一周廻って、また一周 黒バス/黄瀬
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黄瀬(浮気症)×恋人
《でわゲストの美優さんに----》カチッ
《昨夜森林の奥地で----》カチッ
《フローラルな香り…新発売!!》
テレビのリモコンのボタンを1から10まで順に押しては、また1を押す。そしてまた10までをこの数分で何度繰り返しただろうか。
深夜番組に朝にも見たニュース、香水のCM。
何も見るものがなく、只暇つぶしに番組を変えている。風呂にも入ってしまったし携帯をいじるのにも飽きた。
チラリと壁にかけられた時計に視線をやれば深夜の1時を指している。
次の日、と言ってももう日にちが変わっているので今日になるのだが…大学もバイトも休み。
折角の休みだからナマエは夜遅くまで起きて、ゆっくり寝るつもりだった。
たまの休みも休日と被ってしまい、外出するにも何処も家族連れで混んでいるだろうし。
そんな中わざわざ出かける事もないだろう。疲れるだけだ。
まぁ、もともと家でゆっくりしたいタイプなだけなのだが…。
ナマエはテレビの電源を切り、リモコンをテーブルに置くともう片方の手に持っていたカップに口付ける。
残り少ないコーヒーを一気に飲みほす。放置し過ぎたせいか生温く不味い。猫舌なナマエも流石に眉を寄せた。
ソファーから立ち上がり空になったカップをキッチンのながしに置く。カップに水を入れるのは彼の癖だ。
否、カップだけでなく食器を水でうるかすのは恋人から教えられたものだ。洗う時に楽だからだそうだ。
が、食器を洗うのは恋人ではなくナマエ。楽になるのは良いが…自分を気遣うのら代わってはくれないのか?と思ったのは秘密だ。
それが何時の間にか当たり前になり、癖にまでなってしまった。
『…何でアイツの事思い出してんだろ』
頭の中から思い出してしまった恋人を消す様に首を左右に振る。その時…
ガチャッ――。
玄関の方から鍵を開ける音がした。
それから数秒としないうちに扉がゆっくり開き、またゆっくり閉まる。どうやら物音をたてない様にしているらしい。
玄関の鍵が締まる音がして暫く…。来訪者に耳を傾けていたが、一向に動かない。
ナマエは溜息を零してキッチンから廊下へと繋がる引き戸を開け、首だけを廊下に出し玄関に視線をやる。
薄暗い玄関には蹲った人影が一つ。ホラー映画にでも出て来そうだ。
ナマエは面倒臭そうに溜息を吐き出し、廊下へ出る。が、近付く事はしない。
腕を組みながら壁に寄りかかるだけ。
そしてその人影の後ろ姿を見つめた後『久し振り、』と感情の篭っていない聲で言葉を口にする。
ナマエの聲に、人影はビクッ…と身体が跳ね、そしてゆっくり顔をナマエに向けた。
薄暗い中でも分かる黄色の髪。その髪からは雫が滴り落ちていた。
よく見れば全身びしょ濡れで、そう言えば数時間前に雨が降ったっけ。とナマエは他人事の様に心の中で呟く。
「…ナマエっち…」
寒いのか、または違う意味でか来訪者の唇は震え名前を弱々しく呼ばれる。
名を呼ばれた本人は表情を変えなかったが、面倒臭そうに舌を打ち隣の脱衣所へと消える。
それを来訪者は眼で追っては不安そうに眉を下げていた。しかし、一分もしないうちにナマエがタオルを持って脱衣所から出てくる。
そしてズンズンと大股で来訪者に近付き、その無駄に整った顔へタオルを投げ付けた。
来訪者はそれを顔で受け取るとタオルの隙間から覗く無表情な彼を「ナマエっち…?」と不安そうに呼ぶ。
『風邪ひくだろ。』言葉自体は相手の事を想っての言葉だが、ナマエは冷たく言い放った。
『風呂、好きに入っていいから』
それだけを言いナマエはキッチンの引き戸へと身体を向ける。が、来訪者に手首を掴まれそれは阻止される。
ナマエは今日何度目かの溜息を吐き出した。面倒臭い、と密かに想いながら。
何故こうもナマエが面倒臭いと思うのか。それはこの“やり取り”を何十回とやっているからだ。
そもそもの話しこの来訪者、ナマエの恋人なのだ。名は黄瀬涼太。あのモデルの。キセキの世代の、だ。
ナマエが高三の頃に部活の後輩だった黄瀬と付き合って、かれこれもう二年になる。
