【OP夢】これを運命と言わずして何と云う【マルコ】

 事があってから数週間後。マルコとレミィの間には距離が出来ていた。事が事であったため、仕方ないとは思うがレミィはずっとモヤモヤしていた。マルコが欲しいのに明らかに避けられている。距離を縮めたいのに出来ないもどかしさが拭えない。どうすればいいのか、レミィには分からなかった。
「なんでそんなに避けるの……」
「ん?何かあったのか?」
 昼休憩中のレミィにエースは聞いてきた。独り言がいつの間にか声に出ていたようだ。
「またマルコのことか?」
「……そうね。ちょっとした事故があったの」
 またエースに相談することになるとは、と思いながらレミィはポツポツと話した。事故があって今距離が出来ていること、明らかにマルコが避けていること、そしてーー
「私は、今も好きなの……というかずっと好き。彼の傍に居たくて、トクベツになりたくて、でも……」
「避けられているんだよな」
 エースの言葉にレミィは頷いた。こんなにも誰かに心の内を曝したことがはじめてで、何だか気恥ずかしくなってくる。
「お、おい!お前が照れるなよ!おれまで恥ずくなってくるだろうが!」
「っ!だって!恋バナ?とかはじめてしたし!なんかちょっと、恥ずかしいじゃん!」
 互いにギャーギャー言い合ってる様子をエイダは微笑ましそうに眺める。
「そうかい、レミリアはマルコが好きなんだね」
「エイダさん!?」
 大丈夫、言いやしないさ!と満面の笑みを浮かべながらレミィ達の食器を下げた。エイダが去ってから、エースはそれで?とレミィの話を促した。
「それでって?」
「だーかーらー、対策だよ対策!どうやってあの堅物を振り向かせるんだ!」
「対策、かあ……」
 確かに対策を講じなければ、マルコはこれ以上距離を詰めてくることはないだろう。色気は駄目、信愛も駄目、残る手は何がある?レミィはエースを無視して深く考え込んでしまった。
「そんだけ考え込んでりゃ上手く行くさ!」
 考え込んでいるレミィの背中をエイダは強く叩く。ハッと回りを見ると、エイダもエースも笑ってレミィを見つめていた。その優しい表情にレミィは酷く安心した。
「レミリア、エース。悪いが買い出しを頼めるかい?」
「あー、悪い。ちょっと別件があって……すぐ終わるからレミリア、先行ってくれねェか?」
「ええ、いいわよ」
 レミィは軽く了承し、エイダからメモを受け取った。孤児院から買い出し場所まで然程遠くはない、すぐ終わらせることが出来るだろう。レミィは何の不安もなくすぐ準備して買い出しに出かけた。

 今日もレミリアは孤児院に通っている。エイダの協力もあって、あと一週間ほどで孤児院への引っ越しは出来そうだ。今までレミリアのカルテをまとめながら、マルコの中で疑惑が膨れ上がってた。もしかして自分と同じようにレミリアの中にレミィの記憶があるのではないか?ずっと目を背けていた事実が、今になってマルコに突き付けられる。高熱で倒れた日から随分と大人びた気品が見え隠れしていた。話し方も考え方も、そして自分を無垢なレミリアに見せようとする素振りも、レミィの記憶があるとすれば納得がいく。そう思うようになったのは数週間前のあの事件だ。あの夜、取り戻した理性で思い出した記憶の中、組敷かれていたのは紛れもない『レミィ』だった。そうとしか思えない声で、苦しんで、訴えていたのは――
「(でも、有り得……いや、おれ自身が『そう』か)」
 マルコも同じだったのだ、高熱を出して倒れてから『不死鳥』と呼ばれていた記憶が全て流れてこんできた。否定したいのに、自分自身が証人となってしまう。カルテに書き込まれた小さな疑問も裏付ける証拠にもなりえてしまうのだ。だから、離れて正解なのだ。もしレミリアにレミィの記憶があるのなら、前世見捨てた野郎が目の前がいるのは気分が悪いだろう。幸せになれと想い続ける一方で、その幸せな空間にマルコは不要なのだ。
 プルルルル、プルルルル――
 静かな診療所に着信音が響く。私用の電話だから緊急来院ではないか、と思いながら携帯を取った。
