第三幕 風雅の都
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【 風雅の都 】
夕方近くになって、ようやく風雅の都の門前へと辿り着いた。
そして目の前に広がったその長い階段を見上げて、泣きたい衝動に駆られる。
「これを登らにゃならんのか……」
「もう一息だろ、頑張れ」
「……まあ、良いんだけどさ」
呟いて、チラリとヨナ姫を見れば限界はもうすぐそこだと見受けられる。
「早いとこ休ませなきゃね」
「同感だ」
またしても口数が減りフラフラと覚束ない足取りになったヨナ姫と、自身の足を奮い立たせる自分とハク。
先を歩く自分がヨナ姫の手を引き、ハクがその後を見守るように登った。
途中でヨナ姫がフラついて倒れても大丈夫なようにだ。
けれども、ヨナ姫は気丈にも自力で登り切ってくれた。
「よく登ったね、偉い偉い。後はもうしっかり休めるから、もう少しだけ踏ん張ってね」
本当は抱きかかえてあげていたいけれど、そんな力が自分にはもうないとわかっている。
ハクの疲労も恐らくそんなところだろう。
「(これまで相当ムリさせてたからなぁ……ハクには)」
と、チラリとハクを振り返れば、自分達と同様に登り切ったハクが門番の姿を確認するかひ大刀を勢いよく振り回した。
「(うん、こりゃ相当に疲れてるわー。言葉より先に手が出た)」
「仲良くお昼寝か?ここの門番は」
「あ、ハク様」
「どうしたの、久しぶり~、十年ぶり~?」
「(緩いなぁ)」
あまりにも緩い青年たちに、引き締めていた気が一気に緩んでいく。
ガクッと倒れそうになった足を必死で踏ん張って、彼らのやり取りを傍観せずには居られなかった。
「あほ、三年ぶりだ」
「なんでここにいんの?」
「将軍、クビになったの~?」
なんとも平和な部族だ。
しつこく纏わりついていた緊張感が、この二人のおかげでどこぞへと消えて行く。
この緩い空気に気持ちがほぐれて悪ノリをしてしまうのも、きっと許されることだろう。
「そう……ハク将軍は城でヤンチャをし過ぎちゃいましてね……もうどうしようもなかったので、自分がここまで送り届けに来たわけでして、ぁイって!!」
「馬鹿なこと言ってんな」
「だからって何も殴ることなくない!?」
「黙れアホ」
「もう!」
ちょっとした冗談じゃないかと地団駄を踏みたくなる気持ちを抑え、むうっと唇を尖らせていると、ハクの帰りを知った里の者達がワラワラと集まってきた。
「ハク様じゃないか」
「いつお帰りに!」
「やだ、ますますイイ男になってる!」
「そっちの娘は?まさかハク様の女!?」
「おやおや、お前さんどうしたんだい」
ハクに群がる女性陣と、こちらを心配してくれるおば様。
なんだ、この差は。
自分にはおば様しか来てくれない……いや、それで全然嬉しいけども。
「ハク様に殴られました」
「なんてこと。大丈夫かい」
「ええ、後で仕返すんで大丈夫です。あ、そうだ!お姉さん。この娘を休ませてあげたいのだけど、どこか空いてる部屋はないでしょうかぉうっふ!?」
「やっだ!アンタお姉さんだなんて! 口が良いんだから!」
バシッと、思い切り肩を叩かれ身体がぐらりと後ろに傾いだ。
よろけた後ろは長い長い階段。
冷や汗がドッと吹き出て、こんなところでまさかの今年一番の命の危機を感じることになった。
「はは……は…………君の出番だよ、ハク。早いとこ話を進めて」
「何やってんだお前は……っておい!」
「おっと!?」
黙って隣にいたヨナ姫がガクリと膝から崩れ落ちそうになり、慌ててそれを受け止める。
顔を覗き込めば、ヨナ姫の顔は疲労でひどく青ざめていた。
おそらく、貧血を起こしたのだろう。
「ハク!」
「ああ。おいお前ら、すぐに部屋と食事の用意を!スイ、コッチに寄越せ」
「頼んだ」
すぐにヨナ姫をハクに預け、歩き出したハクに着いて行く。
「若長が女に優しいぞ!」
「いやぁ!ハク様ー!」
なんて声をうろんに見やり、案内された部屋へ足早に向かう。
その間にムンドク長老の所在を問えば、五部族収集が掛かりここには居ないという嫌な話を聞かされた。