最初は順風満帆。しかし、その3ヶ月後。
黄瀬は同じ学年の女子とキスをしたのだ。放課後に、2人きりの教室で、手を繋いで。つまりは浮気と言うもの。
どんなシチュエーションだと問いたくなる。
その現場をナマエが目撃し、黄瀬が5日間謝り続けてそれは終了。が、その1ヶ月後。また浮気。謝って、また浮気…。
それを繰り返していくうちに、ナマエは怒るのも馬鹿馬鹿しくなった。
だから黄瀬の好きな様にさせる事にした。
浮気相手の所に住むならそれもいい。自分と別れたいのならそれもいい。
「ナマエっち…ねぇ、ナマエっち…」
黄瀬の縋る様な聲に現実へと戻されたナマエは自分を不安気に見上げる黄瀬の膜の張ったブラウンの瞳に視線を移す。
そんな捨てられた子犬みたいな顔しても駄目なものはダメ。我儘を言う子供を叱り付ける親の気持ちが今なら解る気がする。
『なんだよ…早く風呂入れって』
「うん…ごめん。ごめんなさい…」
掴んでいたナマエの手に擦り寄り、何度も「ごめんなさい」と口にする。
これも何度やられただろうか…。
*********
「ナマエっち…起きてくれてたんスね」
風呂から上がった黄瀬がリビングのソファーに本を読みながら横たわるナマエに視線をやる。
風呂上りだからか他の意味でか、頬がほんのり紅潮している。
本から視線を外しそれを見てナマエはアホかコイツは。と内心毒付く。
『別に。眠れないから起きてただけ』
ペタペタと足音が近付きナマエの横の床に腰を落とす。
「それでもいいッスよ」へにゃ、と笑う黄瀬にナマエは素っ気無く返事を返す。
「……」
『……』
「……」
『……』
「ねぇ、ナマエっち」
沈黙を先に破ったのは黄瀬。
何度も聴いた事のある否、腐る程聴いた縋る様な弱々しい聲で名を呼ばれる。
本から視線を外さないまま『なに?』と返せば「こっち見て?」と返される。
『嫌だ』と返せば「ナマエっち、お願い…」と返される。それも『嫌』と返せば「じゃぁ、触っていい?」と返される。
『お前散々触ってたじゃん。俺よりも柔らかい女の子を』嫌味を込めて言ったその言葉に「ナマエっちがいいんスよ…ナマエっちに触りたいんス…」と今にも泣きそうな聲で返される。
「ね、お願い。ナマエっちに触りたいんス…ねぇ?」
ねぇねぇねぇ…ね、お願い。
しつこい黄瀬の言葉にナマエは『勝手にしろ』と返す。黄瀬が押しに強いのか、ナマエが面倒なだけなのか。
おそらく両方だろう。
ナマエの言葉を聴いた黄瀬は恐る恐る手を伸ばす。その震える手が触れたのは本を掴むナマエの手。
それと同時に本で隠れたナマエの顔を覗き込み「手、繋いでいいッスか…?」と聞く。
返事はしないものの、黄瀬に触れられている手が本から離される。
その手に指を絡め、強く握り締める。
冷たかったその手は体温が戻り暖かく…。安心する、だけど胸が締めつけられる。
その感情を隠す様に本で黄瀬から見えない様に顔を隠す。
「ナマエっち…俺ね、ナマエっちじゃなきゃやっぱダメッス」
「ナマエっちと一緒にいる方が…ナマエっちに触ってる方が落ち着くッス」
「好きッス…ホントに。好きなんスよ…ナマエの事。だから、」
「ねぇ、聴いてるッスか?ナマエ、ナマエ?」
手の甲から手首、腕、首筋、鎖骨。
順に口付けていく黄瀬に、ナマエはピクリッ…と身体を強ばらせる。
本を持つ手が震える事も、ページが先程から進んでいない事も。黄瀬は全て知っている。
「ナマエ…好き。大好き。愛してるッス…」
チュッ…とリップ音が鳴った後にチクリとした痛み。
自分の腹の上で眠る恋人に、ナマエは虚ろに天井を見つめ続けていた。そして子供の様に穏やかに眠る黄瀬の頭を優しく撫でる。
服が捲られ腹を顕にしているナマエだが、その腹には赤い痕が一つ…。
なぁ、涼太。腹のキスの意味、知ってて態としてンの…?
態とだったら俺への嫌がらせなの…?
なぁ、涼太――。
一周廻って、また一周
時間が経てばまたお前は、俺の隣から居なくなるんだろ…?
腹…《回帰》。
ひとまわりして、もとの所に帰ること。また、それが繰り返されること。
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