05…嫌われ者のお月様(黒木side)
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【05.嫌われ者のお月様】
黒木 side
伊助が飛び出して行って、その後を何故か自称天女サマが追い掛けて行き、またその天女サマを追い掛けて先輩方五人が出て行った。
僕達も急いでその後を追った。
伊助が先輩方に捕まったら…ナニをされるか判らない…。
優しい先輩方に限ってそれはないだろうと思う人もいるだろう。実際僕も、思わない筈だ。だけど、それは天女サマが来る前の話し…。
天女サマの怪しい術にかかってしまっている今の先輩達なら、例え後輩でも天女サマの言葉次第で“敵”と判断するだろう。
もしも、先輩方五人が…伊助に本気で攻撃したら……。
嫌な想像が頭を占めて、冷汗がどっと吹き出す…。
…そんな事を考えちゃ駄目だっ!
想像したものを振り払う様に頭を振る。
そうしていた時、一緒に伊助を探してくれていた二年の先輩方の一人…川西左近先輩に名を呼ばれた。
それに返事を返せば「伊助が見つかった」と返された。
それは本当なのかと聞き返せば、先輩は「付いてこい」と短く発して走り出してしまった。
慌てて追い掛ければ角を曲がった先で水色と青の集団を見付ける。
けど、それに混じって見えた“二色”に…
僕は走るスピードを上げた。
「みんなっ!」
「!庄左衛門っ!!」
水色の集団に近づけば足音に気付いた団蔵が僕の名を呼ぶ。
団蔵の声につられてその場に居た全員の視線が僕へと移る。
その中には探していた伊助の姿があって、ほっと密かに胸を撫でおろした。
僕は一年生…は組の前へ出てみんなを背に、眼の前の深緑を見上げる。
最高学年を示す深緑色の忍装束。天女サマの術中にある六年生が何で此処に…。
しかもよりによって、何で“この人”が―…。
深緑の上を流れる真っ白な髪、紅い瞳。
六年は組火薬委員会委員長-心綺凛桜先輩。
上級生から注意するよう言われた人。上級生から危険視されてる人。この学園で唯一、嫌われている人…。
今まで面と向かって逢った事はない。多分この場で、同じ委員会である伊助と池田先輩以外、話したことも間近で逢った事もないだろう。
そんな人が何故一、二年生の前に居るのか。
不思議に思う反面、学級委員長として組みを護る立場であるが故、警戒心が強くなる。
それは僕だけではなく、一年長く忍術学園で過ごしている二年の先輩方も警戒する様に前に出ている。
何時もは意地悪する先輩達だけど、やっぱり優しくて頼れる先輩なんだと再確認する。
先輩方が武器を構え様とした時、伊助が慌てて飛び出した。
心綺先輩を庇う様に立った伊助の姿に、僕達は眼を見開く。
「先輩は…心綺先輩は悪い人じゃないし、天女側でもないよっ!」
必死に言う伊助に、私情ではなく、冷静に物事を判断しようと伊助の言葉に問う。
「伊助…それどういう意味なんだ?」
「だって、先輩は…女の人と五年の先輩から僕を護ってくれたし…っ、あの女の人に云われた事、先輩は否定してくれたし…“赦さない”って仰ってくれたし…それに、」
「伊助、もう良いよ…」
泣いて腫らしてしまったであろう眼からまた涙を流しながら、伊助は心綺先輩が“敵”ではないと必死に訴える。
そんな伊助の姿に驚く僕達だけど、その内容にも驚いた。
女の人に云われた事とは、食堂での事だろう。否定した、というのは、天女サマの云った言葉の事だろう…。
赦さない、というのは天女サマ…あの女の人が僕達に云った事…?
…本当に?本当にこの人は…そう仰ってくれたの…?
冷静に伊助の言葉を理解しようとしていると、伊助の言葉を隔てる様にした優しい聲。
その聲は眼の前の…心綺先輩の聲だ。
初めて聴いた先輩の聲に、意識が先輩へと移る。
俯く伊助の頭を優しく撫で、困った様な…だけど、優しく僕達に微笑む先輩。
『俺は君達に何もしない。俺は只、伊助を連れて来ただけだよ』
そう言った先輩に、僕は緊張して上手く動かない口を必死で動かして、先輩に質問を投げ掛ける。
「あの、…伊助の言った事は…本当、なんですか?」
真っ直ぐに見詰める僕に、心綺先輩は数回瞬きを繰り返す。
そして、真剣な眼で言葉を発した。
『伊助の言った事は本当だ。小娘が君達に云った言葉は赦せないよ。
君達が学園で学んだ事、努力してきた事、その想い…それは誰にも否定できやしない。
どんなに偉い殿様だろうと神だろうと…。それが来世から来たあんな娘なんかに、君達を否定する資格なんてない。
君達の苦労も彼等の決意も、何も知らない小娘が云った綺麗事が、君達を傷付けた言葉が…赦せないんだ』
心綺先輩の仰った言葉が、僕の胸に…嫌、この場にいたみんなの胸に深く響いた。
だって、例え術にかかって正気じゃなかったとはいえ…尊敬する先輩が、その背を追い掛けていた先輩方に。
あの女の人と一緒に僕らの想いを否定した…。僕らの全てが否定された気がして…とても悲しくて、辛くて…胸が痛くて…。
だけど心綺先輩の言葉に、今までの胸の痛みが嘘のように失くなった―…。
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