落乱
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この御時世、いつ命を落としかねない事態が起きても不思議ではない。
自身に危険がつきまとうこともある。
部下が何者かに狙われることだってある。
そして、誰かを守ろうとその身を犠牲にする者がいることも。
「無事かい?」
雑渡は自分の腕の中にいる少女、スズネに語りかけた。
彼女は忍術学園の生徒で、何度か会話を交わしていた相手だった。
『あ・・・はい。ありがとう、ございます。』
それは一瞬のような出来事だった。
雑渡昆奈門の部下、諸泉尊奈門が襲われそうになっているのを見かけたスズネは飛び出した。
おかげで敵の攻撃はなんとか防げたものの、隠れていた別の人物に火縄銃で狙われてしまうことになった。
それに気づいた雑渡は、撃たれる直前だったスズネの体を庇いこんだのだ。
そのまま二人は勢いのまま転がり込んで崖から落ちてしまい、今にいたる。
「とりあえず、ここにいるのは危ないね。隠れよう。」
雑渡の提案で、スズネはひっぱられるように崖の壁の隙間へと一緒に入ることになった。
ひとまずその場で休むことになり、そこでやっと身柄を解放される。
『雑渡さん、怪我してるじゃないですか!』
「あぁ、少し弾がかすってしまったようだね。」
『それだけじゃないでしょうっ。崖から落ちるときだって、私を庇ったから!』
「気にしなくて良い。そんなに大きな怪我はしてないさ。」
たしかに高いところから落ちたが、落ちる途中で忍具を使って崖から生えていた木にぶら下がれた。
だから実際は落下時のダメージを減らすことはできたのだ。
残念なのは、安全を確保する暇もなくその木がポッキリと折れてしまったことだが。
『だけど、いくら雑渡さんでもその怪我じゃ心配です。』
「たしかに、少しは手当てした方がいいかもしれないね。」
『あっ!それじゃあ私、上にいる尊奈門さんを呼びに行ってきます!』
急いで外へ出ようとするスズネ。
だが、雑渡は立ち上がろうとしたスズネの手を慌てて掴んだ。
「待った。」
スズネは驚いて振り返る。
しかし、どうしたものか。
彼が、らしくもなく目線を泳がせている。
しばしの、沈黙が続く。
「呼ばなくていい。」
『え?』
「君が、手当てしてくれ。」
できるだろう?と言われて、スズネは戸惑いながらも承諾することにした。
組頭の彼がそういうのだから、きっと何か意味があるのだろう。
それになにより自分を庇って怪我をした人なのだから。
放っておけるはずがない。
「うん、君に頼んで正解だったね。いい薬いろいろ持ってたし、包帯を巻くのも上手だ。」
『そ、そうですか?ありがとうございます。』
ありあわせではあるが、なんとか治療をして包帯を巻く。
実は今回の戦に関係する実習のために薬を色々持ってきていた。それが役立ったことに安堵する。
「君が無事で本当によかった。部下を助けてもらって申し訳ない。だが、もうあんな無茶はしないでくれ。ましてや君は、タソガレドキの忍者ではないのだから。」
『それはそうですけど、見過ごすなんてことできませんよ。』
「君も、つくづく甘いねぇ。」
その言葉を聞いて、スズネは保健委員の伊作のことを思い浮かべた。
あの人もこんな風にこの人の手当てをしていたんだろうかと考えながら治療を済ませる。
そうして処置が終わると、彼はすぐ任務に戻ろうとしたので今度はスズネが引き止めた。
『駄目ですよ!せめてあと少しだけ体を休ませないと。』
「もう手当ては済んだ。私なら大丈夫だから君はもうしばらくここにいるといい。」
『嫌です!雑渡さん、私に無茶するなって言ったじゃないですか。それなのに、その体で無理しないでくださいよ!』
「スズネちゃん・・・。」
『どうしても行かなきゃいけない理由があるなら仕方ないのかもしれませんが、そうじゃないのに行くなら私怒りますからね。』
