第3話 パートナー
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年度が変わり早1ヶ月。大型連休も終わり休み気分が抜けないまま日々の業務をこなしていたある日の午後、ある程度今日の仕事の目処が立ったところで営業から帰ってきたライナーとベルトルトに少し遅めの昼食に誘われた。ここは会社から程近い場所にある老舗の蕎麦屋で、鰹出汁の香りが店内を包み、落ち着いたBGMが流れる個室ありのこの店の雰囲気が好きで普段からよく訪れている。ピークの時間を少し過ぎているせいか、店内には俺たち以外の客はおらず、落ち着いていてゆっくり食べたい気分だった俺には有り難かった。
「────たんだって?」
いつもの窓際の個室で、鴨南か…山かけか…と、真剣に悩んでいたところで話しかけられ、思わず「…あぁ?」と怪訝な声を出してしまった。
「いや、だからな、連休明け早々に任されてたリーブス商会の案件、一人で取ってきたんだって?」
「すごいじゃないか!ジャン!」
あぁ、あれか。あそこの会長のディモ・リーブス氏は確かに一癖ある男だが、ヤツにとっての好条件─つまりはうまい餌をチラつかせてやるとそれはそれは早かった。いわゆる安牌ってやつだ。
「まぁな。あそこはそこそこの大店だったしな。これでお前らより一歩リードだな。」
気分が良くなった俺は気づけば上天ざるを注文していた。
「順調に行けば俺らの中で幹部の椅子が一番近いのはジャンかもな。」
「バカ言うなよ。俺はそこまで求めてねぇ。」
「違うのかい?ジャンはてっきり上を目指してるんだと思っていたよ。」
「そりゃそれなりのポジションは欲しいけどよ。あくまでもそれなりに、だ。ナイル部長見てみろよ。キース常務とリヴァイ課長の板挟みだぜ?それにここんとこ仕事に追われてるせいで嫁と子供の寝顔しか見てねぇんだと。」
「うわぁ…ナイル部長、そのうち剥げるんじゃないかな。」
…ベルトルト。それ、本人の耳には絶対入れんなよ。
「それで?どうやって取ったんだ?俺たちの今後の為にも聞かせてくれよ。」
たぬきそばをすするライナーが。
「そうだね!僕も聞きたいな。」
きつねそばの揚げをかじりながらベルトルトがそれぞれ聞いてきた。
…キツネとタヌキかよ。何を化かすんだよ。そんなどうでもいいことを思いながら。
「いいぜ、あれはな…」
サクサクに揚げられたエビ天をつゆに潜らせつつ説明してやった。エビうめぇ。
二人に乗せられた俺の口は饒舌だった。
「それは…営業マンとしてどうなんだ…」
「ジャンはすごいなぁ、僕にはきっと真似できないよ…」
二人の言葉は別に気にならない。
「リスクは最小限に…だろ?営業の基本だ。」
危ない橋は渡らねぇ。
──遅めの昼食を終えて部署に戻ってくると、「あ、ジャン!どこに行ってたんだい?ナイル部長が部長室に来いだって。」と先輩社員のナナバさん。同じく先輩社員のゲルガーさんはなぜかニヤニヤしながらこっちを見ている。
「昼飯行ってたんすよ。
ゲルガーさん…なんすかその顔。」
ニヤニヤとしたゲルガーさんに思わず眉根が寄る。
「いいから行ってこいって!」
まだニヤニヤしている。
…何なんだ一体。
何かやらかしたか?俺のような一般社員が部長から呼び出されるなんて滅多にない。
緊張と不安を抱えながら部長室の前で一度深呼吸をする。覚悟をしながら、その分厚い扉をノックした。
「キルシュタインです」
「あぁ。入りなさい。」
失礼します。─言いながら扉を開くと、部長と一緒にそこにいたのは、しかめっ面がデフォルトのリヴァイ課長と、対照的にニコニコとした笑顔がデフォルトのナマエさんだった。
「いきなり呼び出してすまないな。実は君に頼みたいことがあってね。」
ナイル部長が穏やかな、しかしはっきりとした口調で告げる。何かやらかしたわけではなさそうだ。俺はこっそりと胸を撫で下ろした。
「ローゼカンパニーは知っているな?」
「はい、リヴァイ課長とナマエさんが担当している企業ですよね。わが社にとっても大切な取引先の内の一社だと把握しています。」
そうだ、と言いながらナイル部長が続けた言葉に思わず絶句した。
「そのローゼカンパニーだが、今後は君とミョウジ主任に任せることになった。」
「………は?」
思った以上に間抜けな声が漏れる。咄嗟にナマエさんの方を見るがいつも通りニコニコしながらこちらを見ているだけだ。リヴァイ課長はというと、俺の反応が気に入らなかったのか更に眉間にシワが寄っている。怖ぇのでやめてください。
…いや待て、待ってくれ。確かローゼカンパニーといえば、見た目に反して小鹿のように繊細な心臓の持ち主で有名なキッツ・ヴェールマン氏が担当じゃなかったか?慎重すぎる彼をリヴァイ課長が初めて落とした、と武勇伝が残ってるくらいだ。
これは、危ない橋…なんじゃねぇか?