ヨナ姫を布団に寝かせながら、ハクが門番をしていた黒髪の青年テウと、金髪の青年ヘンデに問い詰める。
「どういうことだ?」
「それが、さっぱり。五部族会議なら、城にいるハク様が行けば済んだ話だろ?」
「だから俺らはてっきり、若長が将軍クビになったのかと思ったわけ」
「……」
五部族収集。
嫌な予感しかしない……。
「ところで、おたくは?」
「んあ?」
突然声をかけられ咄嗟の反応が出来ず、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
視線を向けてくる青年二人に気付き、ニコリと笑って返す。
「自己紹介が遅れたね、自分は通りすがりの旅人でいっだぁ!」
「こいつはラン・スイ。俺と同じ将軍だ」
「殴ることないだろ!」
「お前は気ぃ緩めすぎだ!」
「将軍……」
「将軍……?」
うろんな目を向けられ、これ以上はマズイと拱手を取る。
「失礼。国王直属護衛武官ラン・スイです」
恭 しく礼を取れば、二人は揃って「おお!」と表情を輝かせた。
「まあ、休暇みたいなもんで。ハクに着いて来ながらついでに、そこの女官殿の修行に付き合おうかと思ってね」
「そうだったんだ。なんか良くわかんないけど、ハク様よりかっこいいからいいや」
なんて笑うテウに、調子に乗ってしまう。
「え?やだ、自分、ハクよりかっこいい?いいこと言うじゃん君ぃ!」
とニヤニヤ笑えば、ヘンデが楽しそうに「性格はかなり緩いね!」と肩を揺らして笑った。
「黙っていれば、だろ」
「ハク君それってもしかして嫉妬?まさか嫉妬しちゃったの?いやぁ!まあ仕方ないよね!だって自分ってばハク様よりかっこいいから!」
「ほお?どれくらいカッコいいか見せてもらおうじゃないか」
「あ、ちょ、その顔で近付いてくんのやめて!怖い怖い怖い!」
ニヤリと笑いながらゆっくりと近づいて来るハクに恐れをなして、ヘンデやテウと一緒になって部屋の中を逃げ回った。
自然と溢れる笑い声。
こんな風に馬鹿をやって笑えたのは、随分と久しぶりな気がした。
─────────
────────────・・・・・・
夕方近くになって、ようやく風雅の都の門前へと辿り着いた。
そして目の前に広がったその長い階段を見上げて、泣きたい衝動に駆られる。
「これを登らにゃならんのか……」
「もう一息だろ、頑張れ」
「……まあ、良いんだけどさ」
呟いて、チラリとヨナ姫を見れば限界はもうすぐそこだと見受けられる。
「早いとこ休ませなきゃね」
「同感だ」
またしても口数が減りフラフラと覚束ない足取りになったヨナ姫と、自身の足を奮い立たせる自分とハク。
先を歩く自分がヨナ姫の手を引き、ハクがその後を見守るように登った。
途中でヨナ姫がフラついて倒れても大丈夫なようにだ。
けれども、ヨナ姫は気丈にも自力で登り切ってくれた。
「よく登ったね、偉い偉い。後はもうしっかり休めるから、もう少しだけ踏ん張ってね」
本当は抱きかかえてあげていたいけれど、そんな力が自分にはもうないとわかっている。
ハクの疲労も恐らくそんなところだろう。
「(これまで相当ムリさせてたからなぁ……ハクには)」
と、チラリとハクを振り返れば、自分達と同様に登り切ったハクが門番の姿を確認するかひ大刀を勢いよく振り回した。
「(うん、こりゃ相当に疲れてるわー。言葉より先に手が出た)」
「仲良くお昼寝か?ここの門番は」
「あ、ハク様」
「どうしたの、久しぶり~、十年ぶり~?」
「(緩いなぁ)」
あまりにも緩い青年たちに、引き締めていた気が一気に緩んでいく。
ガクッと倒れそうになった足を必死で踏ん張って、彼らのやり取りを傍観せずには居られなかった。
「あほ、三年ぶりだ」
「なんでここにいんの?」
「将軍、クビになったの~?」
なんとも平和な部族だ。
しつこく纏わりついていた緊張感が、この二人のおかげでどこぞへと消えて行く。
この緩い空気に気持ちがほぐれて悪ノリをしてしまうのも、きっと許されることだろう。