「マルコ!マルコかい!?」
 かけてきたのはエイダだった。珍しく酷く焦った声で狼狽えている。只事ではない、と肌で感じた。
「どうした、エイダ。落ち着いて話せ」
「あぁ、私だよマルコ。それよりもエースとレミリアが!」

 狼狽えたエイダに指定された場所まで車を飛ばすと、少し人だかりが出来ていた。ざわざわと濁った空気が漂い、嫌な予感がプンプンする。人だかりを押し寄せて先に進むと、そこにはエイダとエースがいた。
「っエース!どうしたんだよい!?」
 エースは頭から血を流し、エイダは横でなんとか止血している。倒れ込んだエースの前にしゃがみ、様子を見ようとするとがしっと肩を掴まれた。
「すまねェ、マルコ……!レミリア、が……攫われちまった……!」
「!レミリア、が?っつ、今無理に喋んなよい。エイダ、親父に一報いれてくれ」
「分かった」
 マルコはエイダに指示し、車の中にエースを運び込んだ。身体には無数の打撲痕、おそらく一方的にリンチされた痕だろう。一通りの応急処置をしてから、マルコは車を白ひげ本拠地まで飛ばした。
「一体何があった、エース」
 エイダが一報入れてくれたお陰で幹部は勢ぞろいしていた。親父も集まる大広間でサッチ、イゾウなどの幹部メンバーが厳しい顔つきでエースが話すのを待っていた。
「エイダの買い出しに行こうとして、レミリアを先に行かせたんだ。そしたら連中が――」

 ――数時間前――
 
 別件の用事を終えたエースはいつも使う買い出し場所まで急ぎ足で向かった。要領のいいレミリアのことだから、ぱっぱと済ませてしませているかもしれない。そうなってはお釣りでちょっとした菓子を買うことは困難だろう。真面目なレミリアだから、買い物中に言いくるめてしまうのがベストなのだが、と考えていると、真後ろに体格のいい男が張り付いた。
「お前のオメガを預かってる、振り向くな」
「!」
 身近なオメガと言えば、レミリア以外思いつかない。コイツが嘘を言ってる可能性があるが、レミリアの身に何かあったらたまったもんじゃない。エースは素直に今は従うことにした。エースの後ろに張り付いた男は、進めとエースを押すように歩いた。人気のない露地裏までエースは連れていかれると、ガラの悪い男たちが群れていた。その中心にレミリアが捕まって怯えている。
「エースッ!」
「レミリッ……!」
 エースが捕まっているレミリアの元に駆け寄ろうとすると、男に後ろから殴られた。殴られたエースを目の当たりにして、レミリアの顔から血の気が引いていく。
「お前、コイツを出汁にして随分荒らしてくれたなァ、おう?」
「うっ……!」
 殴られた勢いで地面に突っ伏したエースに野郎はさらに蹴りをいれる。レミリアが捕まっているせいで変に反撃できないのだろう。五人の屈強な男共に囲まれて、エースは次々に殴られ蹴られている。レミリアはもう見てられなくなり、エースから目を背けた。
「お前も目ェ逸らすんじゃねェぞ、ほら大事な大事な番のアルファ様だろ?」
 レミリアを抑えている男は無理矢理顔を掴んでエースの方に向かせる。無残にリンチされるエースをレミリアは強制的に見ることしか出来なかった。
「もう、やめて!やめて!」
 レミリアは身体を捻って自分を抑え込んでいる男に訴える。指が強く腕に食い込もうとお構いなしだ。
「ほお?やめるって言ったってどうするんだ?それなりのモンがねェと、なァ?」
 レミリアはいやらしく下品に笑う男に頬筋をスーッと撫でられる。
 狙いは『レミリア』だ――
 エースもレミリアも瞬時に理解した。
「そんな奴に口聞くな、レミリア!」
「おう、誰が喋っていいつったか?」
「ガハァッ……!」
 エースのリンチはだんだん酷くなっていく。打撲音と吐血、呻き声が酷くなっていく、レミリアは決断を迫られていた。
「――――一億七千万」
 低い声でレミリアはぼそりと呟くように言い放った。殴られたエースを見て怯えていたレミリアとは違う、まるで別人のような声だった。
「ほお?何の数字だ」