真意を伺いながら雑渡にせまるスズネ。
そのあまりに真剣な顔を見て、雑渡は観念したように彼女の前に座った。
「わかったよ。君がそこまで言うなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな。」
そう伝えて、壁に寄りかかる。
仮眠をとるつもりなのだろう。敵が来たときにすばやく反応するための寝方だ。
しかし、少し日も暮れたその空間は少し肌寒かった。
スズネは一つくしゃみをする。
「寒くなってきたね。」
『えぇ、毛布でもあればよかったんですけど。』
「いや、必要ないよ。」
言うが早いか、雑渡はスズネを自分の元へと引き寄せて抱きしめた。
『!』
「これでいい。」
楽しそうな笑顔を見せたかと思えば、目を瞑ってしまった。
『雑渡、さん?』
間を開けて、声をかけるも返事はない。
もう、眠ってしまったのだろうか。それとも眠ったふりをしているのだろうか。
どちらにせよ、起こしてしまうようなマネはできないので動けない。つまり、離れられなくなってしまった。
『(寝たふりかもしれないけど、この人の寝顔を見れるなんて貴重なんじゃ。)』
スズネはその身を預けながら、目の閉じたその顔をまじまじと見つめる。
そうしてるうちに、自分の瞼も重くなってきていく。
『(そういえば雑渡さん、私の夢を見たって言ってたなぁ。)』
手当てをしている時の話だ。
思いだしたように、雑渡は彼女に言った。
「実は昨日、君の夢を見たんだ。正夢に、ならなくてよかった。」
庇って傷つき、倒れる夢だったんだそうだ。
たしかにあの時、庇われなければどうなっていたかわからない。
だからこうして、二人とも無事だったことがとても嬉しい。
起さないようにと、スズネは静かに囁く。
『おやすみなさい。雑渡さん。』
その微かな声をぼんやりと聞いていた雑渡も、胸の内で答えていた。
「(おやすみ。スズネ。)」
今度は、いい夢が見れそうだ。
特別に甘い夢を。
〆
自身に危険がつきまとうこともある。
部下が何者かに狙われることだってある。
そして、誰かを守ろうとその身を犠牲にする者がいることも。
「無事かい?」
雑渡は自分の腕の中にいる少女、スズネに語りかけた。
彼女は忍術学園の生徒で、何度か会話を交わしていた相手だった。
『あ・・・はい。ありがとう、ございます。』
それは一瞬のような出来事だった。
雑渡昆奈門の部下、諸泉尊奈門が襲われそうになっているのを見かけたスズネは飛び出した。
おかげで敵の攻撃はなんとか防げたものの、隠れていた別の人物に火縄銃で狙われてしまうことになった。
それに気づいた雑渡は、撃たれる直前だったスズネの体を庇いこんだのだ。
そのまま二人は勢いのまま転がり込んで崖から落ちてしまい、今にいたる。
「とりあえず、ここにいるのは危ないね。隠れよう。」
雑渡の提案で、スズネはひっぱられるように崖の壁の隙間へと一緒に入ることになった。
ひとまずその場で休むことになり、そこでやっと身柄を解放される。
『雑渡さん、怪我してるじゃないですか!』
「あぁ、少し弾がかすってしまったようだね。」
『それだけじゃないでしょうっ。崖から落ちるときだって、私を庇ったから!』
「気にしなくて良い。そんなに大きな怪我はしてないさ。」
たしかに高いところから落ちたが、落ちる途中で忍具を使って崖から生えていた木にぶら下がれた。
だから実際は落下時のダメージを減らすことはできたのだ。
残念なのは、安全を確保する暇もなくその木がポッキリと折れてしまったことだが。
『だけど、いくら雑渡さんでもその怪我じゃ心配です。』
「たしかに、少しは手当てした方がいいかもしれないね。」
『あっ!それじゃあ私、上にいる尊奈門さんを呼びに行ってきます!』
急いで外へ出ようとするスズネ。
