落乱
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『いってらっしゃいませ、雑渡様!』
雑渡「うん。すぐ戻ってくるからね、スズネ。」
普段と変わらない、そんな会話を交わして私は愛しいスズネと離れて任務へ向かう。
しばらく会えないのは残念だが、スズネが待っていてくれると思うだけで任務がはかどる。
私は、この日々に満足していた。
他の奴らにちょっかいだされないかな、とか。いつか自分の身に何かあったら困るな、とか。
何かしらの障害を考えたことはあったが、それでも私達の愛の間に立ちはだかるものは何も無いと思っていた。
保健室に立ち寄ったある日、伏木蔵くんの一言を聞くまでは。
伏木蔵「そういえばスズネさんって、雑渡さんがいなくて寂しかったりしないんですかぁ?」
雑渡「スズネが?」
伏木蔵「だって僕、雑渡さんが帰る時はいつも寂しいなって思うから。雑渡さんがよく話してるスズネさんって人も同じ気持ちなのかなって思って。」
スズネが、寂しい?
そんなことは当然だろう。
だから急いで帰っているし、彼女も帰るたびに嬉しそうに出迎えてくれるし。
伊作「もう、そんなの当たり前じゃないか、伏木蔵。」
伏木蔵「そうですけど、だったら僕があんまり我侭言って引き止めちゃいけないなぁって思って。」
伊作「そうか、伏木蔵はえらいなぁ。雑渡さん、こう言ってくれてることだし今日は早く帰ってあげたらいかがですか?・・・雑渡さん?」
スズネに寂しい思いをさせている。
ずっとそう思っていたのに改めて人から言われてみると、何故かしっくりこなかった。
そこで今日出かける時に見た顔を思い出してみる。
【いってらっしゃいませ、雑渡様!】
とびっきりの、笑顔だったなぁ。
いや待て。あれはいわゆるあれだ。寂しいのをぐっと堪えての笑顔とか、私とそういうやり取りをするのが好きだからで、実は帰ってくるまで寂しがってるとか!
と言い訳を探しては見るものの、忍者の感がそれは違うと悟させる。
雑渡「そう、だね。じゃあお言葉に甘えて今日はもう帰ることにするよ。またね。」
お別れの挨拶を済まして、すぐにでも事実を確認するために城へと戻る。
今回の任務の連絡は高坂にまかせたし、普段ならまずスズネの元へ行くところだが、その前に陣内に話を聞きにいくことにした。
陣内なら私がいない間のスズネの様子をよーく知っているはずだ。
陣内「え゛?・・・・組頭がいない時にスズネがどうしているか、ですか。今か今かと帰りを待ちわびておりますよ。」
雑渡「あからさまに動揺したよねぇ。」
私相手に誤魔化しても無駄だと判断したのか、陣内はすぐに腹をくくったようだった。
うん、さすが陣内だ。賢い選択だよ。
陣内「実は。」
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スズネ「次はどの本を読みましょうか、雑渡様。」
事情を聞いた後こっそりと離れた場所からスズネのことを見てみれば、陣内に言われたとおりの光景だった。
スズネが楽しそうに話しかけた相手、それは私ではない。
私の形をしたギニョールだ。
以前、私が寂しくないようにと彼女にあげたものだったが想像以上の働きをしてくれているようだ。
雑渡「気に入ってくれているとは思っていたけど、まさか私のいない間にベッタリだなんて!」
陣内「組頭。自分のギニョールに嫉妬などしていたら器が小さいと言われますよ。」
雑渡「わかってはいるんだけどね、私はあんな風に強く抱きしめられたことなんてないし、膝にのせてもらったこともないんだよ!」
陣内「落ち着いてください組頭!それはギニョールだからです!!ギニョールだからですよ!!」
わかってるって。わかってるんだよ。
だが、どうしても悔しいような気持ちが沸き上がってくる。
私はこれまで会話を交わしたり撫でたり一緒に出かけたり抱きしめたりしたことはあれど、スズネの方から抱きしめられたり甘えさせられたりしたことはなかった。
雑渡「構っている時間が無いのもあるが、あんなに密着することなんてほとんど無いのにっ。あれをあげた自分が憎い!」
陣内「そうおっしゃらないでください。おかげでスズネが寂しい思いをせずに済んでいるではありませんか。」
それはそうだが、寂しがられていないというのはなんとも空しい。
それに、ギニョールが代わりになる程度の存在だったのかとも思わされるじゃないか。
あまりのショックに打ちひしがれていると、スズネの言葉が耳に入った。
スズネ「それにしても、そろそろ帰ってくる頃だと聞いていたのに遅いですね、雑渡様。今、どこにいらっしゃるんでしょう。」
話しかけているのは相変わらずギニョールの方だったが、話しているのはたしかに私の話題だった。
そして、スズネは外をじっと見つめた。
なんだ、ちゃんと私を待っていてくれていたんじゃないか。
陣内「ほら、待ちかねているようですよ。早く行ってあげたらどうです?」
雑渡「そうだね。私としたことが随分と遠回りをしてしまったようだ。すぐ戻るとするよ。」
そうしたらあのギニョールよりスズネとベッタリしてやろうじゃないか。
そう意気込んでスズネの元へと急いだのだった。
スズネ『あ!お帰りなさいっ雑渡様!』
雑渡「やぁ。ただいま、スズネ。会いたかったよ。寂しかったかい?」
スズネ『いいえ!』
雑渡「え。」
スズネ 『だって私の中にはいつまでも雑渡様がいますから!』
雑渡「・・・もう。そんなこと笑顔で言われたら、負けるよ。本当。」
〆