第2話 鬼と花の秘密
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「…どうして昨日勝手に帰った。」
資料を捲る紙の音とホッチキスでそれを止めるカチリという音だけが響く会議室。
社員達が続々と出勤してくるザワザワとした喧騒はここには届かない。
カチリ、カチリ、、、
聞いてねぇのか聞こえてねぇのか…こいつは紙を束ねる音を止めない。
「おいナマエ、聞いて───」
────トン─────
ため息を一つ吐きながら束ねた紙を机の上で一度揃えて立ち上がり、こちらに向かってきた。
「アッカーマン課長、ここは、会社ですよ。」
はい、できましたよ───ニッコリと効果音が付きそうな綺麗な笑顔でこちらに資料を差し出してくる。俺が嫌いな笑顔だ。
心の中で舌打ちをしながら差し出してきた資料を受け取らずに─そのまま腕を引っ張った。
「わっ…!」
驚いて咄嗟に腕に力を入れたみてぇだが。そのまま膝の上にナマエを乗せ、腰を抱き寄せた。
「ちょっ……と!アッカーマン課…」
「いつまでその話し方してる。昨夜のお前はどこに行ったんだ。」
ナマエの頬が少し赤みを帯びた気がして、気を良くした俺は吐息を感じるほどの距離で言いながら柔らかな頬に手を滑らせ、その柔らかな唇へ吸い寄せられるように顔を近づける。
──が、俺の唇に触れたのは柔らかな唇ではなく、白くて細い、ナマエの指だった。
「会社でこんなことするなんて、どうしたの?─リヴァイ。」
公私混同はしないんじゃなかったっけ─そう言いながら眉をしかめて俺を睨んでくるその顔は、さっきの変な笑顔よりよっぽどいい。さっき馬面のクソガキとニコニコ嬉しそうに話していたやつと同一人物とは思えない。鼻の下を伸ばして更に馬化が進んでいたクソガキの顔を思い出すと胸糞悪くなった。
ナマエの話し方が元に戻ったので、仕方なく離してやることにした。俺の口を止めたその指を掴みわざと音を立てて唇を寄せてやることは忘れずに。
俺の行動にまた何か文句を言っているが、無視だ。さっき俺の話を無視したお返しだ。
「どうして勝手に帰った。」
「もぅ、話聞いてないし。シャワー浴びたかったの!着替えないと会社にこれないでしょ?」
「そうじゃねぇ。何も言わずに帰ったことを言ってんだよ。シャワーなら俺の家で浴びれば問題ねぇだろ。着替えだってうちに置いとけばいいといつも言ってる。」
「え、嫌だよ。そういうことは彼女ができた時にその子に言いなよ。」
当然のように彼女はそう答える。
─そうだ。俺たちは恋人でも何でもねぇ。ただの同期で、ただの上司と部下だ。
仕事の後に共に食事に出かけ、その日あったことや他愛ない話をする。そして俺の家で当たり前のように体を重ねる。休日も毎回ではないが時間が合えば共に過ごしたり出掛けたりもする。
それでも、俺達は『恋人』ではない。
元々昔から俺達は仲が良く体の関係こそなかったものの、学生時代などは周りからはまるで恋人同士だとよく言われていた。こんな関係になったのは俺のせいだ。当時あることがきっかけで弱っていたこいつに俺がつけ込んだのが始まりだった。
世間ではこんな俺達のことをセフレと呼ぶんだろう。だが俺は違うと思っている。俺達は決して体だけの関係ではない…筈だ。
「会社でこういうことしちゃダメだよ?。変な噂立てられてもあなたも迷惑でしょ?」
「……俺は…」
───コンコン
…構わねぇよ。
その言葉が口から紡がれる前に、タイミングが良いのか悪いのか。丁度邪魔が入った。余計なことを言ってこの関係が変わってしまうのは、“今は”得策ではない。そのまま入り口に向かって入れ、と声を掛けてやる。
「失礼します。ナマエさん!やはりこちらでしたか!ジャンにこちらにいらっしゃると教えて貰いました!
