・うつし身
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雑渡「で、君は一体何者なのかな?」
隙をつかれ、私は両手をふさがれていた。
気づかれた!?
雑渡「結構上手く変装してるよね。最初は気づかなかったよ。」
それは、体は本人だからなのだろうけど。
雑渡「本物は今どこにいるんだい?君の目的は?」
身動きのとれない私に、鋭い目つきと殺気を向ける。
驚きと戸惑いで言葉の出てこない私に、掴む力が強まった。
雑渡「黙ってたんじゃ何もわからないよ?」
これは、正直に話さなければ何をされるかわからない。
でも、だけど。
『そんなこと、言ったって。』
雑渡「?」
『話したところで、あなたは信じてくれるんですか・・・?』
我慢していた感情が抑えきれず、涙が溢れてきた。
みっともなく泣いている私を彼は呆然と見つめる。
意味がわからないだろう、呆れていることだろうと思いつつも涙がとまらない。
そんな私に、彼は独り言のようにつぶやいた。
雑渡「スズネ、ちゃん?」
『え?』
雑渡「スズネちゃんなの?」
言葉に驚いてその顔をよく見てみれば、向こうも確信に迫ったように見開いた目で私を見ていた。
ーーー
拘束が解かれ、私は改めてこの体に憑依してしまったことを話した。
『でも、よくわかりましたね。さすがは組頭といったところでしょうか。』
雑渡「まぁね。自分でも驚いてるよ。一瞬だけ君に見えたものだから、まさかと思ったけど。」
この人の前で泣いた覚えはないのだけれど、どうしてそう見えたのかしら。
そんなことをつぶやけば、「口調がそれっぽかったし。」と付け加えられた。
それでも、私と結び付けられるほど会話した覚えはなかった。
雑渡「だけど、どうしてそうなっちゃったんだろうね。伊作くんは君の体にいるのかな?」
『それは、無いと思います。』
雑渡「え?」
『私が、この子の体に入ってしまっただけなんだと思います。そんな気がするんです。』
雑渡「やけにはっきり言うね。どうしてそう思うの?」
『・・・私は、もうこの世にいないだろうから。』
今度は、彼が黙り込んだ。
静かになった部屋で、お互い何も喋らずに時が進んでいく。
私は彼の顔が見れずにうつむいていた。
ふいに床に置いていた手に、彼の手が重なった。
驚いて、おずおずと様子を見ようと目線をゆっくり動かしてみたけれど、表情が見えない。
雑渡「そっか。やっぱりね。」
『やっぱり、ですか。』
雑渡「君が仲間に裏切られたって、情報があったから。」
『そうなんですか。』
雑渡「君は、最後まで私の元に来てくれなかったね。」
『当然じゃないですか、だって・・・だって・・・私は、絶対に一度決めた城主のために働くって誓ったんですから。』
雑渡「うん。そんな君だから、私は欲しくなったんだ。」
彼はまた泣き始めてしまった私を、優しく抱きしめる。
こんなこと、前だったら許されなかったけど今はもう関係ないこと。
私は大人しくその腕に抱かれていた。
そして、自分の意識や体の力がどこか別の場所へと導かれていくのに気づく。
『もう、お別れみたいです。』
雑渡「そうなの?」
『はい。』
雑渡「・・・離したくないなぁ。」
『ありがとうございます。私、やっとわかりました。』
私の本当の未練。本当の気持ち。
『ずっと前から、あなたのこと嫌いじゃなかったみたいです。』
きっと自分自身も、あなたを傷つけたくなかった。
『もし生まれ変われたら、またスカウトしてくれますか?』
雑渡「もちろん。そうしたら、今度は私の元にいてくれるかい?」
『喜んで。』
そこで、私の意識は消えた。
雑渡「なーんてことあったね。スズネちゃん。」
タソガレドキ城のとある部屋。
私に向かって組頭は当時の話をしていた。
『今でも信じられないです。あの体で、生き残れるなんて。』
雑渡「意識がない間、助けてくれた人がいてくれてよかったよ。」
『おかげで、また会えましたね。』
雑渡「まぁ、ね。」
本当に、奇跡みたいな話だ。
雑渡「さっき部下にも伝えてきたし、これで正式にうちの忍になったから。」
『でも、良いんでしょうか?私なんかが入っても。』
雑渡「大歓迎だよ。君だって帰るとこないんだから、もうそういうこと言わないの。」
私はあの任務の捨て駒だったらしく、私を襲った彼らは城主の命令で動いていたらしい。
組頭によれば、そういう意味でも悪い噂の絶えない城だったから、私を積極的にスカウトしていたんだとか。
雑渡「君がいなくなった後、大変だったんだから。伊作くんに説明したり、君を必死に探したり。」
『申し訳ないです。』
雑渡「あの時は、本当に君がいなくなったんじゃないかって思ったんだから。」
『心配させてすみませんでした。これからは恩返しのためにも、組頭のために生きていきますね。』
雑渡「当然だよ、君は私のものなんだから。君は私が絶対死なせない。」
この人がそう宣言するんだったら、そうなるに違いない。
むしろ、当分死ぬことは許されなさそうだ。
雑渡「それにしても君、随分と変わったよね。」
『そうですか?』
雑渡「だって、前は私に冷たかったじゃない。」
『敵ならあたりまえじゃないですか。でもこれからは、こちらの城に尽くしていきますよ。』
雑渡「それはそうだけど、まいったなぁ。」
『何がです?』
雑渡「なんか調子狂っちゃうよ。かわいすぎて。」
こんな会話をしている私達を見た人からは、まるで夫婦のように目に映ったらしい。
あたらずとも、遠からず。
〆
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長かった・・・予定よりだいぶ長くなった;
憑依ネタでどうまとめようか悩みましたが、結局昔書いた元ネタに落ち着きました。