- シェフ -
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
壊れた。
シェフは、スズネの身に起こってしまった変化を感じ取った。
心が、壊れてしまった。
なんの確証もなかったが、そう思った。
「(ついに、壊れたのか。)」
日常の狂った世界にいるのだ。
この世界に訪れた住人は、誰もがいつかはそうなりはてる。
それが当然であり、自然のことであった。
『(喜んでいいものか、悲しむべきなのか。)』
彼女の方も、壊れてしまったことは理解しつつも他人事のように考えを巡らせていた。
涙が出ない代わりに、目の色が無くなるような感覚を覚える。
もう休んでいいんだよと自分に言い聞かせた言葉が、別の意味で体を蝕む。
それでもシェフには、いつも通りの顔を見せながら食事をとっていた。
『(これが、最後の晩餐にでもなるんだろうか。)』
そんなことを考えていくうちに、彼女は自分の思考回路がおかしくなっていくのに気が付いた。
ずっと願っていたことなのに。
何度も考えたことなのに。
『(消えたくない。)』
これまでとは反対の言葉が繰り返される。
頭ではとっくにわかっているのだ。理解してしまっていた。
消えても得なんてない。未練だってたくさんある。
それなのに。
『(なのに!)』
衝動が、理性を許さない。
壊れたものは治らない。
『ごちそうさまでした。』
席を立って、ナイフを持った。
「スズネ、まて。」
そのまま去ろうとした彼女を、密かに見ていたシェフが声をかける。
バレたか、と思った。だが、臆することはなかった。
もう何があっても、彼女にはどうでもいいことだからだ。
『何?シェフ。』
「…今日は、最後にスープがある。」
そういうことかと、納得をして再び席に座る。
別に、スズネはシェフが嫌いという訳じゃなかった。
他の住人だったら無視するつもりだったが、彼は別だった。
わざわざ嫌われることをする必要もないと判断して、大人しく従うことにする。
「( …。)」
一方のシェフは、自分の行動に驚いていた。
スープはとっさの言い訳だ。
どうして彼女を引き留めたのだろうと不思議に思う。
どうせなら自分の料理で、とでも思ったのだろうかと考えながら煮えたぎるスープを混ぜていた。
混ぜて、混ぜて、混ぜ込んで。
スズネのことを考えながら、混ぜ込んだ。
「…そうか。」
スズネのことを考えているうちに、浮かんできた想いから答えを見つける。
自分の何かも、きっと彼女に壊されたのだ。
そこまで理解して頭もすっきりした。スープも出来上がった。
あとはこれを彼女に届けるだけ。
「スズネ。」
大人しく待っていたスズネの前に、出来立てスープを優しく置いた。
それは湯気と共に良い匂いをただよわせる。
『美味しそうだね。』
「今回は特製~。」
いつもならば物騒な地獄のシェフの特製という言葉だが、今回ばかりは美味しそうに見える。
スズネはそのスープを素直にいただいた。
『美味しかったです。』
「また、美味い料理作る~。」
『そっか。』
「だから、また。」
『ん?』
「また、来い。」
何気ないその言葉が、何故か彼女に胸の内に刺さる。
先ほどまでは、ずっと最期の風景ばかりを思い浮かべていたというのに。
おそらく、そのときに彼のことを思い出せば。
自分はまた救われる。
何となく、彼女はそう感じた。
『うん。また来るね。』
そう返した彼女に、シェフは満足そうにニヤリと笑ったのだった。
〆
シェフは、スズネの身に起こってしまった変化を感じ取った。
心が、壊れてしまった。
なんの確証もなかったが、そう思った。
「(ついに、壊れたのか。)」
日常の狂った世界にいるのだ。
この世界に訪れた住人は、誰もがいつかはそうなりはてる。
それが当然であり、自然のことであった。
『(喜んでいいものか、悲しむべきなのか。)』
彼女の方も、壊れてしまったことは理解しつつも他人事のように考えを巡らせていた。
涙が出ない代わりに、目の色が無くなるような感覚を覚える。
もう休んでいいんだよと自分に言い聞かせた言葉が、別の意味で体を蝕む。
それでもシェフには、いつも通りの顔を見せながら食事をとっていた。
『(これが、最後の晩餐にでもなるんだろうか。)』
そんなことを考えていくうちに、彼女は自分の思考回路がおかしくなっていくのに気が付いた。
ずっと願っていたことなのに。
何度も考えたことなのに。
『(消えたくない。)』
これまでとは反対の言葉が繰り返される。
頭ではとっくにわかっているのだ。理解してしまっていた。
消えても得なんてない。未練だってたくさんある。
それなのに。
『(なのに!)』
衝動が、理性を許さない。
壊れたものは治らない。
『ごちそうさまでした。』
席を立って、ナイフを持った。
「スズネ、まて。」
そのまま去ろうとした彼女を、密かに見ていたシェフが声をかける。
バレたか、と思った。だが、臆することはなかった。
もう何があっても、彼女にはどうでもいいことだからだ。
『何?シェフ。』
「…今日は、最後にスープがある。」
そういうことかと、納得をして再び席に座る。
別に、スズネはシェフが嫌いという訳じゃなかった。
他の住人だったら無視するつもりだったが、彼は別だった。
わざわざ嫌われることをする必要もないと判断して、大人しく従うことにする。
「( …。)」
一方のシェフは、自分の行動に驚いていた。
スープはとっさの言い訳だ。
どうして彼女を引き留めたのだろうと不思議に思う。
どうせなら自分の料理で、とでも思ったのだろうかと考えながら煮えたぎるスープを混ぜていた。
混ぜて、混ぜて、混ぜ込んで。
スズネのことを考えながら、混ぜ込んだ。
「…そうか。」
スズネのことを考えているうちに、浮かんできた想いから答えを見つける。
自分の何かも、きっと彼女に壊されたのだ。
そこまで理解して頭もすっきりした。スープも出来上がった。
あとはこれを彼女に届けるだけ。
「スズネ。」
大人しく待っていたスズネの前に、出来立てスープを優しく置いた。
それは湯気と共に良い匂いをただよわせる。
『美味しそうだね。』
「今回は特製~。」
いつもならば物騒な地獄のシェフの特製という言葉だが、今回ばかりは美味しそうに見える。
スズネはそのスープを素直にいただいた。
『美味しかったです。』
「また、美味い料理作る~。」
『そっか。』
「だから、また。」
『ん?』
「また、来い。」
何気ないその言葉が、何故か彼女に胸の内に刺さる。
先ほどまでは、ずっと最期の風景ばかりを思い浮かべていたというのに。
おそらく、そのときに彼のことを思い出せば。
自分はまた救われる。
何となく、彼女はそう感じた。
『うん。また来るね。』
そう返した彼女に、シェフは満足そうにニヤリと笑ったのだった。
〆