そこを俺が…?
「実は、リヴァイ課長には新規開発でシーナコーポレーションを任せることになったんだ。」
シーナコーポレーション…これまたローゼを上回る大企業だ。リヴァイ課長が担当するのも納得だ。
それで担当替え…か。
いや…でも…
「…なぜ、俺なんでしょうか…ローゼカンパニーみたいな大企業の担当が俺なんかに勤まるとは…」
やっと自分の口から出た言葉は何とも情けない弱音だった。
「君もそろそろ次のステップに進んでもいい頃だと聞いた。複数から推薦もあった。中々の大抜擢だとは思うが。不満か?」
「その為にナマエを残してやるんだろうが。本来ならこいつも俺とシーナを担当する予定だったんだ。こいつはローゼのピクシス部長に気に入られてるからな。お前がヘマしねぇ限りは問題ねぇ。
できるできないじゃねぇ。やれ。」
立て続けに入ってくる情報の多さに頭が真っ白になる。ハイリスクハイリターン。危ない橋。ぐるぐるとそんなことが頭を巡りなにも答えられなかったが…
「これからはパートナーとしてよろしくね、キルシュタインくん!」
嬉しそうに微笑むナマエさんの顔を見たら、心中ではNOと叫んでいるはずなのに
「こちらこそ、よろしくお願いします」
──気づけばそう、頭を下げていた。
「────たんだって?」
いつもの窓際の個室で、鴨南か…山かけか…と、真剣に悩んでいたところで話しかけられ、思わず「…あぁ?」と怪訝な声を出してしまった。
「いや、だからな、連休明け早々に任されてたリーブス商会の案件、一人で取ってきたんだって?」
「すごいじゃないか!ジャン!」
あぁ、あれか。あそこの会長のディモ・リーブス氏は確かに一癖ある男だが、ヤツにとっての好条件─つまりはうまい餌をチラつかせてやるとそれはそれは早かった。いわゆる安牌ってやつだ。
「まぁな。あそこはそこそこの大店だったしな。これでお前らより一歩リードだな。」
気分が良くなった俺は気づけば上天ざるを注文していた。
「順調に行けば俺らの中で幹部の椅子が一番近いのはジャンかもな。」
「バカ言うなよ。俺はそこまで求めてねぇ。」
「違うのかい?ジャンはてっきり上を目指してるんだと思っていたよ。」
「そりゃそれなりのポジションは欲しいけどよ。あくまでもそれなりに、だ。ナイル部長見てみろよ。キース常務とリヴァイ課長の板挟みだぜ?それにここんとこ仕事に追われてるせいで嫁と子供の寝顔しか見てねぇんだと。」
「うわぁ…ナイル部長、そのうち剥げるんじゃないかな。」
…ベルトルト。それ、本人の耳には絶対入れんなよ。
「それで?どうやって取ったんだ?俺たちの今後の為にも聞かせてくれよ。」
たぬきそばをすするライナーが。
「そうだね!僕も聞きたいな。」
きつねそばの揚げをかじりながらベルトルトがそれぞれ聞いてきた。
…キツネとタヌキかよ。何を化かすんだよ。そんなどうでもいいことを思いながら。
「いいぜ、あれはな…」
サクサクに揚げられたエビ天をつゆに潜らせつつ説明してやった。エビうめぇ。
二人に乗せられた俺の口は饒舌だった。
「それは…営業マンとしてどうなんだ…」
「ジャンはすごいなぁ、僕にはきっと真似できないよ…」
二人の言葉は別に気にならない。
「リスクは最小限に…だろ?営業の基本だ。」
危ない橋は渡らねぇ。
