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寒空の中、ふらりと外に出たスズネは月光に照らされた岩の影に目をやった。
そこは、暗く沈んだ今の気持ちにピッタリで。
その影に向かって、持ってきていた傘の先端を突き刺した。
『シェフに、嫌われちゃったかな。』
何度も何度も、突き刺しながら己の過ちを思い返していく。
昔っからこうなのだ。
知らないうちに他人の怒りを買ってしまう。
他人の痛みを理解する努力はしている。だから人には優しくしてきたつもりだ。
けれども、他人の気持ちは把握しきれない。ゆえに揉め事は避けたくても避けきれない。
こればっかりは、所詮は他人であるという認識の違いであって相容れるのは難しい。
『私は、どうすれば良かったんだろう。』
逃げたくても逃げられない。
そんな日々は、ここにいても変わらなかった。
ただ頭に浮かぶのは自己嫌悪とひたすらに自虐、自虐、自虐。
そうしているうちに、あることに気がついて手が止まる。
傘を突き立てたそこに、岩の影と重なった自分の影があった。
『…はは。』
何故だか妙に滑稽に見えて、涙が落ちる。
自分の影を認識してなお、もう一度。
その傘を突き立てた。
「望むなら、ワテが断ち切ってもええんやで。」
視界が変わったその背後から声がした。
何度か夢で合ったことがある死神だ。彼は優しく語り掛けた。
『なら…いっそ、消しちゃってよ。』
鎌を構えた死神に、彼女は溢れる涙をこらえながら振り向いて、告げた。
『私が嫌いな私なんて…消しちゃってよ!』
「…まかせとき。余計なもんからは、解放したるわ。」
涙ながらに訴えて顔を覆った彼女に向かって、死神は鎌を振り上げた。
断ち切る箇所に、間違いなどないように。
だが、そこで彼女の身をすくい上げる者がいた。
また、視界が暗転する。
「…どういうつもりだ。」
暗闇の中、シェフと死神の二人が対峙する。
「あんさんからあの嬢ちゃんを開放したろうかと思っただけや。」
「邪魔、するな。」
シェフが死神の方に向かって自慢の包丁を振り下ろすと、威勢のいい音が鳴り響く。
そんなシェフに向かって、死神は動揺することもなく品定めをするかのような目を向けた。
「本当なら、あんさんを切った方が失敗も気にせんとできるから楽なんやけどな。あの子が悲しむからやめとくで。ただな。」
「ただ?」
「これ以上追い込むんは逆効果やろ。あの子はこっち側に来ることになるで。」
鎌を向けながら、わからないはずはないだろうと言いたげな口調で死神はたしなめる。
「ワテもどうやら我慢の限界みたいなんや。もしもあの子にまた余計なことをする気やったら、今度こそあんさんとの縁をスッパリ断ち切らせてもらうで。」
シェフは黙ったまま、遠ざかる死神が消えるのを見送った。
『シェ、フ?』
何があったかはよく覚えていない。
が、スズネは自分を引き寄せている彼を見つめていた。
「…。」
シェフはどこかを睨みつけたまま動かない。
まだ、怒っているのだろうかとスズネは心配になった。
『あの、シェフ。』
「悪かった。」
とりあえず謝ろうとしたところで、なぜか逆に謝罪されてしまったことにスズネは驚いた。
『え、あの。もう怒ってないんですか?』
「怒ってない。」
むしろ、シェフが怒っているのは自分に対してであった。
本当は最初から怒ってはいなかった。彼女を現実から引き離すためにわざと追い詰めるようなことをしてきたのだ。
手離したくないがために。
「スズネ…。」
だが、失ってしまっては意味がない。
もはや他の宿泊客たちやグレゴリーたちが彼女を襲うのを黙ってみている訳にはいかなくなった。
「お前はもう傷つけない。」
『え?』
「これからは。」
やるべきことは一つ。
「俺が、お前の恐怖…切り捨ててやる。」
