・善法寺伊作の証言




鈴音さんにはいろんな噂がある。それも悪い噂ばかり。
特に、最初に流れた噂が一番酷かった。
鈴音さんが、実の両親を殺した。という噂だ。
彼女は、それを否定しなかった。

彼女の両親は優れた忍者で、彼女は幼い頃から忍者として育ったらしく、入学した頃から恐ろしいほど忍術が得意だった。
でも彼女が入学する直前に、その両親が何者かに殺された。

優秀な忍者だった両親が何故二人とも殺されてしまったのか。犯人は一体誰なのか。
その時の彼女は一言も話さず、手がかりも無かったため、結局何もわからなかったらしい。

彼女は優秀だったし、誰とも仲良くしようとしなかった。
だから誰もが噂を信じて彼女を恐れ、近づこうとしなかった。


でも、僕は知っている。彼女がどんな人なのか。


「またそんな怪我してきて！！自分の体をもう少しは労わってよ。」

『どいつもこいつも本当にしつこいなぁ。』


そう言ってまた逃げようとする。
追いかけようとして一歩踏み出したところで僕は石に躓いた。


「うわっ！！」


だけど、そんな時は稀に


『あのねぇ、他人の怪我を治そうとして自分が怪我しないでよ。』


彼女が助けてくれることがある。
稀に、だけど。


『ただでさえ大怪我してるっていうのに。』


そう、実は今の僕はかなりの大怪我を負っている。というのも、何度も落とし穴に落ちたからで；
しかもよく見てみたら、地面に手裏剣が落ちてるじゃないか。
危なかったな。


「ありがと・・・。」

『礼を言わないでって何度も言ってるでしょう。あと、手を離してくれない？』

「嫌だよ、治療させてくれないと離さない！逃げても追いかけるからね！！」

『はぁ、仕方ないか。』


この人はいつも意地悪だし、嫌味も言うし、容赦なく攻撃をすることもある。
でも本当に危ない時は助けてくれるし、怪我をした人を手荒く扱うことはないのだ。


「いい！？無茶は絶対しないこと。あと無駄に怪我をしないこと。怪我したら保健室に行って治療すること。」

『前に聞いたし、守るつもりはないから。』

「ちゃんと治療しないと大変なことになるんだよ！？言うことちゃんと聞いてよね。」


こんなに言い聞かせても、彼女はまた怪我をしてくるのだろう。

昔から自分を傷つけたがる人だから。
　きっと自分が嫌いなんだ。

昔から人に優しくしたがらないのは。
　きっと人から嫌われたいんだ。

彼女は本当は優しい人だ。
それなのに彼女はわざと人に嫌われるようなことをする。
そのことに気づいた時、僕は一つ推測をした。


彼女は、自分の両親の死に責任を感じているのではないか。


何があったかはわからないけど、身近な人が利用されることはよくあることだ。
もしかしたら、彼女は両親を殺すために利用されてしまったのかもしてない。
それは、子供にとってどれだけ辛いことだろう。
悪魔で僕の推測だけど。


「もう自分を傷つけたりなんてしないでください。」


それが精一杯の僕が言えること。
自分の体を平気で傷つける人なんだ。余計なことを言ったら何をするかわからなくて、怖くて、これ以上のことが言えずにいる。


『さぁね。』


僕は怒ることしか出来ない。
だからきっと君は、僕が君のことを嫌っていると思っていることだろう。

でも、僕は知っている。
君が僕達のために落とし穴をふさいでいることも。


どうしたら気づいてくれるんだい？


君は愛されてもいい人なんだ。