現状


「……まこと、お前は奪ってばかりだな」

 何とか絞り出した一言。
 鳳凰のその言葉は、意外にも白沢の表情を変えた。

 すっと真顔になる白沢を確認し、鳳凰は軽く息を吐く。
 怒りを抑え込むことに必死になっていたらしい、気付けば呼吸が止まっていた。

「昔からやることが変わっていない。とても一聖獣の振る舞いとは思えぬ」
「うっさい」

 鳳凰の苦言に、白沢は大きく反応を返す。
 舌打ちをし、眉尻を極端に吊り上げた。

 白沢に睨み付けられながらも、この反応もいつも同じだな、と鳳凰は冷静に考える。
 何度も向けられた睨みだ、癪に障るがもう慣れている。

「こちとら好きで聖獣やってんじゃないって言ってんでしょ。何度も同じ説教しないでくれる?」

 白沢が不快感剥き出しの声で鳳凰に悪態をつく。

 お互いに何度も重ねた応酬だった。
 しかし何度ぶつけ合っても、相手が理解出来ない。

 鳳凰はそのことが、最近になって酷く悲しい状態に思える。

 けれど白沢は違う。
 あーもう、と再び舌打ちを響かせ、ぐるんと椅子を回し、机に向き直る。

「だからさっさとこの聖獣としての命と力が欲しい奴連れて来いってーの。そっくりそのままくれてやるわよ」

 それ以外で来んなボケ、と白沢はそんな罵声で締め括った。
 もうそこからは一言も発しない。

 鳳凰は一応、これは、と自分が持ったままの小瓶について訊ねたが、白沢は答えなかった。
 鳳凰はひとり、軽く頷いて見せると、無言でその場を後にした。


2020.7.11
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