スズネを更に強く身に寄せながら、シェフは手にした刃物を強く握りしめる。
何処かで死神も、その鎌に磨きをかけていた。
そこは、暗く沈んだ今の気持ちにピッタリで。
その影に向かって、持ってきていた傘の先端を突き刺した。
『シェフに、嫌われちゃったかな。』
何度も何度も、突き刺しながら己の過ちを思い返していく。
昔っからこうなのだ。
知らないうちに他人の怒りを買ってしまう。
他人の痛みを理解する努力はしている。だから人には優しくしてきたつもりだ。
けれども、他人の気持ちは把握しきれない。ゆえに揉め事は避けたくても避けきれない。
こればっかりは、所詮は他人であるという認識の違いであって相容れるのは難しい。
『私は、どうすれば良かったんだろう。』
逃げたくても逃げられない。
そんな日々は、ここにいても変わらなかった。
ただ頭に浮かぶのは自己嫌悪とひたすらに自虐、自虐、自虐。
そうしているうちに、あることに気がついて手が止まる。
傘を突き立てたそこに、岩の影と重なった自分の影があった。
『…はは。』
何故だか妙に滑稽に見えて、涙が落ちる。
自分の影を認識してなお、もう一度。
その傘を突き立てた。
「望むなら、ワテが断ち切ってもええんやで。」
視界が変わったその背後から声がした。
何度か夢で合ったことがある死神だ。彼は優しく語り掛けた。
『なら…いっそ、消しちゃってよ。』
鎌を構えた死神に、彼女は溢れる涙をこらえながら振り向いて、告げた。
『私が嫌いな私なんて…消しちゃってよ!』
「…まかせとき。余計なもんからは、解放したるわ。」
涙ながらに訴えて顔を覆った彼女に向かって、死神は鎌を振り上げた。
断ち切る箇所に、間違いなどないように。
だが、そこで彼女の身をすくい上げる者がいた。
また、視界が暗転する。
「…どういうつもりだ。」
暗闇の中、シェフと死神の二人が対峙する。
「あんさんからあの嬢ちゃんを開放したろうかと思っただけや。」
「邪魔、するな。」
シェフが死神の方に向かって自慢の包丁を振り下ろすと、威勢のいい音が鳴り響く。
そんなシェフに向かって、死神は動揺することもなく品定めをするかのような目を向けた。
「本当なら、あんさんを切った方が失敗も気にせんとできるから楽なんやけどな。あの子が悲しむからやめとくで。ただな。」
「ただ?」
「これ以上追い込むんは逆効果やろ。あの子はこっち側に来ることになるで。」
鎌を向けながら、わからないはずはないだろうと言いたげな口調で死神はたしなめる。
「ワテもどうやら我慢の限界みたいなんや。もしもあの子にまた余計なことをする気やったら、今度こそあんさんとの縁をスッパリ断ち切らせてもらうで。」
シェフは黙ったまま、遠ざかる死神が消えるのを見送った。
『シェ、フ?』
何があったかはよく覚えていない。
が、スズネは自分を引き寄せている彼を見つめていた。
「…。」
シェフはどこかを睨みつけたまま動かない。
まだ、怒っているのだろうかとスズネは心配になった。
『あの、シェフ。』
「悪かった。」
とりあえず謝ろうとしたところで、なぜか逆に謝罪されてしまったことにスズネは驚いた。
『え、あの。もう怒ってないんですか?』
「怒ってない。」
むしろ、シェフが怒っているのは自分に対してであった。
本当は最初から怒ってはいなかった。彼女を現実から引き離すためにわざと追い詰めるようなことをしてきたのだ。
手離したくないがために。
「スズネ…。」
だが、失ってしまっては意味がない。
もはや他の宿泊客たちやグレゴリーたちが彼女を襲うのを黙ってみている訳にはいかなくなった。
「お前はもう傷つけない。」
『え?』
「これからは。」
やるべきことは一つ。
「俺が、お前の恐怖…切り捨ててやる。」
スズネを更に強く身に寄せながら、シェフは手にした刃物を強く握りしめる。
何処かで死神も、その鎌に磨きをかけていた。