孤独な道の先に小さな星が輝いていたとして、オレにとってそれは貴女でした。
満月が見える。
今日も図書館で勉強をしていたら日が暮れてしまった。単純にいつもの道を帰るのもつまらないので人気のない夜道を独り歩く。
「ふぅ」
ため息が出るのは疲れからか。それとも君に逢えないからか。
憧れだった大学へ行くにあたって、周りに置いていかれないためにも、自身の成長のためにも勉強は必須だ。
そのことはうさも分かってくれている。だけどデートを断った時の「大丈夫だよ」も「頑張って」も、必死に作り出した笑顔も。
「刺さるんだよな……」
全ては愛する人と幸せに暮らすため。
夢のため。
頼れるパートナーになるため。
「それはオレの身勝手な想いじゃないのか?」
思わず自分に問いかける。恋人との"いま"を大事にするべきなのか。それとも未来の幸せのために勉強という名の投資をすることが正しいのか。
「よく分からない……」
自分で言うのも何だがオレは頭は切れる方だと思う。今までの人生、記憶と家族を失くした状態でも最善の選択をしてきたつもりだ。常に自分で考え、行動に移してきた。
それが好きな人のこととなると悩んでしまうのだから困ったものだ。自分と彼女の双方が納得する術を考えてしまう。そんな単純な話ではないのに。
最もそれほど思考を狂わせてくれる存在に出逢えたという奇跡に感謝するべきなのかもしれないが。
「孤独ってラクだったんだな」
愛する人。護りたい人がいるということは、こんなにも心が乱れるのか。
独りで生きてきた時は自分のことだけ考えていればよかったから、恵まれていたんだ。
「幸せと悩みは表裏一体か……」
ポケットに手を突っ込んだまま空を見上げる。漆黒の夜空を背景に、煌々と浮かぶ月が彼女の笑顔と重なる。
「うさ……オレはどうしたらいい?」
これから遠い場所へ行くオレを笑顔で送り出してくれるだろうか。
ギュッと抱きしめさせてくれるだろうか。
「いつまで甘えてんだ、オレは!」
ピシャリと両手で頬を叩く。こんな男じゃダメだ。オレはうさを幸せにするんだ。一緒に暮らすため、死にもの狂いで頑張るんだろ!?
「いいんだよ、甘えて」
「えっ?」
街灯の明かりだけじゃ見えなかったけど、一瞬で分かる声。
「なん、で……」
「えへへっ、まもちゃんが寂しそうに歩いてるのが"見えた"から来ちゃった」
「オレの情けない姿、お月様に映ってたかな?」
「情けなくなんかないよ? ただ迷ってるように見えたの」
きっと同じタイミングで月を見上げたから通じ合ったんだな。もう少しロマンティックな演出をしてやりたかったのが悔やまれる。
「あたしね……まもちゃんが選んだ道を応援したい」
「オレが選んだ道?」
「未来のために遠く離れた場所で頑張ってくれたとしても、夢よりもあたしとの"いま"を選んでくれたとしても……」
うさはオレの目の前まで来て目を瞑り、一呼吸おいて力強く瞳を開いた。
「その先には"月野うさぎ"がいる」
「うさ……」
「同じように、あたしの道の先にも"地場衛"がいる」
そうだった。
オレは……オレたちはそのために。
「何度だって巡り逢うんだ」
「うん!」
今度こそ見れた本当の笑顔。
いつだってオレと同じ速さで歩いてくれる。
隣で笑ってくれる。
そんな君を。
君の全てを。
「愛してる」
「あたしも」
うさの背中へ両腕を回し抱きしめる。
いつもより彼女の吐息が鮮明に聴こえるのは、辺りが静寂に包まれているせいだろうか。
「まもちゃん」
「うさ」
その艶やかな音が唇から漏れないくらい熱いキスを交わす。
「ありがとう……うさ」
「ずっと一緒だから大丈夫だよ」
孤独だと思っていた道。
その半ばで出逢い、一度は失ってしまった光。
だけど再び巡り逢えた。
それだけで、ただそれだけの理由で確信できる。
きっと幸せの終わりにもキミがいる。
最期は手を繋いで一緒に。
安らかな笑顔で空へ歩こう。
たった一つの小さな星が輝くように。
END
