現状


 何が面白いのか、あはは、と笑いながら。

 その表情は本当に愉快そうで、しかし笑い声は酷く渇き切っていて、鳳凰にはそれがとても不気味だった。
 何も感じ取れなかったせいだろう。

 楽しげなのは顔付きだけ、しかしだからと言って、その声に負の感情があるかと言えば、そんなことすらない。

 空っぽなのだ、白沢という女は。

 鳳凰にはどうしてもそう思えてならなかった。

「だから鳳凰さぁ、それちょっと試して来てくんない?」
「……は?」

 警戒する鳳凰など気にも留めず、あっけらかんと白沢がお願いをしてくる。
 鳳凰が怪訝な目付きで白沢に応えると、白沢は鳳凰の手の中の小瓶を指し、それ、と言う。

「他の鬼神にも有効なはずだから、真鬼か創鬼にブチ込んで来てよ~。あんたにとっても役に立つでしょ? 憂神子取り返して来なよ」

 ね、と顔の前で両手を合わせ、可愛らしく首を傾けて見せる白沢。

 しかし鳳凰の表情は険しく。
 衝動的に、この手を振り払って、小瓶を地面に投げ付けて壊してしまいそうだった。
 何とかその怒りを抑え込み、ぎゅ、と小瓶を強く握り締める。

 本当に、何を言っているんだこの女は。

 駄目~? とひとり話を続ける白沢。
 猫撫で声のつもりだろうが、それは鳳凰にとって神経を逆撫でする不快音でしかなかった。

 恐らく、白沢は分かっていてやっている。
 鳳凰を怒らせるために。

 駄目だ、白沢の挑発に乗るわけにはいかない。
 鳳凰は一旦目を伏せて、わざとらしく、分かるように溜め息を吐く。

「迷ってるの?」

 更に挑発を被せて来る白沢。
 その問いへの本音だけは否定し切れないことに気付きながらも、鳳凰は別の言葉を探す。

 ここは、何も答えてはいけない。
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