親友発見。
「……」
なんて、ぶっちゃけ。
吃驚した、というか、ちょっと警戒してしまった。
華倉さん、という魅耶の声に、俺は笑って見せる。
そっか、そういう過去が。
「だからさー、今すっごく楽しいし幸せ! 逢坂さんっていう仲間とか、鳳凰さんみたいな同志に出会えて!」
「浅岡氏……我でよければいつでも呼んでくれ!」
「わーい!」
ぐ、と何故か固く手を組んで握手を交わす鳳凰たち。
何やってんだ。
でも、これくらいはあってもいいのかなって思い直す。
鳳凰、もうずっと長い間、ひとりで過ごしてたもんな。
誰かと過ごすっていうだけでも久々だろうに、その上話が合っちゃったらそりゃあもうお祭りだよなぁ。
なんて、何となく自分に言い聞かしていた。
何だろう……ずーっともやもやしてるんですが。
「こんなに盛り上がれるなんてー、忠雪さんも呼べばよかったねぇ逢坂さん!」
「あっそれは!!」
ん、と思った。
今、聞き慣れた名前が出たような……。
そんな探るような目つきをしていた俺に、浅岡さんが教えてくれる。
「あっ、忠雪さんっていうのはねぇ、僕と逢坂さんと同期くらいの作家さん。でも本職は紫龍っていうヴィジュアル系バンドでギター弾いてるんだよ~。今活動休止してるけど」
って、すらすらと。
……な!!
「魅耶、忠雪と友達かよ!!!!!!」
「だー、だから黙ってたんですー!!」
いきなり俺が声を荒げたので、鳳凰と浅岡さんが吃驚している。
知り合い、ときょとんとする浅岡さんには悪いけど、取り敢えずスルーして俺は魅耶に突っ掛かる。
「何で! 教えといてよ! ズルいよ魅耶! 俺抜きで忠雪と会ったりしてたの!?」
「華倉さんその言い方! まぁ確かにありましたよ! 雑誌の対談とか……」
「えー、先月3人で呑んだじゃーん」
「浅岡ぁぁぁぁぁああ!!!!」
あっははは、と要らん情報を暴露してくれた浅岡さんに、魅耶が叫んだ。
何それもおおおおおお!!
取り敢えず一通り怒って、空気抜けたようにテーブルに突っ伏す俺。
うう、俺もその場にいたかった、と呟くと魅耶がちょっと拗ねて返す。
「いーじゃないですか、華倉さんだって会おうと思えば会えるでしょうに」
「そうかもだけどやっぱ違うよー! 俺の使える手段はビジネスだもん~」
うっうっ、と悔しくて泣けてくる。
そう、忠雪の実家は、うち篠宮とビジネス上で繋がりがあるので、使えない手ではない。
ただ、多分怒られるだろうから、1度も使ったことはないけど。
「あー、なるほど、奥さんは忠雪さんのファンなんだ? いいよー、僕が会わせてあげるっ!」
「えっ!!!」
しれっと奥さん呼ばわりされていることよりも、何か夢みたいな申し出に俺は顔を上げた。
まじっすか、と瞳を輝かせる俺。
しかし、魅耶の邪魔が入った。
「駄目です! 浅岡先生にそこまでしていただく必要は……」
「えー、でも今回の逢坂さんのしてくれたことと一緒だよぉ。僕は鳳凰さんっていうお友達と出逢えたし、奥さんにもやってあげようよぉ」
「そうだぞ魅耶。お前ひとりで華倉を囲うんじゃない」
「鳳凰も言い方」
鳳凰酔ってんのか。
すっかり各々楽しんじゃっている様子。
……あー、そうか。
鳳凰のこんな楽しそうな笑顔、見たことなかったっけな。
ふと気付いてしまった。
今まで俺は、鳳凰の純粋な笑顔を見たことがなかった。
普通の人間と同じように、喋って、笑って、こんなにオープンにしているこの人を。
でもそんだけでもやもやするかなぁ。
てゆーかそれ別にもやもやしなくても……なんてひとり考えていた。
そんなことをしていたら、予約していた制限時間が来てしまったらしい。
一旦会計をして店を出た。
「本日はありがとうございました」
魅耶がそう浅岡さんにお礼を述べる。
結構喋ってたもんなぁ、と俺が言うと、しかし浅岡さんはこう返す。