リヴァイ課長、会議前にすみません。あの…ナマエさん、実はナイル部長が来られていて…」
焦ったようにやってきたのは同じ営業部のペトラだった。
「ナイル部長が?このあいだの企画の件かな?私を探してるんだよね?」
「はい…お忙しいところすみません。」
「あなたが気にすることじゃないよ。アッカーマン課長、少し離れますね?会議までには戻りますので。」
ニコリとデフォルトの笑顔に戻ったナマエは、行ってきますねと言いながらペトラと共に会議室を出ていった。
あいつは人好きの笑顔に面倒見の良さ、そしてあの顔で。誰からも好かれている。会社で笑っていないあいつをここ数年見たことがない。まるで喜怒哀楽の怒と哀をどこかに置いてきてしまったように。
昔は、それこそ俺たちが新人の頃は、もっと感情のはっきりしたわかりやすい奴だった。あいつが気持ち悪ぃくらいいつでもニコニコとしだしたのは、4年ほど前からだ。
本来のあいつに戻って欲しいと思わなくもない。コロコロ変わる表情は見ていて飽きなかった。
そして会社の奴らは本当のナマエを知らない。でも、それでいい。俺は周りの奴らが知らないナマエの色んな表情を見ることができるから。例え『恋人』という肩書きがなくとも、素の姿を見られるのが俺だけだという優越感。独占欲。
まぁ、ミケやハンジあたりには少し違うが。
─あいつの感情に触れられるのは俺だけだ。
そんな勝手な自己満足で、あいつが周りと一線を引く理由にも、感情を隠すようになった理由にも。
…『恋人』を作りたがらない理由にも、気付かないフリをしていた。
資料を捲る紙の音とホッチキスでそれを止めるカチリという音だけが響く会議室。
社員達が続々と出勤してくるザワザワとした喧騒はここには届かない。
カチリ、カチリ、、、
聞いてねぇのか聞こえてねぇのか…こいつは紙を束ねる音を止めない。
「おいナマエ、聞いて───」
────トン─────
ため息を一つ吐きながら束ねた紙を机の上で一度揃えて立ち上がり、こちらに向かってきた。
「アッカーマン課長、ここは、会社ですよ。」
はい、できましたよ───ニッコリと効果音が付きそうな綺麗な笑顔でこちらに資料を差し出してくる。俺が嫌いな笑顔だ。
心の中で舌打ちをしながら差し出してきた資料を受け取らずに─そのまま腕を引っ張った。
「わっ…!」
驚いて咄嗟に腕に力を入れたみてぇだが。そのまま膝の上にナマエを乗せ、腰を抱き寄せた。
「ちょっ……と!アッカーマン課…」
「いつまでその話し方してる。昨夜のお前はどこに行ったんだ。」
ナマエの頬が少し赤みを帯びた気がして、気を良くした俺は吐息を感じるほどの距離で言いながら柔らかな頬に手を滑らせ、その柔らかな唇へ吸い寄せられるように顔を近づける。
──が、俺の唇に触れたのは柔らかな唇ではなく、白くて細い、ナマエの指だった。
「会社でこんなことするなんて、どうしたの?─リヴァイ。」
公私混同はしないんじゃなかったっけ─そう言いながら眉をしかめて俺を睨んでくるその顔は、さっきの変な笑顔よりよっぽどいい。さっき馬面のクソガキとニコニコ嬉しそうに話していたやつと同一人物とは思えない。鼻の下を伸ばして更に馬化が進んでいたクソガキの顔を思い出すと胸糞悪くなった。
ナマエの話し方が元に戻ったので、仕方なく離してやることにした。俺の口を止めたその指を掴みわざと音を立てて唇を寄せてやることは忘れずに。
俺の行動にまた何か文句を言っているが、無視だ。さっき俺の話を無視したお返しだ。
「どうして勝手に帰った。」
「もぅ、話聞いてないし。シャワー浴びたかったの!着替えないと会社にこれないでしょ?」
「そうじゃねぇ。何も言わずに帰ったことを言ってんだよ。シャワーなら俺の家で浴びれば問題ねぇだろ。着替えだってうちに置いとけばいいといつも言ってる。」
「え、嫌だよ。そういうことは彼女ができた時にその子に言いなよ。」
当然のように彼女はそう答える。
─そうだ。俺たちは恋人でも何でもねぇ。ただの同期で、ただの上司と部下だ。
仕事の後に共に食事に出かけ、その日あったことや他愛ない話をする。そして俺の家で当たり前のように体を重ねる。休日も毎回ではないが時間が合えば共に過ごしたり出掛けたりもする。
それでも、俺達は『恋人』ではない。
元々昔から俺達は仲が良く体の関係こそなかったものの、学生時代などは周りからはまるで恋人同士だとよく言われていた。こんな関係になったのは俺のせいだ。当時あることがきっかけで弱っていたこいつに俺がつけ込んだのが始まりだった。
世間ではこんな俺達のことをセフレと呼ぶんだろう。だが俺は違うと思っている。俺達は決して体だけの関係ではない…筈だ。
「会社でこういうことしちゃダメだよ?。変な噂立てられてもあなたも迷惑でしょ?」
「……俺は…」
───コンコン
…構わねぇよ。
その言葉が口から紡がれる前に、タイミングが良いのか悪いのか。丁度邪魔が入った。余計なことを言ってこの関係が変わってしまうのは、“今は”得策ではない。そのまま入り口に向かって入れ、と声を掛けてやる。
「失礼します。ナマエさん!やはりこちらでしたか!ジャンにこちらにいらっしゃると教えて貰いました!
リヴァイ課長、会議前にすみません。あの…ナマエさん、実はナイル部長が来られていて…」
焦ったようにやってきたのは同じ営業部のペトラだった。
「ナイル部長が?このあいだの企画の件かな?私を探してるんだよね?」
「はい…お忙しいところすみません。」
「あなたが気にすることじゃないよ。アッカーマン課長、少し離れますね?会議までには戻りますので。」
ニコリとデフォルトの笑顔に戻ったナマエは、行ってきますねと言いながらペトラと共に会議室を出ていった。
あいつは人好きの笑顔に面倒見の良さ、そしてあの顔で。誰からも好かれている。会社で笑っていないあいつをここ数年見たことがない。まるで喜怒哀楽の怒と哀をどこかに置いてきてしまったように。
昔は、それこそ俺たちが新人の頃は、もっと感情のはっきりしたわかりやすい奴だった。あいつが気持ち悪ぃくらいいつでもニコニコとしだしたのは、4年ほど前からだ。
本来のあいつに戻って欲しいと思わなくもない。コロコロ変わる表情は見ていて飽きなかった。
そして会社の奴らは本当のナマエを知らない。でも、それでいい。俺は周りの奴らが知らないナマエの色んな表情を見ることができるから。例え『恋人』という肩書きがなくとも、素の姿を見られるのが俺だけだという優越感。独占欲。
まぁ、ミケやハンジあたりには少し違うが。
─あいつの感情に触れられるのは俺だけだ。
そんな勝手な自己満足で、あいつが周りと一線を引く理由にも、感情を隠すようになった理由にも。
…『恋人』を作りたがらない理由にも、気付かないフリをしていた。