第8話 傍迷惑な死に急ぎ野郎
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「本日はありがとうございました。今後もよろしくお願い致します。」
そう言って取引先が乗ったタクシーが見えなくなるまで頭を下げる。車のライトが夜の街から遠ざかっていくのを見届けてから、ため息をついた。
「お疲れ様。うまく話がまとまりそうで良かったね。」
労いの声をかけてくれるナマエさんにありがとうございます、と返しながら首に手を添えてコキコキと凝り固まった筋肉を解した。
今夜は所謂接待だったのだ。リヴァイ課長から引き継いだ会社と巧くやっていくためにも大事な仕事の一つだと分かってはいても、やはり疲れる。
「早く帰って熱い風呂に浸かりてぇです。」
「だね。もうこんな時間だし私たちも帰ろうか。」
そう言って駅の方へ向かって歩きだした。
梅雨真っ只中のこの季節、昼間に降った雨のせいか空気がどこかジメジメしておりアスファルトのあの独特な匂いもする。疲れも相まって尚更足取りは重くなった。
道すがらふとスマホを見ると、気付かない内に着信が入っていた。
リヴァイ課長だ。
「ナマエさんすみません。リヴァイ課長から電話があったみたいで。急ぎだといけないんで掛けてみてもいいっすか?」
「もちろん大丈夫だよ。…あれ?私にも課長から着信があったみたい。」
「何ですかね?俺がナマエさんの分も一緒に聞いてみますよ。」
「うん、ありがとう。」
そう言いながら発信のアイコンをタップをした。
「…あ、お疲れ様です。キルシュタインです。折り返しが遅れて申し訳ありません。接待中で出られませんでした。」
『あぁ、知ってる。お前、今どこにいる?』
「トロスト区の大通りでこれから駅に向かうところですが、何かありましたか?」
『お疲れの所申し訳ねぇが。今すぐ俺の家に来い。』
…労いつつも命令口調なのは流石リヴァイ課長だ。
「どうしたんすか、いきなり。つーか俺リヴァイ課長の家を存じ上げないんですが。」
『ナマエもまだ一緒だろ。なら問題ねぇ。ナマエも一緒に来いと伝えろ。』
「…え?」
それだけ言ってそのままブツリと切られてしまった。
無機質な電子音だけになりそのまま固まっていると、当然何も知らないナマエさんは、ん?と首を傾げる。
「…今からリヴァイ課長の家へ伺うようです。俺たち。」
「え??なんで??」
それは俺が一番聞きたい。理由はわからないが行かないと後で後悔しそうなのでナマエさんに案内してもらい向かうことにした。
─トロスト駅から4駅ほどで降りたそこは、都市部に近い割になかなか静かな場所だった。駅から徒歩10分。リヴァイ課長の住むマンションが見えてきた。
「なんか、意外っすね。」
「ん?」
「あ、いや…リヴァイ課長の自宅って勝手なイメージですけど何となく大都会の真ん中の超高層超高級マンションとかを想像してました。」
「あははっ。それは流石に部長クラスかそれ以上じゃないと無理なんじゃない?」
…確かに。つーかナマエさん、意外と現実的な評価をするんだな。
想像と違った課長の自宅マンションはどこか暖かみがあり、茶を基調としたレンガ素材のような外装で、同じく暖色系の照明がエントランスを照らしている。
管理は行き届いているらしく玄関フロアの床は清掃したばかりのように光っている。さすがキレイ好きのリヴァイ課長が選んだマンションだ。オートロックの入り口にはモニターと指紋認証もあり、某有名警備会社のロゴも見つけた。
イメージとは違ったが、それでも俺にはきっと払えない家賃なんだろうことが伺えた。
そんな格付け染みたことを脳内でしながらもナマエさんから部屋番号を聞きインターホンを鳴らし、オートロックを解除してもらう。
部屋の前で再度インターホンを鳴らすと、黒のロングTシャツにカーキのパンツという、普段は見ることのないラフな格好の課長が出迎えてくれた。イケメンはどんな格好でもイケメンだった。
「疲れてる所来させちまって悪かったな。早急に回収して貰いてぇもんがある。」
とりあえず上がれ。そう言って部屋の中へ案内される。
リビングへと通され、俺とナマエさんの視界に入ったのは想像すらしなかった光景だった。
「うわ…ひでぇな。」
「…すごいね…」
それぞれが小さく呟いた。