「えー、僕は全然足りないよ! 特に鳳凰さんとはもっと語りたい!」
「まことか浅岡氏! 我もだ!」
ええええ。
アルコールのせいか、やや顔を赤くして駄々を捏ねる浅岡さん。
こら三十路。
でも、鳳凰もそんな似たようなテンションなので、浅岡さんに賛同している。
そんな盛り上がるふたりを眺めていて、はぁ、と魅耶が曖昧にリアクション。
「じゃあ鳳凰さん! 二次会行こう! もっと語ろうよ!」
「っ、いいい行く! 我は行くぞ!」
まじか。
どうする、と魅耶に訊ねてみると、魅耶はもう面倒くさいみたいで、考えている。
しかし浅岡さんが、そんな魅耶に揚々と告げる。
「あっ、逢坂さんたちは帰ってもオッケーだよ~。そろそろふたりで過ごしたいよね! でも今日は本当に有り難かったよ~!」
「……そうですか。では、その方をよろしくお願いします」
浅岡さんの申し出に、魅耶はあっさりと乗っかる。
てゆーかこの人適応能力高過ぎる。
なんて思っていた俺も、一応浅岡さんに挨拶をして、鳳凰にも一言伝えとく。
「迷惑掛けないようにね」
「安心しろ華倉! そんな粗相はせん!」
キラッキラの笑顔で、力強く返された。
のが、また複雑。
そうしてふたりは金曜の夜の街へと消えて行った。
手を振って、見送って、溜め息。
「華倉さん何寂しそうにしてるんですか」
「えっ!」
自分では隠していたつもりだったんだけど、魅耶にはばれていたらしい。
そんなこと、と返すんだけど、魅耶にはちょっとだけ睨まれた。
「鳳凰が楽しそうにしてるのはよいことでしょうに。嫉妬ですか?」
「べ、別にそんなんじゃ……」
全く、と、拗ねる魅耶。
そう反論する俺だけど、でも、嫉妬、って言われて、何となく腑に落ちているのも事実だった。
鳳凰のこと、一番分かってるの、俺なのかなって思っていて。
でも、そんなんはただの筋違いの優越だ。
大体鳳凰を選ばなかった俺にその権利はないし、第一傲慢だよな。
はぁ、と溜め息を吐いて、俺は独り言のつもりで呟く。
「ごめん、俺ってほんと阿呆だな」
「そうですねー」
「魅耶!?」
思わず返事があったので取り敢えず吃驚した。
じゃあ帰るか、と駅に向かう俺たち。
しかし、その途中で魅耶が思い出したように呟く。
「……そう言えば鳳凰、お金持ってましたっけ?」
あれ、と首を傾げる魅耶。
それを聞いて、俺も思い出す。
「……あっ」
翌日。
魅耶が浅岡さんに謝罪の電話を入れている頃。
俺は珍しい鳳凰のマシンガントークを聞かされていた。
2017.2.25
なんて、ぶっちゃけ。
吃驚した、というか、ちょっと警戒してしまった。
華倉さん、という魅耶の声に、俺は笑って見せる。
そっか、そういう過去が。
「だからさー、今すっごく楽しいし幸せ! 逢坂さんっていう仲間とか、鳳凰さんみたいな同志に出会えて!」
「浅岡氏……我でよければいつでも呼んでくれ!」
「わーい!」
ぐ、と何故か固く手を組んで握手を交わす鳳凰たち。
何やってんだ。
でも、これくらいはあってもいいのかなって思い直す。
鳳凰、もうずっと長い間、ひとりで過ごしてたもんな。
誰かと過ごすっていうだけでも久々だろうに、その上話が合っちゃったらそりゃあもうお祭りだよなぁ。
なんて、何となく自分に言い聞かしていた。
何だろう……ずーっともやもやしてるんですが。
「こんなに盛り上がれるなんてー、忠雪さんも呼べばよかったねぇ逢坂さん!」
「あっそれは!!」
ん、と思った。
今、聞き慣れた名前が出たような……。
そんな探るような目つきをしていた俺に、浅岡さんが教えてくれる。
「あっ、忠雪さんっていうのはねぇ、僕と逢坂さんと同期くらいの作家さん。でも本職は紫龍っていうヴィジュアル系バンドでギター弾いてるんだよ~。今活動休止してるけど」
って、すらすらと。
……な!!
