めはまた別の者が連絡を差し上げる事になるかと思います」
簡単に礼を述べ、女を見送れば、途端肩に襲い掛かるのは疲労感であった。
緊張の糸が解けるのと同時にため息さえ吐きたくなる気持ちを抑え、居場所へ帰るべく踵を返したその時であった。
静かなドアの開閉音が背に響いた。瞬時に切り替わるスタッフ魂。体に刻み込まれたその精神が、頭を垂れた。
「初めてなんですが、どちらへ行けばいいんでしょう」
柔らかい男の声。
畏まった場では急に萎縮してしまう男を何人も見てきたリンにとって、その落ち着きのある声は酷く印象に残った。
男にしてはかなり高めの声であるが、落ち着きがあるところを推測すると割と年を召した顧客なのかもしれない。
勝手な推測を胸に。少しの期待を目に宿しながら腰を戻していく。
ゆらり揺れて下がる前髪の向こう――――目に映ったのは想像を裏切る男の姿であった。
「―――こちらになります」
一瞬、言葉を失った。
何とかすぐに気持ちを切り替える事が出来たため、その場で見とれるだなどと呆けた姿を見せずに済んだのは本当に幸いである。
それでも、背に案内している男の気配を感じる度に胸の鼓動が早まるのを感じていた。
足早に進んだカウンターの先、担当者に言づける。
いつもと違う、ぎこちない動きで振り返った先。
再度目に映るその男は先ほどの印象とまるで変わらぬ姿でそこにいる。
シャンデリアに照らされる黄金の髪は流線を描き、柔らかな質感で男の頬を包んでいた。
それよりも少し深い黄金の瞳は目じりが低く、微笑を湛える口元と相成り、穏やかな人柄を前面に映し出していた。
たったそれだけで、その男がいかに穏やかである事が分かってしまう。それほどまでに、男の持つ雰囲気はただ穏やかであったのだ。
細身の腕に絡まる、白く細い腕を辿れば目に入る“男の運命の人”。
男とは対照的に、はっきりと強い意志を示す翡翠の瞳を持つその女は若く、瑞々しい香りを惜しげもなく晒していた。
「遠坂さん?」
「…あ、失礼いたしました。私はこれで失礼いたします」
足早にその場を立ち去る。
いつもと変わらない、気に入っているはずの居場所―――デスクへ戻るのに、視界は女の翡翠に染まっていて、泣いてしまいそうだった。
―――カラン、グラスの中の氷が鳴る。
あの後、デスクに戻ったリンの表情が優れない事に気付いた同僚は、彼女を食事へと誘った。
目の前に広げられる一品料理はどれも創意工夫に富んだものばかりであるのに、箸がなかなか進まない。
盃ばかりが進む場を見かねた同僚は、そっとリンに問うた。
「…今日のアポの客と会ってから様子が変だけど、何があったの?嫌な事とか言われた?」
「……、…ううん、それは問題なかったよ。励ましたら、安心してくれたみたいだったし」
「じゃあ、何か別の?」
その先の問いへ、答える言葉は持たなかった。
特別自分の中で何か答えが出ていたわけではない。ただ、新規の客が魅力的で、目に留まった。それだけのことだ。
―――それだけのことだ。それなのに、なぜか、笑い話にするのを躊躇ったのだ。
「…なんか、その後に来たお客さんなんだけど、ね。不思議な人だったんだ」
「不思議っていうと?」
とりあえず事実を答える事に決めた。ぽつぽつと、昼間の客の話を始める。
こんな人が来て、こんな人で。一つ一つ説明は深まるけれど、それでもリンの話す内容に「感情」は含まれない。
ただ事実をありのままに話すだけであった。
同僚はそれをただ頷きながら聞いているだけであったのだが、話が深まるにつれて次第にその表情が曇り始める。
気付いたリンが、話を止めた。
「…何か、おかしい?」
「―――リン、もしかしてその人に一目ぼれしたんじゃないの?」
「まさか」
「でもさっきから男の話ばっかだよ。相手の女の話、一つも出てこない」
「――それは…」
“女”。その存在を意識した瞬間に、どんよりと胸に得も言われぬ暗雲が渦巻くのを感じる。
一目ぼれなんてありえない、相手はこれから結婚する男なのだ。そもそも客を男として見るだなどとありえないし、何よりプロ意識に反する。
