400字小説

小説の練習として書いた400字小説です。
二次創作(コラロ、火アリ)一次創作ごたまぜ。
タイトルにカプ名や一次創作の明記をしています。

記事一覧

  • 俤(一次創作)

    20241015(火)21:34
     窓を開けると柔らかな風が頬を撫でて甘い香りが鼻先を掠めた。金木犀だ。もうそんな時期なのかと思わず卓上カレンダーを見てしまう。十月も半ば過ぎ。日中の気温が高いせいで失念してしまうが暦の上ではすっかり秋なのだ。
     窓からは金木犀は見えず、どこで咲いてるかも判らないのだが、あの小さな橙色の花がこれほどまで強い芳香を放ち、姿もなく人を惹き付けるのが少し不思議な気がした。そして夜も眠らず咲き続けていることも。
     金木犀の豊かな香りに凭れるように私は窓辺で頬杖をついて薄く目を伏せる。
     眼裏まなうらに映るのは懐かしい人の姿だ。いつも穏やかなその人は金木犀が好きだと言っていた。あの樹の傍にあるベンチで本を読むのが毎年の楽しみなのだと笑っていた。きっと今頃どこかの金木犀の下でお気に入りの本を広げていることだろう。多分、もう会うこともないだろうけれど。あの人が元気で穏やかな日々を送っていれば良いと、切に願う。
    「良い匂いだなあ」
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    一次創作

  • 告白(火アリ)

    20241013(日)19:32
     私が風呂から上がるとソファで寛いでいたはずの火村は眠っていた。気持ち良さそうに寝息を立てている姿を見てしまうと起こすのも憚れた。風邪ひかないようにと寝室から毛布を持ってきて掛けてやる。
     あまりにも穏やかに眠っているものだから、このまま彼はもう目醒めないような錯覚を憶えてしまう。――今なら。今だけは。私はソファの前に膝をついて火村の胸に耳を押し当てた。規則正しい心音に目を閉じる。
    「君が誰かと付き合って家庭を持ったら、もうこんなふうに俺の前で眠ったりせんのやろうな。飲みに行く回数も今より減って、俺もお前んに気軽に遊びに行かれんようになって……考えたら寂しいなあ」
     彼の幸せを誰より願いながらそこに自分がいないことに酷く落ち込む。我ながら随分勝手なものだ。
    「好きや。ずっと好きやった」
    「それは奇遇だな」
     突然聞こえた声に慌てて身を起こすと「俺も好きだって言ったら、どうする?」火村が悪戯っぽく笑っていた。
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    火アリ

  • 秒読み(コラロ)

    20241012(土)15:22

     天性のドジっ子であるコラさんはいつもみたいに何も無いところで躓いてすっ転んだ。おれを巻き込んで。普段なら「悪ィ、ロー! 大丈夫か!?」慌てて身を起こして土下座でもするんじゃないかっていう勢いで謝るのに今日は違った。
     おれを押し倒す形で転んだコラさんがいつになく真剣な面持ちでじっとこちらを見詰めてくるものだから、おれは動けなくなってしまった。
     大きな手が頬に触れ、頤を掴む。この人の手はこんなに熱かっただろうか。濡れた柘榴色の瞳が近付いてきて息が触れ合う。途端に心臓が大きく跳ねた。ルージュの引かれていない唇に釘付けになる。
     これって、もしかして。
    「……コラさん、」
     期待と緊張に心臓が引き攣れて声まで慄えてしまった。すると目の前の大好きな人はあやすように淡く微笑して、もう片方の手で半端に脱げかけたおれの帽子の鍔を押し上げる。
     まだちゃんとコラさんに好きだと打ち明けてないのに。でもまあ、良いか。キスが先でも。
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    コラロ

  • 死んでしまいました。(一次創作)

    20241010(木)16:39

     死んでしまいました。
     あの日、地上二十メートルから飛び降りて。私の躰は秒速十九.八メートルの速度で以って地面に叩き付けられて壊れました。
     死んでしまいました。
     あの日、たくさんの悪意を受けて。投げ付けられる言葉に柔らかかった私の心は硬直し罅割れ、砕け散りました。
     死んでしまいました。
     あの日、躰を汚されて。意味が判りませんでした。真っ黒な闇を背負った兄が私の躰にのしかかり腰を振ってる様は化け物のようでした。体内に射精された瞬間、子供だった私が首を吊る姿が見えました。
     死んでしまいました。
     あの日、両親に置き去りにされて。生まれたばかりの弟と七つの私、二つ年上の兄と。とても心細く寂しく、眠ることもできませんでした。親に捨てられた私は世界からも葬られてしまいました。
     死んでしまいました。
     あの日、この世に生まれて。かそけき産声を上げながら私は地獄の門を潜りました。行先は暗黒奈落。即ち死でした。
     そうして私は死んで
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    一次創作

  • 愛と毒の類似性(火アリ)

    20241008(火)17:30

     湿度を含んだバリトンが鼓膜を揺らす。見上げる火村の顔は切なそうな、どこか思い詰めたような表情で深い色の瞳は涙に濡れていた。一瞬、彼が泣くのかと思って精悍な頬に手を触れると唇が重なった。薄らと香るキャメルのフレーバーに今でも信じられない思いがする。キスをしている、あの火村と。
     素肌に触れる掌はやたら熱くてその手付きは酷く優しい。自分へ差し出された愛を確かめるように彼の手が私の輪郭をなぞると躰の奥から滲み出るような甘い感覚が湧き起こる。ただ肌を撫でられているだけなのにこんなにも気持ち良いなんて。これから先にある行為を思って戦慄する。この男に全てを暴かれてしまったら一体私はどうなってしまうのだろう。きっともう戻れない。それがまた恐ろしい。
    「アリス?」
     不思議そうに瞳を瞬く火村の頭を掻き抱いて口付ける。――毒を食らわば何とやら。
    「最後まで一緒におって」
    もちろんアブソルートリー
     いつかのように答える火村に私は笑った。
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    火アリ

  • ルージュ(コラロ)

    20241007(月)17:51

     キャップを外して中身を繰り出す。現れたのは真紅。棒状の真っ赤なそれをローは鏡を覗き込みながら自身の唇に軽く押し当てて滑らせた。薄い唇が赤く染まり、口紅の香料が鼻先を搏つ。唇の輪郭が崩れないように紅を引くのは意外に難しいことを初めて知った。
     ――あの人はいつもこんなことをしていたのか。
     病院巡りの旅の最中、彼の素顔を見たことは殆どない。当然のように彼はアルルカンのメイクを施していた。まるでそれが己の素顔だというように。
     右眼は涙を、唇には笑みを。
     どうしてメイクをしているのか一度だけ訊ねたことがある。彼は一瞬虚を突かれたような顔をして「俺がコラソンだから」まるで答えになっていないような言葉を口にして笑った。
     ルージュは口角をはみ出し、笑みを刷く。
    「コラさん」
     鏡の中に愛しい人の俤を幻視すれば鼓膜の奥で聴こえる別れの言葉。――ロー、愛してるぜ。
     コラさん、おれも――。
    「似合わねェな」
     ローは嘲るように嗤った。
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    コラロ