第7話 休日エンカウント
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「まだ機嫌悪ぃのか。」
「…………。」
朝からずっと『肌が荒れる』だの『起こしてくれなかった』だの『一日の怠けが命取りになる』だのえらく大げさに喚いていた。
ナマエは朝食のシリアルを頬張りながらもムスっとしている。俺は朝は食わないのでナマエの淹れてくれた紅茶を啜っている所だが、さっきからこいつはずっとこの調子だ。
今日は土曜で会社も休みのためゆっくり寝ようかと思ったが、何だかんだでいつも通りの時間に目覚めてしまった。
「…オルブド区に新しく紅茶のうめぇカフェができたらしい。」
「………。」
「そこのパスタがうまいんだと。」
「………。」
「あと、ケーキもうめぇらし「行く。」…分かった。」
そこは即答か。しかも食い気味にきた。甘いもんに目がないこいつらしい。
昨日ちゃっかり着替えは持ってきていたようなので、午前中はゆっくり過ごすことにして昼から二人でオルブド区へ足を運んだ。
───
「んーーーーーー!なにこれ!おいしーーーーい!」
朝とは打って変わってかなりご機嫌だ。俺は内心胸を撫で下ろしていた。
「確かに。ここの紅茶は悪くねぇ。香りが違うな。」
どうやらこの店は当たりだったようだ。オープンしたてということもあり、客が多すぎるのが難点だが。タイミングが良かったようで割とスムーズに入店できたが、一歩間違えればかなり待たされることになっただろう。並ぶことになればきっと俺はやめていた。できることならうまい紅茶は静かに飲みたいもんだが、ナマエの機嫌も直ったようなのでここはよしとする。
「で、昨日の事はもういいのか。」
「なにが?」
「…様子がおかしかった。」
「あー…うん。ありがとうね。ちょっと思うことがあったんだけど、もう大丈夫!リヴァイのお陰で元気になったよ!」
そう言ってまた一口ケーキを頬張り、幸せそうな顔をする。
「そりゃ良かった。なら今度からはシて欲しい時はちゃんと言えよ。」
言ってくれねぇとわからねぇからな。一応周りに他の客も居るため、少し顔を近づけささやくように、そして口端を上げて言ってやると。
「なっ…!そういうことじゃなくて!」
顔を真っ赤にして否定をする。
「違うのか?一発やったから元気が出たんじゃねぇのか。」
違うだろう事は分かっていてもどうしてもからかいたくなる。
「もー!やめてよ!違うし!そんなことこんな公衆の場で言わないでよ!」
それに一発どころじゃなかったじゃない…と蚊の泣くような小さな声でボソリと呟く。
お前も公衆の場で言ってんじゃねぇか…。
「そりゃ悪かったな。」
「全然反省してない…。」
口を尖らせながらそれでもケーキを口にすると笑顔になるナマエを見て俺も思わず笑ってしまった。
賑やかすぎる場所はあまり好きではないが、たまにはこんな日も悪くねぇなと思える休日だった。
**************************************************
このところ忙しくて休みの日も疲れを取るためにずっと家でダラダラ過ごしていたが、仕事も少し落ち着いたので久しぶりに親友のマルコと出かけることにした。マルコとは職場も違うし俺が忙しかったこともあり、会うのは数ヶ月振りである。
マルコ曰く、オルブドにランチがうまいと評判のカフェの姉妹店ができたらしく、そこに行きたいと言われて今は絶賛長蛇の列の一員だ。周りはほとんどが女同士かカップルばかりで、男二人でこのかわいらしい外観のカフェっつーのもどうかと思ったがマルコは元々そういうのは全く気にならないタイプだ。俺は多少気にする。
「すごいね…。」
「あぁ。新しいもんにはみんな飛び付くもんだな。」
「でもこの待ち時間も割と平気だな。ジャンとこうやって会うのも久しぶりだし、楽しみにしていたんだ。」
そう言ってニコニコと笑うマルコはどうして俺とつるんでいるのか不思議な位俺とは性格が正反対だ。それでも俺自身もこいつと居ると落ち着くので、どこかしら波長が合うところがあるんだろう。
そうこうしているうちに俺たちの順番がやってきた。店内はやはり女子受けを狙っているのか、白のようなベージュのような色の土壁に、木目調の柱、至るところにかわいらしい置物や観葉植物が置かれている。
席に案内された後、店内を軽く見渡していると、奥の方の席に見覚えのある髪型の男性がいた。