まるで言い訳のように間入れずそう続けるが、リン自身も、話せば話すほどその言葉たちが己を追い詰めていると気付き始めていた。
――違う、やめて。
同僚の瞳に恐怖を感じる。私が女の話をしないのは、しないのは、
「だ、って……すごく幸せそうだったんだもん。若くしてそんなかっこいい旦那さんゲットしちゃって、さ。私なんて毎日陽も当たらない部屋で映像作ってるのに、って思ったらなんか空しくなっちゃっただけ」
乾いた笑いを添えて、必死に誤魔化す。
必死の言葉ではあったのだが、同僚の共感を得る事は出来たようで、先ほどまでの咎めるような視線を雲散する事に成功したようだ。
「あー…それは分かるかも」そんな同僚のため息に安堵する。
「やっぱり若くして結婚相手ゲットするには、ぐいぐい行ける自信がないとだめなのかねー…」
あははは、あははは。
知らぬ間に随分と酒がまわっていたらしい。
同僚は明るく楽しげに笑うのだが、リンの心中は酷くささくれ、上手く笑う事も出来ない。
歪な笑顔で、乾いた笑いが張り付いた顔が、ただ、悲鳴をあげていた。
そんな、気がした。
同僚との飲み会から数日。
衝撃的な出会いの動揺も、日が経つにつれて気付けば平常通りに戻っていった。
目の前の幸せそうな二人の写真を繋ぎ合わせてレコードを生み出す…そんな忙しさに飲まれていったのだ。
注文の多い例の顧客がとうとう式を迎え、その達成感に浸っていたある日のことである。
次のスケジュールとにらみ合いを続けるリンの元へ届いた一本の内線。
「…私を呼び出し?わざわざ?…え、だってこの部署はお客さんに直接関係ない所なんだけれど…」
「はい、なぜかまでは私にも分からないんですが。至急ロビーの方へとのことです」
「うーん、分かりました」
“顧客が映像処理担当を指名”そんな話は聞いたことがなかった。
今まで幾組へと届けた映像が知らぬ間に評価されていたのだろうか、とはいえ式場情報雑誌等にも紹介された事もなく、
口コミで広がる程リンは担当の経験が豊富であったわけでもない。
あれやこれやと疑問と分析が渦巻くが、なんにせよ客からの名指し指名なのだ。これほど光栄な事もないだろう。
「遠坂さん、顔…にやけてる」
「そ、そんなことないよ!行ってきます!」
客の前に出るのに、あのロビーに向かうのに。
このもたついた作業服であるのが残念だがこれも致し方あるまい。
ファスナーを首元まできっちりと締め、ポケットの蓋を確認する―――髪を整え結い直して、リンはロビーへと向かって行った。
息が止まったかと思った。思わず肩が跳ね上がる。
こちらの気も知らずその顧客―――男はゆるりと笑みを讃えた顔を惜しげなく振る舞い、リンンを捉えた。
先日、若い恋人を連れて来場した人間であった。
「…初めまして。映像処理担当の遠坂と申します。この度は私を訪ねていらっしゃったとの事でしたが―――」
「ええ、無理を言って呼んでもらったんです。映像処理ということは、式の演出などに関わる仕事でしたか」
「はいそうです。…あの、失礼ですがお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
男は面食らったような表情を一度見せ、すぐにまた微笑を作った。
「武蔵です」そう告げる彼の表情は読みにくく、けれどもどこか違和感を感じざるを得なかった。
慣れぬ場所にいるだろうなのに落ち着いている様子然り。
年齢にして二十代後半くらいと推測されるが、それにしては随分と落ち着いた印象を受ける。
――――もとい、隙がない。
「武蔵様。重ねて失礼ですが――どういったご用件で当方をお尋ねになられたのでしょうか」
「すみません、何分こういった場所は経験がないので、色々と話を聞かせてもらいたかったんです」
「…え、と。恐れ入りますが、そのようなご要望でしたら私よりも担当の方が―――」
言葉を途中で遮られる。男が手で制したからであった。
有無を言わさないその仕草にどこか畏怖が芽生える。何を考えているのか分からない、恐怖だ。
男はそんなリンの様子を悟ったのか、もう一度笑顔を作り直した。先程とは異なる、困ったような優しい笑みで。