掃除好きのリヴァイ課長の事だ。本来であれば塵一つ落ちていないであろうリビングには至るところにあらゆる種類の酒瓶や空き缶が転がり、ツマミや菓子の空き袋が散乱している。食べカスらしきものも見受けられる。
そしてその中には気持ち良さそうにイビキをかくオルオさんと、生きているのかと不安になるほどピクリとも動かない…エレンがいた。死に急ぎ野郎の名は伊達じゃねぇな。俺ならこの状況で爆睡する勇気はない。
「…引き取って貰いたいものって。」
ドン引きしながらも恐る恐る尋ねると、そうだ…とため息混じりの課長の返答。
今日は新チームの親交を深める為に野郎だけで集まって飲んでいたらしい。リヴァイ課長が人を家に招くこと自体何となく意外だったが、この人なりに部下を可愛がっているんだろう。
空気の読めるエルドさんとグンタさんは一通り酒を酌み交わした後に早めに引き上げたらしい。リヴァイ課長が酔いざましに二人を駅まで送り、ついでにコンビニへ寄り道をしている間にこうなってしまったそうだ。不憫すぎる。
…待て。じゃあなぜナマエさんは呼ばれたんだ?と思っていると。
「ナマエ、お前は寝室へ行け。奇行種が俺のベッドを占領してやがる。」
…ハンジさんも居たのか。部署が違うのに…と思ったが、どうせ話を聞き付けて面白そうだからと勝手に飛び入り参加でもしたんだろう。
「だから私も呼ばれたんですね…」
ナマエさんは困ったように笑いながら別の部屋へと向かった。
「課長、なんで俺なんですか。エレンの迎えなら普通はミカサでしょう。」
そう尋ねると、何となく課長はどこか気まずそうな表情で答えた。
「…番号を知らねぇ。」
「え…お二人は親戚ですよね?身内の連絡先知らないんすか?」
「…うるせぇ。知ってたが掛けたら『現在使われておりません』だ。」
ミカサに嫌われてんのか?そういえば何かとあいつはリヴァイ課長に当たりが強い。今回の新チームの件でも『クソチビに報いを…』とか何とか物騒なセリフを吐いていた。
課長の表情を見て、俺はもう何も言わないことにした。
「…とにかく。俺は一刻も早くこの惨状を元に戻したい。何がなんでもだ。寝室なんざ最悪だ。今日はもう使えねぇ。いや使いたくねぇ。何ならベッドは買い換えてぇくらいだ。タクシー代は俺が出すから、可及的速やかにこいつを回収してってくれ。」
無表情なのに多弁なのが余計に怖い。俺の返事はYES一択だった。
ちなみにオルオさんはこの後ペトラさんが回収に来るらしいので一先ず放っておく。
──起きねぇ。なぜだ。声を掛けようが体を揺すろうが何なら蹴り飛ばしても起きやしねぇ。
リヴァイ課長でも無理だったようだ。んなもん、俺に起こせるわけがねぇ。
そうこうしている内に、ナマエさんが向かった部屋からなんとも呑気な声が聞こえてきた。
「やーやーやー、リヴァイ。いやー済まないねぇ。しっかし君のベッドは最高だね!つい熟睡しちゃったよー!」
すっかり目が覚めた様子のハンジさんが苦笑いのナマエさんと一緒にリビングへと戻ってきた。
「ハンジ…今すぐ帰れ。そして二度とここへは来るな。」
「はっはっは!リヴァイは相変わらず手厳しいなぁー!」
リヴァイ課長はかなりお怒りだ。ハンジさんには効果はなさそうだが。
「あれ?彼はまだ起きてないんですか?」
そう言ってナマエさんがエレンの方を覗き込む。
「殴っても蹴っても起きやしねぇ。」
「暴力はダメですよ課長…」
やんわりと突っ込みを入れながらナマエさんはエレンを軽く揺すった。
「おーい。イェーガーくーん。このままだと風邪ひいちゃうよー?」
「んー…。あれ…?…ナマエさん…?なんでここに…」
すると、何をしても起きなかったヤツがすんなりと目を覚ましたのだ。
「「エレン…お前…」」
リヴァイ課長と心がシンクロした瞬間だった。
それからハンジさんとナマエさんが先に課長宅を出て、とりあえず俺と課長は一発ずつエレンを殴り、何なんだと喚くエレンを早急に課長の家から引っ張り出した。
そしてミカサに連絡を取り二人の住むマンションの下でエレンをタクシーから放り出し、やっとの思いで自宅に帰ってきたのだ。
「疲れた…さっさと寝よう。」
誰に言うでもなく呟いて俺の一日は終わった。熱い風呂は諦めた。
ただでさえ接待で疲れていたのに、その後に色んなことが有りすぎて、俺は気付いていなかった。
ナマエさんが、いくら同期とはいえ上司であるリヴァイ課長の自宅へと当然のように行けること。部屋番号もしっかり覚えていること。
