◆THE STRAY CHILD
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真夜中に夜道を歩くのは、少女であれば特に危険なことだ。
あちこちに墓標があるのを見れば、恐怖や不安を感じてもいいはずである。
だが、子供ゆえの無知か、はたまた油断か。
少女は自分の置かれている状況をまるでわかっていなかった。
スズネは、ある墓標に近づいた所で、誰かに足を掴まれた。
そして、地面へと引き込まれたのだった。
「やぁ、よく来たね。とはいっても僕が連れ込んだようなものか。」
目の前にいたのは干からびた死体。
周りの壁が土でできていることから、スズネは今いる場所が地面の下の空間であると理解した。
干からびた死体は机の上にあったグラスを一飲みする。
「まさかこんなところに君みたいな子供まで来るとは思わなかったよ。」
『迷ってしまって。』
「なるほど。迷って、ねぇ。」
急に連れ込まれて緊張していたスズネだったが、相手の親切そうな雰囲気に少しずつ心を許していく。
『あなたはどうしてここに?』
「僕もここから出たいんだけどねー。この体をみてみなよ。風が吹けば崩れちゃうし、雨が降ったら溶けだしちゃうんだ。」
『それは不便ですね。』
「だからね、君みたいな子が来るのをずっと待ってたんだよ。」
『私みたいな子?』
「そう、ここから出るために必要だからね。」
干からびた死体はスズネへとゆっくり近づいていく。
「君みたいな・・・生身の体がね!!!」
途端、それまでの態度を豹変させて飛び掛ってきた。
「さぁ!!その体をよこせぇ!!!!」
『!?』
突然の変化に驚き、反応もできないうちに両腕をがっしり掴まれてしまう。
突然のことに混乱しながらも、スズネは先ほどまでの会話から一体どんな状況なのかを必死に考える。
スズネは全てを理解し、自分なりの答えを導き出した。
『わかりました。』
「何?」
あまりに簡単に自分の体をさしだすと言うものだから、彼は呆然とする。
どうしてそんなことが言えるのかと思い、彼女に問う。
「本当にわかってるのか?それがどういう意味か。」
『一応、わかったつもり、です。』
スズネは、何ともないかのように話す。
『でも私、もうやりたいことって特にありませんから。誰かの役に立つならその方が良いかと。』
「正気か?」
『自分にとって必要じゃなければ、必要な人にあげるのが普通じゃないですか。』
「・・・・。」
『もしかしたら、あなたみたいに生きられるかもしれませんし。』
そう言って少女は微笑んだ。
すっかり調子が乱され、干からびた死体は先ほどと同じような雰囲気に戻っていった。
「ははっ・・・あんた、まるでわかってないじゃないか。」
『そうですか?ごめんなさい。』
本当に、軽く考えすぎだ。
この生活がどれほど苦痛か知らなすぎる。だからこそ、生身の体を欲しているというのに。
謝られるのは、複雑な気分だった。
『あっでも、こんな体で大丈夫ですか?性別、違いますよね?それに私子供だし。』
「ん?あぁ、そういえばそうだね。」
『どうします?』
そんなことを聞かれるとは思わなかった。
初めは、生身の体が手に入るなら何でも良いと思っていたのだが。
「もういいや、他の人の体にしておくよ。君の言うことも、一理あるだろうし。」
『本当に、いいんですか?』
「君と話すのも面白そうだしね。」
それからスズネはここに来るまでの経緯や、これからどうするつもりかを話すことになった。
話を聞き、やはり不思議な少女だと思いながら干からびた死体は思考をめぐらせる。
「お金を払えないなら、そこで働くっていうのはどう?」
『なるほど。でも、やらせてもらえるでしょうか?』
「あのホテルなら、手伝いぐらいやらせてくれるよ。」
支配人だって、客にいて欲しいだろうしな。
『わかりました、さっそく頼みに行ってきます。』
「ちょっと待った。君、名前は?」
『あ、名乗り遅れてすいません。スズネっていいます。』
「スズネちゃん、ね。よろしく。」
『はい。それじゃあ、またお話しましょうね。楽しみにしてます。』
少女が出て行くのを見送り、彼はグラスに飲み物を注ぐと、それを再び飲み込んだ。
「まったく、僕もどうかしてるよ。」
せっかく捕まえた獲物を逃がすなど。
それでも、彼女と話せるのならば、ここにいるのもわるくないかもしれない、などと思っていたり。
「せいぜい大事にするんだね。生きてるだけで儲け物、なんだから。」