「―――こんなことを言うのも失礼なんでしょうが、専門の方だと要領が良すぎて」
男が言うには、無駄のない案内だからこそ雑多な質問がしにくいとの事であった。
リンを呼び出したのは初来場時に見かけた唯一の“受付業務ではなく名前の分かる従業員”だから。
そう告げる彼の眉は柔らかく下がり、申し訳ないと全面で語っていた。
―――なんだ、誰でもよかったんだ。勝手ながら心中、落胆の色に染まる。
映像を評価されたわけでもなく、対応を評価されたわけでもなく。
数分前の舞い上がった心をひた静めながら、リンは武蔵の質問に丁寧に答えるのみであった。
たわいもない質問から、踏み入った質問まで。
どうやらこの武蔵という男は穏やかな見た目に反し、随分と食えない人間のようであった。
押して引いてと揺さぶる言葉遣いに翻弄されながら、けれども誠心誠意返答を探る。
運命の一人を幸せにする誓う式こそが結婚式なのだと考えている。
「(本当に幸せにしたいと願っているのね)」
多少疑り深い部分もあるかもしれないが、慎重になっているのだろう。
そんな姿勢をリンはとても好ましく感じていた。
リンの回答を手帳に書きこむ武蔵を、手持無沙汰に盗み見る。
伏せられた長い睫毛は髪と同じ黄金色で、視線の動きに合わせてちらちらと揺れていた。
男性にしては白く、しなやかな指先は骨ばっていてもとても綺麗だと思った。
―――こんな細い手で女性を抱き寄せるのか、と下世話な心配まで思うほどに。
「(…いけない、仕事に集中しなくては)」
思わず踏み入ってしまう思考を払って、時計を見やる。気付けば時刻は定時間際となっていた。
そろそろ式場も営業時間が終わってしまう。思えばガラス張りの壁の向こうの景色は橙を越して深い藍色に染まっていた。
「あ、もしかして―――こちらの営業時間は何時まででしたか?」
「七時半です。しかしどうぞ時間は気になさらないで下さいませ。…えっと、他にご質問はございますか?」
男は何やら考え事か、顎に手を当てて言葉を選んでいるようだった。
定刻が迫っているのに時間を気にせず、というのも無理な話だ。今更になってリンも気づく。
けれどもどうしてか、リンの方も彼との話を終えたくなかったのだ。もう少し話してみたい。もう少し、その声を聞いていたい。
ただの質問のやり取りでしかなかった会話であったが、諸所に織り込まれる彼の話が面白かったのだろう。
思えば、出身は三重県の熊野であるとか、全く似ていない兄がいるとか…色々な話を聞いたように思う。
「後日営業時間内にまた、」と再訪の申し出を行うべく息を吸った時であった。
「この後――遠坂さんのご予定は?」
「…わ、私の予定ですか。…ええと、本日は定時に退社予定です、が」
唐突の質問に乱された思考が踊る。反射的に返した答えに、男はしばし考える様子を見せた後再度リンを振り返った。
先程とは違う、真っ直ぐな瞳であった。このような場面でそのような目を向けられる覚えはない―――心臓を掴まれたような気がした。
「この後、食事でもいかがですか」
「………は、」
素っ頓狂な声が出て慌てて修正するも、言葉は取り返しがつかない。
優しい瞳なのに、どこか有無を言わせない視線。
絶対的な色を含んだ不思議な色味だと、意識は捕らわれ次第に追い詰められていく。
「――いけないな、困らせてしまっていますね」
「いえ、そんな事は……っ」
あ、と思った時には既に手中となっていたのだろう。
繰り返される食事の誘いに、気付けば、首は縦に振られていたのであった。
武蔵の相談でほぼ潰れてしまった今日の業務予定を思考の狭間へ放り投げ、リンは帰社支度を急ぐ。
給料が入ったから、とおろしたてのワンピースを着てきていたタイミングの良さに胸をなでおろす。
手早く着替えて化粧を直し。髪を結い直し。更衣室から立ち去る―――その刹那。
「(まるでデートみたい…なんて)」
はっと気づいて、バカバカしいと一蹴する。思春期の小娘であるまいし、今更そんな発見をしたとて新鮮さはない。