「そう……ハク将軍は城でヤンチャをし過ぎちゃいましてね……もうどうしようもなかったので、自分がここまで送り届けに来たわけでして、ぁイって!!」
「馬鹿なこと言ってんな」
「だからって何も殴ることなくない!?」
「黙れアホ」
「もう!」
ちょっとした冗談じゃないかと地団駄を踏みたくなる気持ちを抑え、むうっと唇を尖らせていると、ハクの帰りを知った里の者達がワラワラと集まってきた。
「ハク様じゃないか」
「いつお帰りに!」
「やだ、ますますイイ男になってる!」
「そっちの娘は?まさかハク様の女!?」
「おやおや、お前さんどうしたんだい」
ハクに群がる女性陣と、こちらを心配してくれるおば様。
なんだ、この差は。
自分にはおば様しか来てくれない……いや、それで全然嬉しいけども。
「ハク様に殴られました」
「なんてこと。大丈夫かい」
「ええ、後で仕返すんで大丈夫です。あ、そうだ!お姉さん。この娘を休ませてあげたいのだけど、どこか空いてる部屋はないでしょうかぉうっふ!?」
「やっだ!アンタお姉さんだなんて! 口が良いんだから!」
バシッと、思い切り肩を叩かれ身体がぐらりと後ろに傾いだ。
よろけた後ろは長い長い階段。
冷や汗がドッと吹き出て、こんなところでまさかの今年一番の命の危機を感じることになった。
「はは……は…………君の出番だよ、ハク。早いとこ話を進めて」
「何やってんだお前は……っておい!」
「おっと!?」
黙って隣にいたヨナ姫がガクリと膝から崩れ落ちそうになり、慌ててそれを受け止める。
顔を覗き込めば、ヨナ姫の顔は疲労でひどく青ざめていた。
おそらく、貧血を起こしたのだろう。
「ハク!」
「ああ。おいお前ら、すぐに部屋と食事の用意を!スイ、コッチに寄越せ」
「頼んだ」
すぐにヨナ姫をハクに預け、歩き出したハクに着いて行く。
「若長が女に優しいぞ!」
「いやぁ!ハク様ー!」
なんて声をうろんに見やり、案内された部屋へ足早に向かう。
その間にムンドク長老の所在を問えば、五部族収集が掛かりここには居ないという嫌な話を聞かされた。
ヨナ姫を布団に寝かせながら、ハクが門番をしていた黒髪の青年テウと、金髪の青年ヘンデに問い詰める。
「どういうことだ?」
「それが、さっぱり。五部族会議なら、城にいるハク様が行けば済んだ話だろ?」
「だから俺らはてっきり、若長が将軍クビになったのかと思ったわけ」
「……」
五部族収集。
嫌な予感しかしない……。
「ところで、おたくは?」
「んあ?」
突然声をかけられ咄嗟の反応が出来ず、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
視線を向けてくる青年二人に気付き、ニコリと笑って返す。
「自己紹介が遅れたね、自分は通りすがりの旅人でいっだぁ!」
「こいつはラン・スイ。俺と同じ将軍だ」
「殴ることないだろ!」
「お前は気ぃ緩めすぎだ!」
「将軍……」
「将軍……?」
うろんな目を向けられ、これ以上はマズイと拱手を取る。
「失礼。国王直属護衛武官ラン・スイです」
「まあ、休暇みたいなもんで。ハクに着いて来ながらついでに、そこの女官殿の修行に付き合おうかと思ってね」
「そうだったんだ。なんか良くわかんないけど、ハク様よりかっこいいからいいや」
なんて笑うテウに、調子に乗ってしまう。
「え?やだ、自分、ハクよりかっこいい?いいこと言うじゃん君ぃ!」
とニヤニヤ笑えば、ヘンデが楽しそうに「性格はかなり緩いね!」と肩を揺らして笑った。
「黙っていれば、だろ」
「ハク君それってもしかして嫉妬?まさか嫉妬しちゃったの?いやぁ!まあ仕方ないよね!だって自分ってばハク様よりかっこいいから!」
「ほお?どれくらいカッコいいか見せてもらおうじゃないか」
「あ、ちょ、その顔で近付いてくんのやめて!怖い怖い怖い!」
ニヤリと笑いながらゆっくりと近づいて来るハクに恐れをなして、ヘンデやテウと一緒になって部屋の中を逃げ回った。
自然と溢れる笑い声。
こんな風に馬鹿をやって笑えたのは、随分と久しぶりな気がした。
─────────
────────────・・・・・・
1/1ページ