──遅めの昼食を終えて部署に戻ってくると、「あ、ジャン!どこに行ってたんだい?ナイル部長が部長室に来いだって。」と先輩社員のナナバさん。同じく先輩社員のゲルガーさんはなぜかニヤニヤしながらこっちを見ている。
「昼飯行ってたんすよ。
ゲルガーさん…なんすかその顔。」
ニヤニヤとしたゲルガーさんに思わず眉根が寄る。
「いいから行ってこいって!」
まだニヤニヤしている。
…何なんだ一体。
何かやらかしたか?俺のような一般社員が部長から呼び出されるなんて滅多にない。
緊張と不安を抱えながら部長室の前で一度深呼吸をする。覚悟をしながら、その分厚い扉をノックした。
「キルシュタインです」
「あぁ。入りなさい。」
失礼します。─言いながら扉を開くと、部長と一緒にそこにいたのは、しかめっ面がデフォルトのリヴァイ課長と、対照的にニコニコとした笑顔がデフォルトのナマエさんだった。
「いきなり呼び出してすまないな。実は君に頼みたいことがあってね。」
ナイル部長が穏やかな、しかしはっきりとした口調で告げる。何かやらかしたわけではなさそうだ。俺はこっそりと胸を撫で下ろした。
「ローゼカンパニーは知っているな?」
「はい、リヴァイ課長とナマエさんが担当している企業ですよね。わが社にとっても大切な取引先の内の一社だと把握しています。」
そうだ、と言いながらナイル部長が続けた言葉に思わず絶句した。
「そのローゼカンパニーだが、今後は君とミョウジ主任に任せることになった。」
「………は?」
思った以上に間抜けな声が漏れる。咄嗟にナマエさんの方を見るがいつも通りニコニコしながらこちらを見ているだけだ。リヴァイ課長はというと、俺の反応が気に入らなかったのか更に眉間にシワが寄っている。怖ぇのでやめてください。
…いや待て、待ってくれ。確かローゼカンパニーといえば、見た目に反して小鹿のように繊細な心臓の持ち主で有名なキッツ・ヴェールマン氏が担当じゃなかったか?慎重すぎる彼をリヴァイ課長が初めて落とした、と武勇伝が残ってるくらいだ。
これは、危ない橋…なんじゃねぇか?
そこを俺が…?
「実は、リヴァイ課長には新規開発でシーナコーポレーションを任せることになったんだ。」
シーナコーポレーション…これまたローゼを上回る大企業だ。リヴァイ課長が担当するのも納得だ。
それで担当替え…か。
いや…でも…
「…なぜ、俺なんでしょうか…ローゼカンパニーみたいな大企業の担当が俺なんかに勤まるとは…」
やっと自分の口から出た言葉は何とも情けない弱音だった。
「君もそろそろ次のステップに進んでもいい頃だと聞いた。複数から推薦もあった。中々の大抜擢だとは思うが。不満か?」
「その為にナマエを残してやるんだろうが。本来ならこいつも俺とシーナを担当する予定だったんだ。こいつはローゼのピクシス部長に気に入られてるからな。お前がヘマしねぇ限りは問題ねぇ。
できるできないじゃねぇ。やれ。」
立て続けに入ってくる情報の多さに頭が真っ白になる。ハイリスクハイリターン。危ない橋。ぐるぐるとそんなことが頭を巡りなにも答えられなかったが…
「これからはパートナーとしてよろしくね、キルシュタインくん!」
嬉しそうに微笑むナマエさんの顔を見たら、心中ではNOと叫んでいるはずなのに
「こちらこそ、よろしくお願いします」
──気づけばそう、頭を下げていた。