戀―REN―

愛の温度

 国木田君の手は何時も温かい。この温もりにどれだけ私が安らぎを得ているのか彼は知っているのだろうか。
 今だって指を絡めて繋いだ手は春の陽だまりのような温かさを私に与えてくれる。
「どうした? 歩き疲れたか?」
 私が黙っているのを不審に思ったのか、国木田君はふと歩みを止める。何時もの帰り道。
「ううん。国木田君の手が好きだなって思って」
「何だ、藪から棒に」
 些か素っ気ない云い方は照れている証。
「特に寒い時なんかはさ、ずっと手を繋いでいたくなっちゃう」
 どんな手袋よりも温かくて心までほくほくしてくる。そんなことを云えば「俺は懐炉かいろか」口をへの字に曲げる。少しだけ拗ねたような態度が可愛いな、なんて。
「そうだねえ、国木田君にくっついていたら温かいものね」
「温めて欲しいのか」
半ば冗談交じりの言葉に答える声が存外真面目だったので、おやと目を瞬かせれば、繋いでいた手がほどけて頬へと触れる。
 冷たいな――ふっと国木田君が薄く微笑んで。
  唇が、重なる。
 淡く口付けられたと思ったら今度は抱き締められる。彼の匂いに包まれて瞬時に鼓動が跳ねた。
「えっと……国木田君……?」
「……お前の冷えた躰に触れる度に、温めてやりたくなる」
 私を抱く腕の力が強まって、鼻の奥がツンと痛くなった。
 ――ああ、そうか。
 国木田君の温かさは彼の体温だけではないのだ。私を想い、愛することの温度なのだ。衣服越しに感じる彼の温度はじんわりと優しく、私の躰へと沁み込んでいく。愛していると告げるように。この穏やかな熱に身を任せてしまいたい――私はぎゅっと愛しい人を抱き返す。
「……もっと、私を温めて」

応えるのは、降りてくる形の佳い唇。
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