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【OP夢】これを運命と言わずして何と云う【マルコ】

 一瞬優しい声が聞こえた。それが誰の声だったかは定かではない。だが、怯える自分を落ち着かせる慈しみに溢れた聖母のような声だった。そのまま声の主を確かめることなく、そのままマルコは眠ってしまった。

朝温かい朝焼けが窓に差し込んだ船室で、マルコは隣で眠るレミィを眺めていた。きめ細かな白い首筋に、昨晩付けた噛み痕が痛々しく映えている。片手で絞めてしまいそうな首筋を撫でていると、パチリとレミィが目を開けた。
「悪ィ、起こしちまったか?」
「いいえ、よく触るのね」
「可愛いもんは触れたくなるもんなんだよい」
 何それ、とレミィは可笑しそうに笑う。釣られてマルコも笑い、首筋を撫でていた手を頬に持っていった。優しく撫でられてレミィはくすくす笑う。笑うレミィを幸せそうに見ながら、指を耳まで伸ばした。
「可愛げのないピアスだな。ずっとこれなのか?」
「そうね、開けてからそのままだわ」
「変えないのか?」
 レミィはそう聞かれてしばらく黙った。指で隠れてしまうほど小さな耳にされたピアスを指で弄る。何の変哲もないピアスは飾り気のないレミィにとても似合っていた。
「……別に、いいかしら。そこまで気にしていないし」
「ほんとに洒落っ気がないんだな」
 だらだら話すだけの幸せな時間。この時間がいつまでも続いてほしいとずっと願っていた。

 今度は昼の日差しで目が覚めた。久しぶりに見た幸せな前世の夢、どうして今見てしまったのだろう。昨晩の記憶も相まって、マルコは少し落ち込んだ。休日だったが、昼過ぎまで寝てしまってレミリアには申し訳なくなる。
「あ、マルコさん起きましたか?おはようございます」
「お、おはよう……すまねぇなこんな時間まで寝ちまって」
 ひょこっと部屋に顔を出したレミリアにマルコは謝った。大丈夫ですよ、とレミリアは笑いほっとした表情を浮かべた。その顔にマルコは思わずグッとくる。今日見た夢のせいで、レミリアが更にレミィに見える。考えないようにしていたレミィのことがレミリアを見る度に思い出されて、心臓が痛くなる。
「……マルコさん?ご飯、食べますか?」
「……」
「マルコさん?大丈夫ですか?」
 レミリアが心配そうにマルコの顔を覗き込んだ。マルコは真っ青な顔で手が震えていた。レミリアはびっくりして思わずマルコさん!!!と大声で叫んだ。
「何か、あったんですか?私、もしかして気に障ることを、」
「っ違う!違うんだ……ごめんなレミリア」
 マルコは項垂れてレミリアの肩をポンと叩いて横を通り過ぎた。何か酷く重たいものを背負った背中は、レミリアの心配を加速させる材料にしかならなかった。

「マルコの様子がおかしい?」
「そう、なんです。いつもより何かぼーっとしていて、ちょっと心配なんです」
 調子がおかしいマルコのことを、思い切ってエイダに話してみた。エイダはうーん、と少し悩んだ後心当たりはあるかい?とレミィに聞いた。レミィが首を横に振ると、暫く考えてからニコッと笑いかけた。
「大丈夫だよ、レミリアのせいじゃあないさ。本人の問題か、気の病だよ」
「本当に、大丈夫でしょうか……」
 心配して顔を暗くするレミィにエイダは頭を撫でる。
「アンタは優しいねぇ、ちゃんと人の心配出来るのはいい子だよ」
「……いい子なんかじゃないです。私が嫌なだけです」
 俯くレミィの頭をエイダはさらにわしゃわしゃと撫でる。髪の毛がクシャクシャになろうとお構いなしだ。
「そうかい、そうかい。いい事を教えてやろうか、レミリア」
「何ですか?」
「嫌だと思ったことはちゃんと言った方がいいし、それを人に相談することは正しい。今の考えをずっと大切にしな」
「……はい」
 レミィは少し照れながらも、ちゃんと返事をした。その日の分のお給料をもらい、帰路についた。エイダに肯定してもらったことが、じんと心に残り続ける。そうか、人に言うってかなり大事なんだ。今まで一人考え行動していたレミィには新鮮で、心地のいい感覚だった。
「只今戻りま……あれ?」
 いつも返ってくるマルコの声が聞こえない。各部屋を探してみても、マルコの姿はなかった。こんな時間にいないのは珍しい、だが戻ってくるだろう。晩御飯の準備でもしていたらふらっと帰ってくるだろう。そう思いながらも、荷物を置いた瞬間だった。
 ドクン
 心臓が重く跳ね上がる。急に発熱したときのものとは違う。もっと重い重いどろっとした最悪の感覚。頭が霧に包まれたようになり、血流が早くなる。ぼーっとした頭で考えることが出来るのは、熱い欲。レミィでははじめてだが、身体はこの感覚を知っている。オメガ特有の発情期、ヒートが来てしまった。
「っ……!はぁ、はぁ、はぁ……!」
 ふらふらよろめくが動くこと出来る。とりあえず部屋に戻らねば、と働かない脳で考え重い身体を引きずって自分の部屋まで戻ろうとする。壁に手を当てながら、必死に歩いていると甘い匂いが鼻を貫いた。今のレミィにとってはそれが魅力的でしかなく、誘われるように足を進めた。
「……!」
 匂いに誘われた先にあったのは、いつもマルコが着ている白衣だった。椅子にかけられた白衣からいい匂いが漂い、これが欲しいと本能が訴えている。震える手で白衣に手に取ると、背筋にぶわりと悪寒が走った。気を張っていた身体から急に力が抜け、白衣がかけられていた椅子に倒れ込む。
「ぅ、あ……っ、つぃ……」
 暑いだけではない、心が酷く荒れて正常に思考が動かない。ビクビクと痙攣したように身体が震え、もう自我では抗えなくなっていく。そのままレミィの視界は暗転し、そのまま気を失ってしまった。