「奴隷生涯十年で売られた金額の合計よ。それくらいの価値があるってこと」
 レミリアは冷静な声で答えた。その目には涙は浮かんでいない。自分を客観的に俯瞰して、不利でも取引をする商売人の顔だった。
「私はまだ誰とも番になってない。検査薬ですぐにでも調べられるわ」
「――いいだろう、連れていけ」
 拘束していた男は乱暴にレミリアを投げ、エースへのリンチをやめさせた。
「レミリア!レミリア―!」
 連れていかれるレミリアに叫ぶが、彼女は振り向く事が出来ない。エースの声も無残に路地裏に残されていった。

「その後は帰りが遅くて心配したエイダと合流した。エイダがマルコを呼んで……クソッ!」
 エースは自分の不甲斐なさに怒り、拳を畳に殴りつける。
「つまり連中はレミリアが最初から狙いだったってことか」
「あァ、そうとしか考えられないな。親父」
 サッチは白ひげの判断を仰いだ。俯いていた者、悔しさに顔を顰めていた者、冷静に今の状態を考察する者、皆それぞれ顔を上げ白ひげの発言を待った。
「……おれの息子に手ェ出したとなりゃあ、もう覚悟は出来てんだろうな。おい、マルコ。レミリアはお前の家族か?」
「!」
 真剣な顔つきで白ひげはマルコに尋ねた。俯いていたマルコはいきなり指名され、驚いて顔を上げる。
「家族、ではねェよい。だが、アイツの幸せは誰よりも願ってる」
「――分かった。お前ら、準備しろ」
 白ひげの一声で幹部たちは次々に席を立つ。皆が去った後、エースとマルコ、白ひげが大広間に残った。
「お前は連れていくわけにはいかねェ、マルコ。ここで救護班やってくれねェか」
「あァ、分かったよい」
「っ、マルコ!」
 白ひげの頼みに反対するように、エースが声を荒げた。
「おれはそもそも組の幹部じゃねェ。抗争の前線に行くわけにはいかねェんだよい」
「そうじゃねェ!レミリアの事だ、なんで家族じゃねェなんて言うんだよ!」
 エースはさらに声を荒げるが、マルコは冷静だった。いや諦めの境地にいる方が正しいのかもしれない。
「籍も入れてねェし、来週には孤児院に移る予定だった。第二性と体調不良で長く見ていただけだよい。レミリアはお前が救ってやれ」
「違う‼」
 エースは頭をブンブン振り、マルコの胸ぐらを掴んだ。
「おれじゃねェんだよ、おれじゃねェんだ……!マルコじゃねェとレミリアは駄目なんだ!なんで分からねェんだよ‼」
「っ……!」
「一緒にいて、ずっと話すのはアンタのことだ。ずっと心配して悩み続けてた、答えてやれよ、マルコォ‼」
 クラクラする頭でエースは一気に吐き出す。あんなに一途に思い続けているレミリアに対して、あんまりの対応にキレたのだ。マルコはただただ茫然とし、その様子を白ひげは黙って見守っていた。
「それは、本当なのか?」
「こんな必死こいて嘘言わねェよ」
 マルコもエースも黙り、しーんと静まり返った大広間。そんな中、大慌てでまたサッチが飛び込んできた。
「親父!レミリアちゃんを攫った奴らからだ!」
 他幹部もゾロゾロと大広間に再集合し、サッチが持ってきたパソコンのディスプレイを凝視した。
『よぉ、年老いた大ヤクザ、白ひげ。よくもウチの家業をめちゃくちゃにしてくれたなァ』
 画面に映し出されたのは大男数人に囲まれ、椅子に括りつけられたレミリア。猿轡を付けられ、両手を胴の前で縄で括りつけられている。
『無事にお前が大事に大事にしていたオメガは頂かせてもらったが、まだ損害賠償額には届きそうにねェ。そうだなあ……てめえのお抱え孤児院から毎日一人奴隷として頂こう‼』
「!」
『年老いた老害にゃあ、そんなんも阻止できねえか!ギャハハハハハ‼』
 ゲラゲラと笑う悪趣味な声で動画は終わった。
「……孤児院に誰か行け、誰も攫わせるなよ」
「あぁ、おれが行こう」
 巨漢のダズがすぐに答え、大広間から飛び出して行った。
「サッチ、何とかして場所分からねェか?」
「出来ねェことはないが、情報が少なすぎる。クソ、時間がねェ……!」
「――その必要はねェよい」