─そして、他にも部屋はあったのに迷うことなくハンジさんが寝ている寝室へと向かって行ったことに─
そう言って取引先が乗ったタクシーが見えなくなるまで頭を下げる。車のライトが夜の街から遠ざかっていくのを見届けてから、ため息をついた。
「お疲れ様。うまく話がまとまりそうで良かったね。」
労いの声をかけてくれるナマエさんにありがとうございます、と返しながら首に手を添えてコキコキと凝り固まった筋肉を解した。
今夜は所謂接待だったのだ。リヴァイ課長から引き継いだ会社と巧くやっていくためにも大事な仕事の一つだと分かってはいても、やはり疲れる。
「早く帰って熱い風呂に浸かりてぇです。」
「だね。もうこんな時間だし私たちも帰ろうか。」
そう言って駅の方へ向かって歩きだした。
梅雨真っ只中のこの季節、昼間に降った雨のせいか空気がどこかジメジメしておりアスファルトのあの独特な匂いもする。疲れも相まって尚更足取りは重くなった。
道すがらふとスマホを見ると、気付かない内に着信が入っていた。
リヴァイ課長だ。
「ナマエさんすみません。リヴァイ課長から電話があったみたいで。急ぎだといけないんで掛けてみてもいいっすか?」
「もちろん大丈夫だよ。…あれ?私にも課長から着信があったみたい。」
「何ですかね?俺がナマエさんの分も一緒に聞いてみますよ。」
「うん、ありがとう。」
そう言いながら発信のアイコンをタップをした。
「…あ、お疲れ様です。キルシュタインです。折り返しが遅れて申し訳ありません。接待中で出られませんでした。」
『あぁ、知ってる。お前、今どこにいる?』
「トロスト区の大通りでこれから駅に向かうところですが、何かありましたか?」
『お疲れの所申し訳ねぇが。今すぐ俺の家に来い。』
…労いつつも命令口調なのは流石リヴァイ課長だ。
「どうしたんすか、いきなり。つーか俺リヴァイ課長の家を存じ上げないんですが。」
『ナマエもまだ一緒だろ。なら問題ねぇ。ナマエも一緒に来いと伝えろ。』
「…え?」
それだけ言ってそのままブツリと切られてしまった。
無機質な電子音だけになりそのまま固まっていると、当然何も知らないナマエさんは、ん?と首を傾げる。
「…今からリヴァイ課長の家へ伺うようです。俺たち。」
「え??なんで??」
それは俺が一番聞きたい。理由はわからないが行かないと後で後悔しそうなのでナマエさんに案内してもらい向かうことにした。
─トロスト駅から4駅ほどで降りたそこは、都市部に近い割になかなか静かな場所だった。駅から徒歩10分。リヴァイ課長の住むマンションが見えてきた。
「なんか、意外っすね。」
「ん?」
「あ、いや…リヴァイ課長の自宅って勝手なイメージですけど何となく大都会の真ん中の超高層超高級マンションとかを想像してました。」
「あははっ。それは流石に部長クラスかそれ以上じゃないと無理なんじゃない?」
…確かに。つーかナマエさん、意外と現実的な評価をするんだな。
想像と違った課長の自宅マンションはどこか暖かみがあり、茶を基調としたレンガ素材のような外装で、同じく暖色系の照明がエントランスを照らしている。
管理は行き届いているらしく玄関フロアの床は清掃したばかりのように光っている。さすがキレイ好きのリヴァイ課長が選んだマンションだ。オートロックの入り口にはモニターと指紋認証もあり、某有名警備会社のロゴも見つけた。
イメージとは違ったが、それでも俺にはきっと払えない家賃なんだろうことが伺えた。
そんな格付け染みたことを脳内でしながらもナマエさんから部屋番号を聞きインターホンを鳴らし、オートロックを解除してもらう。
部屋の前で再度インターホンを鳴らすと、黒のロングTシャツにカーキのパンツという、普段は見ることのないラフな格好の課長が出迎えてくれた。イケメンはどんな格好でもイケメンだった。
「疲れてる所来させちまって悪かったな。早急に回収して貰いてぇもんがある。」
とりあえず上がれ。そう言って部屋の中へ案内される。
リビングへと通され、俺とナマエさんの視界に入ったのは想像すらしなかった光景だった。
「うわ…ひでぇな。」
「…すごいね…」
それぞれが小さく呟いた。
掃除好きのリヴァイ課長の事だ。本来であれば塵一つ落ちていないであろうリビングには至るところにあらゆる種類の酒瓶や空き缶が転がり、ツマミや菓子の空き袋が散乱している。食べカスらしきものも見受けられる。