だが、雑渡は立ち上がろうとしたスズネの手を慌てて掴んだ。
「待った。」
スズネは驚いて振り返る。
しかし、どうしたものか。
彼が、らしくもなく目線を泳がせている。
しばしの、沈黙が続く。
「呼ばなくていい。」
『え?』
「君が、手当てしてくれ。」
できるだろう?と言われて、スズネは戸惑いながらも承諾することにした。
組頭の彼がそういうのだから、きっと何か意味があるのだろう。
それになにより自分を庇って怪我をした人なのだから。
放っておけるはずがない。
「うん、君に頼んで正解だったね。いい薬いろいろ持ってたし、包帯を巻くのも上手だ。」
『そ、そうですか?ありがとうございます。』
ありあわせではあるが、なんとか治療をして包帯を巻く。
実は今回の戦に関係する実習のために薬を色々持ってきていた。それが役立ったことに安堵する。
「君が無事で本当によかった。部下を助けてもらって申し訳ない。だが、もうあんな無茶はしないでくれ。ましてや君は、タソガレドキの忍者ではないのだから。」
『それはそうですけど、見過ごすなんてことできませんよ。』
「君も、つくづく甘いねぇ。」
その言葉を聞いて、スズネは保健委員の伊作のことを思い浮かべた。
あの人もこんな風にこの人の手当てをしていたんだろうかと考えながら治療を済ませる。
そうして処置が終わると、彼はすぐ任務に戻ろうとしたので今度はスズネが引き止めた。
『駄目ですよ!せめてあと少しだけ体を休ませないと。』
「もう手当ては済んだ。私なら大丈夫だから君はもうしばらくここにいるといい。」
『嫌です!雑渡さん、私に無茶するなって言ったじゃないですか。それなのに、その体で無理しないでくださいよ!』
「スズネちゃん・・・。」
『どうしても行かなきゃいけない理由があるなら仕方ないのかもしれませんが、そうじゃないのに行くなら私怒りますからね。』
真意を伺いながら雑渡にせまるスズネ。
そのあまりに真剣な顔を見て、雑渡は観念したように彼女の前に座った。
「わかったよ。君がそこまで言うなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな。」
そう伝えて、壁に寄りかかる。
仮眠をとるつもりなのだろう。敵が来たときにすばやく反応するための寝方だ。
しかし、少し日も暮れたその空間は少し肌寒かった。
スズネは一つくしゃみをする。
「寒くなってきたね。」
『えぇ、毛布でもあればよかったんですけど。』
「いや、必要ないよ。」
言うが早いか、雑渡はスズネを自分の元へと引き寄せて抱きしめた。
『!』
「これでいい。」
楽しそうな笑顔を見せたかと思えば、目を瞑ってしまった。
『雑渡、さん?』
間を開けて、声をかけるも返事はない。
もう、眠ってしまったのだろうか。それとも眠ったふりをしているのだろうか。
どちらにせよ、起こしてしまうようなマネはできないので動けない。つまり、離れられなくなってしまった。
『(寝たふりかもしれないけど、この人の寝顔を見れるなんて貴重なんじゃ。)』
スズネはその身を預けながら、目の閉じたその顔をまじまじと見つめる。
そうしてるうちに、自分の瞼も重くなってきていく。
『(そういえば雑渡さん、私の夢を見たって言ってたなぁ。)』
手当てをしている時の話だ。
思いだしたように、雑渡は彼女に言った。
「実は昨日、君の夢を見たんだ。正夢に、ならなくてよかった。」
庇って傷つき、倒れる夢だったんだそうだ。
たしかにあの時、庇われなければどうなっていたかわからない。
だからこうして、二人とも無事だったことがとても嬉しい。
起さないようにと、スズネは静かに囁く。
『おやすみなさい。雑渡さん。』
その微かな声をぼんやりと聞いていた雑渡も、胸の内で答えていた。
「(おやすみ。スズネ。)」
今度は、いい夢が見れそうだ。
特別に甘い夢を。
〆