「アンタねぇ、焦ってレミリアを心配させるんじゃあないよ」
 一通りの仕事が終わったところにエイダからの電話がマルコにかかってきた。心配していたからしっかりしろ、とお叱りにマルコは反論出来ない。気分転換に外に出て、エイダからのお叱りを聞いていた。
「まぁ焦っているのはそうだから、認めるしかねェよい。それよりもエイダ」
「ん、どうしたんだい?」
「レミリアの孤児院移住の件、予定よりも早く進められねェか?」
「!それまた、どうしてだい?」
 エイダは驚いた様子でマルコに聞き返した。驚いた様子のエイダにマルコは冷静に答える。
「思ったよりも回復が早いんでな。最近じゃ孤児院にいる時間の方が長いし、そっちの方がいいだろうよい」
 しばらく考え込んで出したマルコの答えだった。近くにいるからどうしても意識してしまう、少し距離を置けばこの動揺も執拗もマシになるだろう。エイダは暫く黙っていたが、そうかいと返事が返ってきた。
「悪いな、迷惑かけるよい」
「それはいいんだけどさ、本当にアンタはそれでいいのかい?」
「あぁ、いいんだ。これでいいんだよい」
 エイダに追及される前にマルコは電話を切った。暫く気の抜けたように夕焼けを眺める。ずっと迷って決断したことだ、そうすべきだったのに今まで事を早めなかった己が悪いのだ。そろそろレミリアが返ってくる。そう思い、裏口に入った瞬間だった。
 甘い魅惑的で刺激の強い香りがマルコの鼻を劈く。理性を溶かしつくしてしまうような誘惑にマルコは覚えがあった。
「うっ……!クソ、まさか」
 一番恐れていたことが起きた。レミリアのヒートがやってきてしまった。甘い香りはオメガのフェロモンだろう。このフェロモンはどんな理性的なアルファであっても抗えない代物だ。マルコが手を出さないと誓っても、これで全て無駄になってしまう。本当なら誰かに任せて、この診療所に立ち入らないのが最善択だろう。だが、マルコには出来なかった。脳を溶かすような強烈な香りに耐えながらも、その香りの根源を探す。愛おしい人がヒートで苦しんでいるかもしれないのに救いにいけない、医者として体調を見なければならないという使命、誰にもこのオメガを渡したくない独り占めしたい、というのが本音であった。強烈な匂いの元を辿れば、自分の部屋から漂ってくる。理性が警告をガンガン鳴らしながら、ゆっくり部屋をのぞき込むと椅子に倒れ込んでいるレミリアを発見した。
「レミリア、っ!大丈夫、か?」
 駆け寄って肩を揺らせば、顔を赤く火照らせたレミリアがゆっくり顔を起こす。マルコに気が付くと握りしめた白衣をパッと手放し、ぎゅっとマルコに抱き着いた。直にフェロモンが鼻に入り、脳が焼かれるような感覚に落とされる。
「いか、ないで……」
 聞いたことのないか細い小さな声でレミリアはマルコに訴える。服を抱きしめる力が強くなり、触れる肌が燃えるように暑い。肩で荒く息をするレミリアの声が近い。ギリギリまで戦っていた理性が一瞬で溶かされた。
「レミっ…レミリア」
 名前を呼ぶと、胴に顔を埋めていたレミリアが顔を上げる。レミィとそっくりな顔で頬を赤く染め、涙を浮かべた瞳でこちらをのぞき込む。その可愛い顔を両手で包み込み、顔を近づけてキスをした。何度も何度も角度を変えてキスをしてから、レミリアの口角に親指を突っ込む。無理矢理開かせた口に舌を突っ込み、貪るように口の中を蹂躙する。
「っ、ん……ぁう」
 漏れる甘美な声を聞けば、いよいよブレーキが利かなくなる。小さな身体を抱きかかえてベッドに押し倒せば、夜の闇にもつれ込んでいった。
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