そしてその中には気持ち良さそうにイビキをかくオルオさんと、生きているのかと不安になるほどピクリとも動かない…エレンがいた。死に急ぎ野郎の名は伊達じゃねぇな。俺ならこの状況で爆睡する勇気はない。
「…引き取って貰いたいものって。」
ドン引きしながらも恐る恐る尋ねると、そうだ…とため息混じりの課長の返答。
今日は新チームの親交を深める為に野郎だけで集まって飲んでいたらしい。リヴァイ課長が人を家に招くこと自体何となく意外だったが、この人なりに部下を可愛がっているんだろう。
空気の読めるエルドさんとグンタさんは一通り酒を酌み交わした後に早めに引き上げたらしい。リヴァイ課長が酔いざましに二人を駅まで送り、ついでにコンビニへ寄り道をしている間にこうなってしまったそうだ。不憫すぎる。
…待て。じゃあなぜナマエさんは呼ばれたんだ?と思っていると。
「ナマエ、お前は寝室へ行け。奇行種が俺のベッドを占領してやがる。」
…ハンジさんも居たのか。部署が違うのに…と思ったが、どうせ話を聞き付けて面白そうだからと勝手に飛び入り参加でもしたんだろう。
「だから私も呼ばれたんですね…」
ナマエさんは困ったように笑いながら別の部屋へと向かった。
「課長、なんで俺なんですか。エレンの迎えなら普通はミカサでしょう。」
そう尋ねると、何となく課長はどこか気まずそうな表情で答えた。
「…番号を知らねぇ。」
「え…お二人は親戚ですよね?身内の連絡先知らないんすか?」
「…うるせぇ。知ってたが掛けたら『現在使われておりません』だ。」
ミカサに嫌われてんのか?そういえば何かとあいつはリヴァイ課長に当たりが強い。今回の新チームの件でも『クソチビに報いを…』とか何とか物騒なセリフを吐いていた。
課長の表情を見て、俺はもう何も言わないことにした。
「…とにかく。俺は一刻も早くこの惨状を元に戻したい。何がなんでもだ。寝室なんざ最悪だ。今日はもう使えねぇ。いや使いたくねぇ。何ならベッドは買い換えてぇくらいだ。タクシー代は俺が出すから、可及的速やかにこいつを回収してってくれ。」
無表情なのに多弁なのが余計に怖い。俺の返事はYES一択だった。
ちなみにオルオさんはこの後ペトラさんが回収に来るらしいので一先ず放っておく。
──起きねぇ。なぜだ。声を掛けようが体を揺すろうが何なら蹴り飛ばしても起きやしねぇ。
リヴァイ課長でも無理だったようだ。んなもん、俺に起こせるわけがねぇ。
そうこうしている内に、ナマエさんが向かった部屋からなんとも呑気な声が聞こえてきた。
「やーやーやー、リヴァイ。いやー済まないねぇ。しっかし君のベッドは最高だね!つい熟睡しちゃったよー!」
すっかり目が覚めた様子のハンジさんが苦笑いのナマエさんと一緒にリビングへと戻ってきた。
「ハンジ…今すぐ帰れ。そして二度とここへは来るな。」
「はっはっは!リヴァイは相変わらず手厳しいなぁー!」
リヴァイ課長はかなりお怒りだ。ハンジさんには効果はなさそうだが。
「あれ?彼はまだ起きてないんですか?」
そう言ってナマエさんがエレンの方を覗き込む。
「殴っても蹴っても起きやしねぇ。」
「暴力はダメですよ課長…」
やんわりと突っ込みを入れながらナマエさんはエレンを軽く揺すった。
「おーい。イェーガーくーん。このままだと風邪ひいちゃうよー?」
「んー…。あれ…?…ナマエさん…?なんでここに…」
すると、何をしても起きなかったヤツがすんなりと目を覚ましたのだ。
「「エレン…お前…」」
リヴァイ課長と心がシンクロした瞬間だった。
それからハンジさんとナマエさんが先に課長宅を出て、とりあえず俺と課長は一発ずつエレンを殴り、何なんだと喚くエレンを早急に課長の家から引っ張り出した。
そしてミカサに連絡を取り二人の住むマンションの下でエレンをタクシーから放り出し、やっとの思いで自宅に帰ってきたのだ。
「疲れた…さっさと寝よう。」
誰に言うでもなく呟いて俺の一日は終わった。熱い風呂は諦めた。
ただでさえ接待で疲れていたのに、その後に色んなことが有りすぎて、俺は気付いていなかった。
ナマエさんが、いくら同期とはいえ上司であるリヴァイ課長の自宅へと当然のように行けること。部屋番号もしっかり覚えていること。
─そして、他にも部屋はあったのに迷うことなくハンジさんが寝ている寝室へと向かって行ったことに─