…リヴァイ課長だ。なぜこんな所に。似合わねぇ。と思ったが、どうやら女性と一緒らしい。あの人彼女がいたのか。まぁあのルックスなら引く手数多だろうな。あれで女がいねぇわけがねぇかと妙に納得した。
女性の方は背中を向けているせいで顔がわからないのが残念だが、リヴァイ課長よりも小さいその人は後ろ姿だけでも何となくかわいらしい人なんだろうなと想像させられた。羨ましすぎる。しばらく観察を続けていると、リヴァイ課長が少し顔を近づけて何かを話した後、会社では決して見ることはないだろう柔らかな表情で笑っていた。
それを見て俺は思わず固まってしまった。ぞっこんじゃねぇか。あの人女の前だとあんな顔するのか。
「ジャン?どうかしたのか?」
「あ?…あー、悪ぃ。奥の方に会社の上司がいた。」
完全にマルコを放置していた。すまん。
「本当かい?挨拶しなくていいの?」
「あー…彼女と一緒っぽいし、完全にプライベートだろ。やめとくよ。」
どんな彼女か気になるので彼らが店を出るときには顔を見てやろうと密かに思いながら、メニューに目を移した。
マルコはカルボナーラ、俺はデミグラスのオムライスを注文した。
「ふふっ、相変わらず好きだね。」
「…他に食いてぇのがなかったんだよ。」
好物を頼むところを見られるのは何となく照れ臭い。幼馴染みはこういう時に厄介だ。
「そっか。それはそうと、最近仕事が忙しいみたいだね。」
「あぁ、向こうにいる上司が今まで担当してたとこを俺がすることになってな。正直多いし勘弁して欲しいよ。」
つい愚痴のような言い方になってしまったが、勘弁して欲しいのは事実だ。
「そんなこと言ってても、ジャンは求められたことはしっかりしちゃうんだよね。でもそれって君の頑張りが評価された結果なんだろう?すごいじゃないか!」
マルコはこういったことを出し惜しみせずにはっきりと言う。何となくそういう所はどこかナマエさんみたいだと思った。
「求められた事以上はするつもりねぇけどな。」
「またそんなこと言って。ジャンは指揮官向きだからね。その内マネージャーとかになってるんじゃないかな。」
「お前昔からそれ言ってっけど勘弁してくれよ。そこそこでいいんだよ。」
そんなやり取りをしている内に気付けばリヴァイ課長の居た席には別の客が座っていた。知らぬ間に帰ってしまったようだ。
…女の顔を見損ねた。
─注文したオムライスはやっぱりうまかった。
「…………。」
朝からずっと『肌が荒れる』だの『起こしてくれなかった』だの『一日の怠けが命取りになる』だのえらく大げさに喚いていた。
ナマエは朝食のシリアルを頬張りながらもムスっとしている。俺は朝は食わないのでナマエの淹れてくれた紅茶を啜っている所だが、さっきからこいつはずっとこの調子だ。
今日は土曜で会社も休みのためゆっくり寝ようかと思ったが、何だかんだでいつも通りの時間に目覚めてしまった。
「…オルブド区に新しく紅茶のうめぇカフェができたらしい。」
「………。」
「そこのパスタがうまいんだと。」
「………。」
「あと、ケーキもうめぇらし「行く。」…分かった。」
そこは即答か。しかも食い気味にきた。甘いもんに目がないこいつらしい。
昨日ちゃっかり着替えは持ってきていたようなので、午前中はゆっくり過ごすことにして昼から二人でオルブド区へ足を運んだ。
───
「んーーーーーー!なにこれ!おいしーーーーい!」
朝とは打って変わってかなりご機嫌だ。俺は内心胸を撫で下ろしていた。
「確かに。ここの紅茶は悪くねぇ。香りが違うな。」
どうやらこの店は当たりだったようだ。オープンしたてということもあり、客が多すぎるのが難点だが。タイミングが良かったようで割とスムーズに入店できたが、一歩間違えればかなり待たされることになっただろう。並ぶことになればきっと俺はやめていた。できることならうまい紅茶は静かに飲みたいもんだが、ナマエの機嫌も直ったようなのでここはよしとする。
「で、昨日の事はもういいのか。」
「なにが?」
「…様子がおかしかった。」
「あー…うん。ありがとうね。ちょっと思うことがあったんだけど、もう大丈夫!リヴァイのお陰で元気になったよ!」
そう言ってまた一口ケーキを頬張り、幸せそうな顔をする。
「そりゃ良かった。なら今度からはシて欲しい時はちゃんと言えよ。」
言ってくれねぇとわからねぇからな。一応周りに他の客も居るため、少し顔を近づけささやくように、そして口端を上げて言ってやると。
「なっ…!そういうことじゃなくて!」
顔を真っ赤にして否定をする。
「違うのか?一発やったから元気が出たんじゃねぇのか。」