 今まで黙っていたマルコが重い口を開いた。サッチの手を押しのけ、動画をもう一度最初から再生する。
「レミリアの手、見てみろ。右手の人差し指と中指が微かに動いている」
「確かにそうだが、これがどうしたんだ?」
「モールス信号だ」
「!」
 彼方の昔、レミィが教えてくれてちょっとした遊びでしていたものだった。疑問は確信に近くなり、燻っていた熱が強くなっていく。
「倉庫、海、煙突、東2-3、船、タイムリミット、夜明け……これだけは教えてくれてる。サッチいけるか?」
「そんだけ絞れりゃあコッチのもんだ!流石だぜ!」
 サッチは情報を元に場所の特定を始めた。サッチの特定に間に合わせるよう、各幹部たちも準備に散っていく。エースも包帯を巻きなおしながら、準備に取りかかっていた。
「親父、悪いが我が儘言っていいかよい?」
「――好きなだけ言え、アホンダラ」
 マルコに対して豪快に笑い、白ひげは安心したように笑っていた。マルコもすまねェと笑いながら答え、覚悟を決めた。もう迷わない、今度こそ、今度こそはこの手で彼女を救うのだ。

「おい、荷詰めは終わったか?」
「へぇ!後はこのオメガだけでさぁ!」
 うすぼんやりした倉庫の中、男たちの会話が聞こえる。猿轡をされ、何も話すことは出来ないが話を聞くことは出来る。モールス信号に気づいてくれるかはレミィの賭けだった。あの世界では助けを求めるなんてこと頭になかった。もしマルコが私を気にかけてくれているのなら、あの言葉が本当であったのなら――
「へっ、白ひげんとこももう大したことねェな!売りさばく前に味見でもしていくか」
 強引に男は猿轡を取っ払い、レミィの首を絞めるように握った。
「面だけはいいオメガだな、コッチの方も生きがよかったりするのか?」
「……」
 レミィは黙ったまま、男を睨みつける。お前なんかに汚されてたまるものか――!と口にして言いたいところだが、非力な今は黙ることでしか抗議する方法がない。生意気な目が気に食わなかったのか、男はレミィを床に放り投げた。
「何売られるだけのオメガがそんな目してるんだよ!」
 男は怒って床に放り投げられたレミィに足を振り上げた。蹴られる、と思ったその瞬間だった。
 ガッシャアアアアアアアン‼
 派手な音と共に視界が眩しく照らされた。倉庫の扉をぶち壊して、幾つものバイクが流れ込んでくる。見知った顔の白ひげの面々が真夜中の倉庫に集合していた。
「何ウチの家族に手ェ出してんだ‼」
 最前線に立つ突っ込み隊長エースをはじめ、白ひげの幹部一同が並んでいた。
「な、なんでバレたっ⁉」
「もしかして、あのオメガか⁉」
「ここで全員ぶっ潰せば仕舞いだ!やっちまえ‼」
 怒号と共に戦いの火蓋が落とされた。この時をチャンスとみたレミィだが、男の方が動きがはやかった。両手両足を縛られたレミィを連れ出し、運搬用の船まで走りだす。
「お前さえ売れればこっちのもんだ、てめえ無駄なことしやがって……!」
 怒り狂った男が物陰でレミィを殴ろうと拳を構えた。目をぎゅっと瞑り、痛みを堪えようとしたが中々拳が振り落とされる気配がない。
「何やってんだよい」
 いつも聞いていたものよりも一段低く怒りに満ちた声が耳を貫いた。男の派手な雄たけびが聞こえた後、暫く静寂に包まれる。
「もう目ェ開けていいよい」
 おそるおそる目を開けると、そこには待ちわびた人――マルコが目の前に立っていた。レミィの手足を縛っていたロープを切断し、目線を合わせてしゃがんだ。
「待たせてすまなかったな」
 優しく、愛おしい人を宥めるようにマルコはレミィに謝った。ああ、賭けてよかった。レミィの両目から大粒の涙が零れ出す。マルコは何も言わず、レミィをぎゅっと抱きしめた。
「ここじゃ危ないよい。ゆっくり話せるところに移動しよう」
 マルコの提案にレミィが頷くと、怒号が飛び交う戦場を後にした。バイクの後部座席に座らせ、真夜中の街をかけていく。バイクを運転するマルコの背中に手をまわし、安心したように息をつく。零れた涙は風で消えていった。