今日も図書館で勉強をしていたら日が暮れてしまった。単純にいつもの道を帰るのもつまらないので人気のない夜道を独り歩く。
「ふぅ」
ため息が出るのは疲れからか。それとも君に逢えないからか。
憧れだった大学へ行くにあたって、周りに置いていかれないためにも、自身の成長のためにも勉強は必須だ。
そのことはうさも分かってくれている。だけどデートを断った時の「大丈夫だよ」も「頑張って」も、必死に作り出した笑顔も。
「刺さるんだよな……」
全ては愛する人と幸せに暮らすため。
夢のため。
頼れるパートナーになるため。
「それはオレの身勝手な想いじゃないのか?」
思わず自分に問いかける。恋人との"いま"を大事にするべきなのか。それとも未来の幸せのために勉強という名の投資をすることが正しいのか。
「よく分からない……」
自分で言うのも何だがオレは頭は切れる方だと思う。今までの人生、記憶と家族を失くした状態でも最善の選択をしてきたつもりだ。常に自分で考え、行動に移してきた。
それが好きな人のこととなると悩んでしまうのだから困ったものだ。自分と彼女の双方が納得する術を考えてしまう。そんな単純な話ではないのに。
最もそれほど思考を狂わせてくれる存在に出逢えたという奇跡に感謝するべきなのかもしれないが。
「孤独ってラクだったんだな」
愛する人。護りたい人がいるということは、こんなにも心が乱れるのか。
独りで生きてきた時は自分のことだけ考えていればよかったから、恵まれていたんだ。
「幸せと悩みは表裏一体か……」
ポケットに手を突っ込んだまま空を見上げる。漆黒の夜空を背景に、煌々と浮かぶ月が彼女の笑顔と重なる。
「うさ……オレはどうしたらいい?」
これから遠い場所へ行くオレを笑顔で送り出してくれるだろうか。
ギュッと抱きしめさせてくれるだろうか。
「いつまで甘えてんだ、オレは!」
ピシャリと両手で頬を叩く。こんな男じゃダメだ。オレはうさを幸せにするんだ。一緒に暮らすため、死にもの狂いで頑張るんだろ!?
「いいんだよ、甘えて」
「えっ?」
街灯の明かりだけじゃ見えなかったけど、一瞬で分かる声。
「なん、で……」
「えへへっ、まもちゃんが寂しそうに歩いてるのが"見えた"から来ちゃった」
「オレの情けない姿、お月様に映ってたかな?」
「情けなくなんかないよ? ただ迷ってるように見えたの」
きっと同じタイミングで月を見上げたから通じ合ったんだな。もう少しロマンティックな演出をしてやりたかったのが悔やまれる。
「あたしね……まもちゃんが選んだ道を応援したい」
「オレが選んだ道?」
「未来のために遠く離れた場所で頑張ってくれたとしても、夢よりもあたしとの"いま"を選んでくれたとしても……」
うさはオレの目の前まで来て目を瞑り、一呼吸おいて力強く瞳を開いた。
「その先には"月野うさぎ"がいる」
「うさ……」
「同じように、あたしの道の先にも"地場衛"がいる」
そうだった。
オレは……オレたちはそのために。
「何度だって巡り逢うんだ」
「うん!」
今度こそ見れた本当の笑顔。
いつだってオレと同じ速さで歩いてくれる。
隣で笑ってくれる。
そんな君を。
君の全てを。
「愛してる」
「あたしも」
うさの背中へ両腕を回し抱きしめる。
いつもより彼女の吐息が鮮明に聴こえるのは、辺りが静寂に包まれているせいだろうか。
「まもちゃん」
「うさ」
その艶やかな音が唇から漏れないくらい熱いキスを交わす。
「ありがとう……うさ」
「ずっと一緒だから大丈夫だよ」
孤独だと思っていた道。
その半ばで出逢い、一度は失ってしまった光。
だけど再び巡り逢えた。
それだけで、ただそれだけの理由で確信できる。
きっと幸せの終わりにもキミがいる。
最期は手を繋いで一緒に。
安らかな笑顔で空へ歩こう。
たった一つの小さな星が輝くように。
END
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