違うだろう事は分かっていてもどうしてもからかいたくなる。
「もー!やめてよ!違うし!そんなことこんな公衆の場で言わないでよ!」
それに一発どころじゃなかったじゃない…と蚊の泣くような小さな声でボソリと呟く。
お前も公衆の場で言ってんじゃねぇか…。
「そりゃ悪かったな。」
「全然反省してない…。」
口を尖らせながらそれでもケーキを口にすると笑顔になるナマエを見て俺も思わず笑ってしまった。
賑やかすぎる場所はあまり好きではないが、たまにはこんな日も悪くねぇなと思える休日だった。
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このところ忙しくて休みの日も疲れを取るためにずっと家でダラダラ過ごしていたが、仕事も少し落ち着いたので久しぶりに親友のマルコと出かけることにした。マルコとは職場も違うし俺が忙しかったこともあり、会うのは数ヶ月振りである。
マルコ曰く、オルブドにランチがうまいと評判のカフェの姉妹店ができたらしく、そこに行きたいと言われて今は絶賛長蛇の列の一員だ。周りはほとんどが女同士かカップルばかりで、男二人でこのかわいらしい外観のカフェっつーのもどうかと思ったがマルコは元々そういうのは全く気にならないタイプだ。俺は多少気にする。
「すごいね…。」
「あぁ。新しいもんにはみんな飛び付くもんだな。」
「でもこの待ち時間も割と平気だな。ジャンとこうやって会うのも久しぶりだし、楽しみにしていたんだ。」
そう言ってニコニコと笑うマルコはどうして俺とつるんでいるのか不思議な位俺とは性格が正反対だ。それでも俺自身もこいつと居ると落ち着くので、どこかしら波長が合うところがあるんだろう。
そうこうしているうちに俺たちの順番がやってきた。店内はやはり女子受けを狙っているのか、白のようなベージュのような色の土壁に、木目調の柱、至るところにかわいらしい置物や観葉植物が置かれている。
席に案内された後、店内を軽く見渡していると、奥の方の席に見覚えのある髪型の男性がいた。
…リヴァイ課長だ。なぜこんな所に。似合わねぇ。と思ったが、どうやら女性と一緒らしい。あの人彼女がいたのか。まぁあのルックスなら引く手数多だろうな。あれで女がいねぇわけがねぇかと妙に納得した。
女性の方は背中を向けているせいで顔がわからないのが残念だが、リヴァイ課長よりも小さいその人は後ろ姿だけでも何となくかわいらしい人なんだろうなと想像させられた。羨ましすぎる。しばらく観察を続けていると、リヴァイ課長が少し顔を近づけて何かを話した後、会社では決して見ることはないだろう柔らかな表情で笑っていた。
それを見て俺は思わず固まってしまった。ぞっこんじゃねぇか。あの人女の前だとあんな顔するのか。
「ジャン?どうかしたのか?」
「あ?…あー、悪ぃ。奥の方に会社の上司がいた。」
完全にマルコを放置していた。すまん。
「本当かい?挨拶しなくていいの?」
「あー…彼女と一緒っぽいし、完全にプライベートだろ。やめとくよ。」
どんな彼女か気になるので彼らが店を出るときには顔を見てやろうと密かに思いながら、メニューに目を移した。
マルコはカルボナーラ、俺はデミグラスのオムライスを注文した。
「ふふっ、相変わらず好きだね。」
「…他に食いてぇのがなかったんだよ。」
好物を頼むところを見られるのは何となく照れ臭い。幼馴染みはこういう時に厄介だ。
「そっか。それはそうと、最近仕事が忙しいみたいだね。」
「あぁ、向こうにいる上司が今まで担当してたとこを俺がすることになってな。正直多いし勘弁して欲しいよ。」
つい愚痴のような言い方になってしまったが、勘弁して欲しいのは事実だ。
「そんなこと言ってても、ジャンは求められたことはしっかりしちゃうんだよね。でもそれって君の頑張りが評価された結果なんだろう?すごいじゃないか!」
マルコはこういったことを出し惜しみせずにはっきりと言う。何となくそういう所はどこかナマエさんみたいだと思った。
「求められた事以上はするつもりねぇけどな。」
「またそんなこと言って。ジャンは指揮官向きだからね。その内マネージャーとかになってるんじゃないかな。」
「お前昔からそれ言ってっけど勘弁してくれよ。そこそこでいいんだよ。」
そんなやり取りをしている内に気付けばリヴァイ課長の居た席には別の客が座っていた。知らぬ間に帰ってしまったようだ。
…女の顔を見損ねた。
─注文したオムライスはやっぱりうまかった。