愛されて来た君へ
「早くない?」
もう行くの、と律姉ェが怪訝そうに呟く。
わたしは慎重に、でもなるべく急ぎ足で玄関へ。
「ちょっと寄り道」
そう告げて、草履に履き替える。
そんなわたしに、律姉ェがクッションを貸してくれた。
これを腰に挟んでおけば、帯も崩れないし座るのラクだからってことらしい。
ほんとに何から何まで気が利く人だ。
再三お礼をして、わたしは律姉ェ宅の玄関先に待機している車へ向かう。
「お待たせしましてー」
こんこん、と窓ガラスを叩いて合図する。
運転席で顔を上げた龍一を確認すると、わたしはドアを開けた。
「すっげぇ華やか」
はー、と何やら感心している様子の龍一。
そんな珍しいもんじゃないよ、と照れ隠しでぶっきらぼうに答えてみた。
座席にクッションを置いて、ちょうどいい位置に直しながら座る。
何とかシートベルトも出来る。
わたしがちゃんと座れたのを確認すると、龍一がサイドブレーキを操作する。
「珍しいよ、俺にとっては」
龍一がそう何気なしに呟いた。
そうか、と納得するわたしに、どこだっけ、と龍一が訊ねる。
わたしが今回参加するのは、中高とお世話になった女子校の成人式だ。
こういうときは地元の、地区主催の式典に出る子が多いと思うんだけど、わたしはどうしてもそっちには行けない。
行っても友達はいないしな……。
幸い、通っていた女子校は、毎年該当の学年の有志が自主的に成人式を開催してて、学校も体育館を貸してくれる。
わたしにとっては女子校での式典の方が、ずっと楽しいのは明らかだった。
でも、その前に、行っておきたい場所があったんだ。
女子校までの道の途中。
ちょっと大通りから逸れる。
今日は日曜日だし、歩いている人は殆どいない。
まぁ、こんな朝早くから、墓参りに来る人も少ないだろうけど。
寺の駐車場に車を停めて、併設されている墓地へと入っていく。
真冬の朝、ピリッとした冷たい空気。
「あー、線香忘れちゃった」
墓石の前に来たと同時に、それを思い出した。
「まぁそれは……今回は仕方ないとして」
普通、成人式の前に墓参りは来ないだろうし、と龍一が冷静に呟いた。
わたしは頷きはしたけど、ショックは隠せずにいた。
今ここで眠っているのは、お父さんと、わたしの双子の弟である。
もう8年も前のこと。
「わたしだけ二十歳になっちゃった」
多分わたしは、それを謝りに来たんだと思う。
自分でも曖昧なのは、明確な理由が思い付かなかったから。
どうして今日、ここに来たんだろう、って自分でも不思議に思ってる。
お父さんに振袖姿を見せる、って理由は分かるとしても。
本当なら、梛月(なづき)には恨まれても可笑しくないし。
だから多分、謝りに来たの。
「水は換えてこうかな」
線香ないし、それくらいは、とわたしはお供えの花に手を伸ばす。
でも、振袖が汚れるであろうことは、容易く予想が出来た。
一瞬躊躇ってしまう。
結局、「終わったらまた改めて来れば」と龍一に諭されて、今はやめておく。
「……申し訳ないなぁ」
負い目を感じてしまう。
今日は祝われていい日なのに。
それでも、梛月が死んだのは、半分はわたしが原因みたいなもんだし、手放しで喜べるかって、そんなわけはないし。
きっとわたしがどう謝っても、梛月は笑って許してくれるんだろう。
優しくて、他人のために行動が出来る子だから。
もう行くの、と律姉ェが怪訝そうに呟く。
わたしは慎重に、でもなるべく急ぎ足で玄関へ。
「ちょっと寄り道」
そう告げて、草履に履き替える。
そんなわたしに、律姉ェがクッションを貸してくれた。
これを腰に挟んでおけば、帯も崩れないし座るのラクだからってことらしい。
ほんとに何から何まで気が利く人だ。
再三お礼をして、わたしは律姉ェ宅の玄関先に待機している車へ向かう。
「お待たせしましてー」
こんこん、と窓ガラスを叩いて合図する。
運転席で顔を上げた龍一を確認すると、わたしはドアを開けた。
「すっげぇ華やか」
はー、と何やら感心している様子の龍一。
そんな珍しいもんじゃないよ、と照れ隠しでぶっきらぼうに答えてみた。
座席にクッションを置いて、ちょうどいい位置に直しながら座る。
何とかシートベルトも出来る。
わたしがちゃんと座れたのを確認すると、龍一がサイドブレーキを操作する。
「珍しいよ、俺にとっては」
龍一がそう何気なしに呟いた。
そうか、と納得するわたしに、どこだっけ、と龍一が訊ねる。
わたしが今回参加するのは、中高とお世話になった女子校の成人式だ。
こういうときは地元の、地区主催の式典に出る子が多いと思うんだけど、わたしはどうしてもそっちには行けない。
行っても友達はいないしな……。
幸い、通っていた女子校は、毎年該当の学年の有志が自主的に成人式を開催してて、学校も体育館を貸してくれる。
わたしにとっては女子校での式典の方が、ずっと楽しいのは明らかだった。
でも、その前に、行っておきたい場所があったんだ。
女子校までの道の途中。
ちょっと大通りから逸れる。
今日は日曜日だし、歩いている人は殆どいない。
まぁ、こんな朝早くから、墓参りに来る人も少ないだろうけど。
寺の駐車場に車を停めて、併設されている墓地へと入っていく。
真冬の朝、ピリッとした冷たい空気。
「あー、線香忘れちゃった」
墓石の前に来たと同時に、それを思い出した。
「まぁそれは……今回は仕方ないとして」
普通、成人式の前に墓参りは来ないだろうし、と龍一が冷静に呟いた。
わたしは頷きはしたけど、ショックは隠せずにいた。
今ここで眠っているのは、お父さんと、わたしの双子の弟である。
もう8年も前のこと。
「わたしだけ二十歳になっちゃった」
多分わたしは、それを謝りに来たんだと思う。
自分でも曖昧なのは、明確な理由が思い付かなかったから。
どうして今日、ここに来たんだろう、って自分でも不思議に思ってる。
お父さんに振袖姿を見せる、って理由は分かるとしても。
本当なら、梛月(なづき)には恨まれても可笑しくないし。
だから多分、謝りに来たの。
「水は換えてこうかな」
線香ないし、それくらいは、とわたしはお供えの花に手を伸ばす。
でも、振袖が汚れるであろうことは、容易く予想が出来た。
一瞬躊躇ってしまう。
結局、「終わったらまた改めて来れば」と龍一に諭されて、今はやめておく。
「……申し訳ないなぁ」
負い目を感じてしまう。
今日は祝われていい日なのに。
それでも、梛月が死んだのは、半分はわたしが原因みたいなもんだし、手放しで喜べるかって、そんなわけはないし。
きっとわたしがどう謝っても、梛月は笑って許してくれるんだろう。
優しくて、他人のために行動が出来る子だから。