 バイクに乗って連れてこられた場所は、いつもの診療所だった。慣れた手つきで扉を開け、何も言わずにダイニングの椅子に座る。温かいコーヒーをマルコが淹れ、レミィの前に差し出した。緊張していた身体に温かい飲み物が入り、一気に安心感が押し寄せる。
「……いつからだ」
「何が、ですか?」
「いつから、その記憶を思い出した」
「……」
 すっとぼけるのはもう無理なようだ。目を閉じて一口コーヒーを喉を通すと、ゆっくり瞼を開けた。先程までそこにいた人物とは明らかに纏う空気が変わる。その空気をマルコも肌で感じた。
「――高熱を出したあの日ね。微かにあったけど、かなりクリアになったのはあの日からよ」
 レミリア否レミィは流暢に答える。声や見た目は何も変わらない。ただ見せ方が違うだけでこんなにも別人になるとは、レミィの腕だと感心させられる。前世の記憶を持った、かつて愛してやまなかった人――レミィが目の前に現れた。
「やっぱり、か。おれと同じだったよい」
「そう、いつ思い出したの?」
「ずっと前、ティーンのときだ。本当に、『そう』なのか?」
 ここまで言わせておいてまだ確証がないらしい。レミィはくすりと笑って髪をかき上げ耳を顕にした。ホールの穴が開いていない、小さな耳。これだけで何と言おうとしているか、マルコは分かった。
「頂上戦争の後、最後に貴方に送ったもの――覚えている?」
「……お前の訃報と、ずっとしてた何の変哲もないピアス、だろ?忘れるはずねェ」
 震えるマルコの声にレミィは正解、と笑った。静かな夜、時計の秒針が進む音だけが部屋に響く。レミィは待った、マルコの声を待っていた。
「本当に、本当に、レミィなんだな……?」
「――えぇ。頂上戦争のとき、世界政府に首を振った『ホリィ・レミリア』、その記憶が今私の中にあるわ」
 レミィのはっきりした返答に、マルコは蚊の鳴くような声でそうか、と呟いた。ふらふらと席を立つと座っているレミィの横に立つ。
「ごめん、ごめんなァ、レミィ――」
 レミィの首に腕を回して肩に顔を埋め、泣きながらマルコは懺悔した。
「守ってられなくてごめん、助けてやれなくてごめん、辛いところで死なせてごめん……」
「……」
 レミィは黙ってマルコの懺悔を聞いていた。酷く後悔していたことが痛いほどレミィに伝わってくる。歯を食いしばって泣くマルコの頭をそっと抱きしめ返した。
「ずっと、ずっと後悔してたんだ。なんであの時無理矢理にでも」
「マルコ」
 レミィはマルコの言葉を遮った。これ以上の懺悔は不要だった、この痛いくらいずっと想い続けてくれていたのなら、ようやく言えることがある。
「あの時、抱きしめてくれて、『愛してる』って言ってくれてたから、私の人生は幸せだった。ただずっと伝えそびれていたことがあったの」
 レミィは肩に伏せられたマルコの顔を上げさせ、真正面から見つめた。こんな泣き顔のマルコははじめて見た。
「ずっと、貴方を想い続けていたわ。それは今も変わらない。大好きよ、愛してるわ、マルコ」
 満面の笑みでレミィは伝えた。ああ、やっと言えた。思わずほろりと涙が零れる。ずっと心の底で燻って、恥ずかしくて言えなかった言葉。飾りっ気のない陳腐な言葉でも、それ以上の意味がそこには詰められていた。
「今も、か?」
「ええ」
「お前を見殺しにしたような男だぞ?」
「私を勝手に殺さないで。死は自分で選んだのよ」
「……」
「あのモールス信号、分かって助けにきてくれたんでしょう?まだ私のことを想ってくれて」
 言い終わる前に唇が塞がれた。触れるだけの優しく、愛おしくて長いキス。それだけで答えは十分だった。抱きしめられる腕から二度と手放すものかという強い意志が伝わってくる。
「愛してる、ずっと愛してるさ、レミィ」
 ようやく唇を離され、真っ直ぐな答えマルコから返ってきた。嬉し涙が瞳に浮かび、その中にぼんやりとレミィが映る。返答に満足したレミィは椅子から立ち上がり、勢いよくマルコの腕の中に飛び込んだ。
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