彼女は自分なら平気だと嘘をつく





「例の鈴音先輩が連れてきた子、絶対怪しいのに監視をやめるなんてどうかしてるよな。」

「だよなぁ。鈴音先輩って忍者に向いて無いのに、成績良いからってだけで前から優遇されてないか？」





「先輩のこと、悪く言うなっ！！何も知らねぇくせに！」


鈴音と美夜の話をしている学生の話を聞き、偶然その場にいた富松は思わず叫んでいた。


「誰かを救うことの何がいけねぇんだよ！忍者に向いてるとか向いてないとか関係ねぇ！！！」


悪いことなんて何もしていない。それなのにどうして、そんな風に言われなければいけないのか。
富松はそのことがどうしても許せなかった。


「先輩は、てめぇらみたいに悪口なんて言わない人なんだ！！どんなに傷つけられても、文句も何も言わないんだ！！」


二人の悪口を言っていた学生は直ちにその場から去り、富松に捕まっていた次屋と神崎は感嘆の声をあげた。


「さっきの作兵衛すごかったなー。」

「作兵衛、かっこよかったぞ。」

「・・・んなことねぇよ。」


富松は切なそうに呟く。


「俺は、俺は何もしてねぇんだよ。」


富松もかつては、何も知らずに鈴音を恐れていた一人だった。

何度か関わることで、本当は優しいことや苦労していることなんかを知ったのだ。

でも、それを知った今でも何故か先輩への恐怖が克服できずにいる。
辛そうな時に声をかけることもできなければ、尊敬していると言うことすらできない。


「なんでか、余計なことを言っちまいそうで何も言えなくなるんだ。こんなんじゃいけねぇのに。」

「作兵衛・・・。」

「でも、きっといつか言えるさ。そんなに良い先輩なら、他に優しくしてくれる人だっているだろうし。」

「それじゃ駄目なんだよ！！どれだけ愛されたって、誰かに嫌われるのは辛ぇんだよ・・・！」


特に鈴音はそういう人なのだ。
誰であっても自分を拒絶されることで、本当はすごく傷ついている。


「よし、じゃあ俺が作兵衛の気持ちを伝えてきてやるよ！！」

「僕も！！ついでに僕らも好きだと言おう！」


二人は富松を励まし、富松と鈴音を元気付けようと駆け出した。
結局、まったく違う方向へと走り去ってしまうのだが。


「っ馬鹿！そっちじゃねえよ！！」


所詮、思いは必ず届くことなんて奇跡は御伽噺の世界でしか起きないのだ。