むしろ妄想の域だ――――素直でないとどこか思いつつも、仕事モード抜けやぬまま、リンは武蔵を待たせている喫茶店へと急いだのであった。
「急ぎ手配した店なので、口に合わなかったらすみません」
そんな彼の言葉が右から左へすり抜ける。気を抜けばぽかんと呆けた顔になってしまいそうな程に、呆気にとられた目の前の光景。
クリスタルをふんだんに使ったシャンデリアなど、式場ロビーで毎日のように見ているのに、
連れられてやってきたこの店のそれとは輝きが異なっているように思えた。
黒を基調に、モーブ、ワインレッドといった低彩度で彩られたフロアの、薄暗い天井で輝くそれは酷く目に降り注ぐ。
微かな光を得て輝く煌めきの光が眩しくて、目がくらんだ。
「心配いりませんよ」リンの心を知ってか知らずか。優しい言葉をかける男は当然なればといった様子で、フロアの奥へと足を進める。
小奇麗な服を着てきて本当によかった、全身に走った緊張と困惑とを織り交ぜながらリンは武蔵の背を追って店へと溶け込むことを決意したのである。
通された席は個室だった。必要以上に他客の目に触れない事に安堵する。
とはいえ慣れぬ店の雰囲気に強張らせている身に気付いたのであろう、武蔵が幾度か大丈夫だと声をかけてくるのだが、なかなか緊張はほぐれない。
おしぼりが白色でないという、ただそれだけの普段との違いにおののくほどに、リンは緊張で張りつめていたのであった。
「普段、連れ合いにこういった店に連れてきてもらうことはないのですか?」
「――あ、え…はい。連れ合い…友達同士だともっとくだけたお店とかばかりなものですから、その、すみません。ぎこちなくて」
「―――友人だけ」
ぴたり、と会話が止まる。ああ“連れ合い”とはそういう意味であったか。
武蔵の言葉はどうにも抽象的で意図が汲み取りにくい。掴みどころのない言葉の返しに前後を読み解き、真意を理解しなくてはいけないのだ。
顧客の要望を正しく汲み取る―――そんな仕事をしている故に身についた対話能力がここで役に立とうとは。
「(…いや、この時間も仕事のようなものだから、自然に使って当たり前よね)」
けれども話が通じない客はいるもので。普段ならばこのような腹の探り合いに疲れてしまうのだが、今はそれを楽しんでさえいる事に気付いた。
改めて彼の、武蔵の聡明さに感心したのだが―――それにしても。
人と人との繋がりの場を提供する事を生業としながら、その本人が縁を持っていないなどと、説得力にも欠けるだろう。
彼の言葉に含まれているであろう“二つの意図”のどちらが本心か量りかね、リンはストレートに問うた。
「お恥ずかしながら相手はいません。―――私のようなスタッフでは役者不足でしょうか」
言い放った後ではっとする。普段より歯に衣着せぬ言い分で人から誤解を受ける事がしばしばなのだが、今回も大層酷いぞ、と。
無論嫌味の意味で言ったわけではない、そう挽回しようと武蔵の顔を覗き込んだのだが、帰って来たのは意外な反応で。
「―――――参ったな」
武蔵は口に手を当てくすくすと笑っている。苦笑―――にほど近いその笑みの真意が見えない。
困っているようにも見えるが、けれども雰囲気は焦燥のそれではなく。
呆けた口を慌てて閉じて、武蔵に声をかけるべく身を乗り出したのだが、それは先に彼によって制される。
「僕の目に狂いはなかったようです」
「は、そ、それは…どういう…ええと、あの、なぜ、」
笑ったのですか。その言葉は個室のノック音で遮られる。
ぞろぞろと並べられた料理はどれも見目鮮やかな料理で、視界から聴覚からあれやこれや情報が入ってきてリンの思考は乱れてしまった。
言葉を紡げずぽかんとするリンに、武蔵はさした様子もなく「いただきましょう」そんな余裕の一言で。
それに抗う気力もなく、借りてきた猫再び―――小さく返事をし、食事の時間に飲み込まれてしまったのであった。
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2話に続きます
大昔に作ったものなので
動画作成技術も今とは全然違うんだろうなあ(25.12.18公開)