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永遠の二人へ

 地球へ降り立ったわたしはトーキョーから遠く離れた場所、ハーバード大学へ来ていた。

「日本とはまた違う雰囲気だな」

 土地が広いせいか、開放的で緑もある。

「いいなぁ。こんな場所で勉強できるなんて」

 さて、軽口を叩いてる場合じゃない。ちゃんと役目を果たさないと。

「公私ともに、ね……」





「見つけた」

 大学の外れ。人気のない広場にあるベンチへ腰掛けて読書をしている彼。間違いない。彼が『地場衛』。
 わたしは木陰に隠れながら意識を集中して、エネルギーを込めたカードを彼に投げつけた。

「っ!?」

 顔に当たる寸前。彼は二本の指でカードをスッと挟む形で取り、描かれているイラストに目を留めた。

「月?」
「地場衛さん、ですね?」
「君は……」
「失礼します!」

 拳を握り、繰り出したパンチが彼の頬へ当たる直前でわたしは手を止めた。

「なぜ避けも反撃もしてこないんですか?」
「君は敵じゃない……オレたちと同じ星の輝きを感じる」

 微動だにせず自分を見つめる深い色の瞳に、吸い込まれそうになる。

「やっぱり凄いや、貴方は……」
「君も相当なパワーだったよ。寸止めでも分かる」
「試すような真似をして大変失礼しました。わたしはキンモク星からの使者、星野光と申します」
「セイヤ……じゃあ君が……」

 衛さんは目を見開いて驚きながら、わたしを見ていた。
 正直、殴られても構わないと思っていた。空港で貴方を助けることもできず、彼女を護ることもできずに散ってしまったわたしの無力さを。
 立ち上がった彼の手がわたしの方へ向けられる。いいんだ。一思いに殴ってくれ。

「……ありがとう」
「えっ……」
「うさを……みんなを助けてくれたと聞いてるよ。本当にありがとう」

 時が止まる。
 わたしは彼が差し出してくれた握手に応じることができなかった。

「怒らないんですか?」
「何にだ?」
「不甲斐ないわたしを……」

 それは懺悔の言葉だったかもしれない。キンモク星のみんなは優しいから、地球の人たちから叱ってほしかった。戦士として力不足だったことをハッキリ告げてもらいたかった。

「不甲斐なくなんてないさ。むしろ一番最初にやられちまったオレの方が情けなくて涙が出るよ」
「そんな!」
「オレはあの戦いで思い知ったんだ。自分の無力さを……」

 こちらへ向けられた手を自分の前まで戻し、掌を見ながら優しく笑う。

「だから強くなると誓ったんだ。ここで立派な男になって、堂々とうさの元へ戻ると」
「衛さん……」
「護られることしかできない自分でも、サポートしかできない自分でもなく……隣で一緒に支え合うオレになる為にね」

 力強く言う姿は、既にキングの貫録を纏っていた。

 あぁ。だからか。
 だからあの子はこの人を最後まで信じていたんだ。
 常に同じ目線で苦しんで、助け合って生きていけるパートナーとして。

「よかった……貴方が地球のプリンスで……」
「それはどうも。ところで何か用があって来たんじゃないのか?」
「あ、はい。実は……」

 わたしが表敬訪問の件を伝えると、衛さんは笑顔で嬉しいと応えてくれた。

「じゃあその日は休みを取って帰国するよ」
「ありがとうございます……それでは失礼しますね」
「ちょっと待ってくれ」
「はい?」
「あのカードの月……うさのことだよな」

 さっき投げたカードの絵柄。夜空に輝く月のイラスト。それはあの子をイメージしたものに違いなかったのでコクリと頷いた。

「これからうさの所へも行くんだろ。ならこれを渡してもらえないか?」

 衛さんは懐からエアメールを取り出し、わたしに手渡した。

「愛の使者にもなれと?」
「君を信じているよ」

 そう言って、今度こそ両手でわたしの手を握ってくれた。
 温かくて包み込むような星の輝き。

「確かに承りました。カードも付けますか?」
「じゃあ太陽のカードを頼むよ」
「月と太陽……銀河系で最も輝く二つの星ですね」
「キンモク星のみんなにもよろしく」
「はい!」

 やり取りを終えたわたしは大学を出て空港へ向かった。
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