好きで居続けたら、こうなった。


 産休の社員さんの代わりに、ってことで入ったんだ。

 長く出来るとは思ってなかったよ。
 でもここの社長のことはずっとファンだったし、接点はないけど嬉しかった。

 ずっと好きだった人の下で働いてるんだなぁーってしみじみして。

 そしたらその仕事ぶりが評価されて、何か知らないうちに正社員として採用された。
 で、今回の一件である。

「真面目にやってみるもんなのねぇ」

 ハイボールをぐいーっと呑んで、遥(はるか)が呟く。
 わたしはそれ以外取り柄がなかっただけだけど……今回はほんと真面目様様である。

「それ、こっちが真面目にやってないみたいじゃん」
「あたしは半分趣味みたいなもんよ」

 もー、と優花が遥の発言に笑ってツッコミ。
 しかし遥は本当にそうみたいだった。

 ヘアメイクの優花と、スタイリストの遥。
 確かに普通の事務員のわたしからすれば、「好き!」を仕事に出来た才能ある女性たちだ。

「で、史時(しとき)やるって言ったの?」

 ハイボールのグラスを置いて、遥がわたしに訊ねる。
 わたしはつくねの串をつまんで、そりゃあ、と口を開いた。

「“はい”か“イエス”しかないでしょ、選択肢。こんなチャンス今世では二度とないもの」
「……そうね」

 実際、呆気に取られてしまったせいもあるけど、わたしは即座に話を飲んだ。
 だって、ここで断る理由もなかったから。

「よーし、今日はお祝いだ! 史時、出世おめでとー!」
「優花ってほんと酔い回るの早いよねぇ」

 わー、とひとりチューハイのグラスを掲げてはしゃぐ優花。
 それを見て、遥が淡々と述べた。

 既に酔っているのか……。
 でもお祝いって言ってくれるのは嬉しい。
 つい顔がにやけちゃう。

「でもあれねー、社長秘書って何かえろいよね」
「ええええ!」

 ビールの追加オーダーをして、遥がいきなり何か言い出した。
 吃驚するわたしに、分かるぅー、と優花も乗っかる。

「今時の漫画みたいだよね! 『俺様社長のイ・ケ・な・い残業』みたいな!」
「やー……表現古いわ」

 だはは、と何故かテンション高めの優花。
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