- シェフ -
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見るだけで嫌になる。
シェフは私にとってそんな人だった。
「料理はダシが命~。」
正直言って声も聞きたくない。
だけど食事をするために嫌々食堂に通っている日々だ。
顔を合わせないように気をつけながら食事に集中してるというのに、シェフがじっと見てくるものだから辛い。
本気で勘弁してほしい。
『ごちそうさまでした。』
いつものように急いで食事を済ませ、席を立つ。
食堂を出て部屋に戻る途中、廊下でグレゴリーに話しかけられた。
「おやおや、今日も機嫌があまりよくないようで。そんなにシェフのことがお嫌いですかな?」
『見てるだけで気分が悪くなるのよ。』
客を苦しめる料理を作るわ、包丁を振り回すわ、どこに好きになれるとこがあるというんだ。
赤くぎらついた目も、白で覆われた姿も、頭上で燃える炎も、何一つ気に食わない。
全部見たくない。全部大っ嫌い!
「さようでございますか。ヒッヒッヒ・・・。」
相変わらず、怪しく笑ってグレゴリーは去る。
『何なのよ、もう。』
とりあえず部屋に戻ろうと、ドアに手をかける。
「おや、お嬢さんコンニチハ。」
誰かが横から声をかけてきた。
声をかけてきたのは見たことが無い人。おそらく新しく入って来た客なのだろう。
いかにも偉そうな振る舞いで、煙草をふかしている。
『(うわぁ。)』
瞬時に悟った。彼もまた、私の嫌いなタイプだ。
『こ、こんにちは。』
「いやはや全く困ったものです。こんな所に泊まることになってしまうとは。」
新しい客はそのまま自慢話やら愚痴をベラベラと話しだした。その間にも、大量の煙草の煙が周りに漂う。
『っゲホッ!』
急に息苦しさを感じて咳き込む。
話を聞いてる内に、だいぶ煙を吸い込んでしまったらしい。
そんなに時間が経っていないはずなのに、いつのまにか視界を遮るほどあたり一面が煙にまみれていた。
『ゲホッ!ゴホゴホッ!』
「雨のせいでせっかくの服や荷物もびしょ濡れでねぇ。まったく、明日は大事な用事があるというのに。」
煙草をやめて欲しいと言いたいのに、口からでるのは咳ばかりで言葉が上手く話せない。
煙のせいもあって酸素も充分に吸い込めない。
咳が止まらない。体が崩れる。苦しさのあまりに涙が出てくる。視界が歪む。
それでも私は、気づかないまま話を続ける客を睨みつけた。
その時、微かな視界に違う世界が目に映る。
周りを覆う炎と煙。一人の男。男が手に持っていた白いもの。
男の目に映る炎を見て思い出す。
あぁそうだ。お前だ。お前のせいで。お前のせいで!!
「ぎゃあああああああああ!」
男の悲鳴が聞こえた。
その声で元の世界に引き戻された私が見たのは、包丁を片手に静かにたたずむシェフだった。
「ノ~スモ~キング~。」
あたりを漂っていた煙はすでに消えていた。
あの客はどうやらシェフが現れたことでいなくなったようだ。
『っゴホッ!ゴホッ!』
煙がなくなって一安心したのもつかの間、すっかりやられた喉から再び咳がでてくる。
すると信じられないことに、シェフが私の背中をさすってきた。
「大丈夫か?スズネ。」
今までだったら、たとえシェフに優しくされたって瞬時にその場を去っていただろう。背中をさする手すら振り払って。
「服に匂いがついている・・・あとで着替えろ。」
匂いって、煙草の匂いか。
嫌っている匂いが染み付いているのに、そばにいてくれる訳?
『ゴホッ・・・ありがとう。わかったから、ゴホッ・・・もう行っていいわ。嫌いでしょう?煙草の匂い。』
「かまわない。」
シェフはそんな私に、予想もしていなかった返事をする。
それはあまりにも衝撃だった。今までの嫌悪感さえ、忘れてしまうほどの。
「お前のことは、嫌いじゃない。」
〆
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とある人物のせいで家を焼かれた主人公でした。
その人物とシェフを重ねて見ていたという。
手に持っていたのはロウソクだったのか、煙草だったのか。