「魅耶、忠雪と友達かよ!!!!!!」
「だー、だから黙ってたんですー!!」
いきなり俺が声を荒げたので、鳳凰と浅岡さんが吃驚している。
知り合い、ときょとんとする浅岡さんには悪いけど、取り敢えずスルーして俺は魅耶に突っ掛かる。
「何で! 教えといてよ! ズルいよ魅耶! 俺抜きで忠雪と会ったりしてたの!?」
「華倉さんその言い方! まぁ確かにありましたよ! 雑誌の対談とか……」
「えー、先月3人で呑んだじゃーん」
「浅岡ぁぁぁぁぁああ!!!!」
あっははは、と要らん情報を暴露してくれた浅岡さんに、魅耶が叫んだ。
何それもおおおおおお!!
取り敢えず一通り怒って、空気抜けたようにテーブルに突っ伏す俺。
うう、俺もその場にいたかった、と呟くと魅耶がちょっと拗ねて返す。
「いーじゃないですか、華倉さんだって会おうと思えば会えるでしょうに」
「そうかもだけどやっぱ違うよー! 俺の使える手段はビジネスだもん~」
うっうっ、と悔しくて泣けてくる。
そう、忠雪の実家は、うち篠宮とビジネス上で繋がりがあるので、使えない手ではない。
ただ、多分怒られるだろうから、1度も使ったことはないけど。
「あー、なるほど、奥さんは忠雪さんのファンなんだ? いいよー、僕が会わせてあげるっ!」
「えっ!!!」
しれっと奥さん呼ばわりされていることよりも、何か夢みたいな申し出に俺は顔を上げた。
まじっすか、と瞳を輝かせる俺。
しかし、魅耶の邪魔が入った。
「駄目です! 浅岡先生にそこまでしていただく必要は……」
「えー、でも今回の逢坂さんのしてくれたことと一緒だよぉ。僕は鳳凰さんっていうお友達と出逢えたし、奥さんにもやってあげようよぉ」
「そうだぞ魅耶。お前ひとりで華倉を囲うんじゃない」
「鳳凰も言い方」
鳳凰酔ってんのか。
すっかり各々楽しんじゃっている様子。
……あー、そうか。
鳳凰のこんな楽しそうな笑顔、見たことなかったっけな。
ふと気付いてしまった。
今まで俺は、鳳凰の純粋な笑顔を見たことがなかった。
普通の人間と同じように、喋って、笑って、こんなにオープンにしているこの人を。
でもそんだけでもやもやするかなぁ。
てゆーかそれ別にもやもやしなくても……なんてひとり考えていた。
そんなことをしていたら、予約していた制限時間が来てしまったらしい。
一旦会計をして店を出た。
「本日はありがとうございました」
魅耶がそう浅岡さんにお礼を述べる。
結構喋ってたもんなぁ、と俺が言うと、しかし浅岡さんはこう返す。
「えー、僕は全然足りないよ! 特に鳳凰さんとはもっと語りたい!」
「まことか浅岡氏! 我もだ!」
ええええ。
アルコールのせいか、やや顔を赤くして駄々を捏ねる浅岡さん。
こら三十路。
でも、鳳凰もそんな似たようなテンションなので、浅岡さんに賛同している。
そんな盛り上がるふたりを眺めていて、はぁ、と魅耶が曖昧にリアクション。
「じゃあ鳳凰さん! 二次会行こう! もっと語ろうよ!」
「っ、いいい行く! 我は行くぞ!」
まじか。
どうする、と魅耶に訊ねてみると、魅耶はもう面倒くさいみたいで、考えている。
しかし浅岡さんが、そんな魅耶に揚々と告げる。
「あっ、逢坂さんたちは帰ってもオッケーだよ~。そろそろふたりで過ごしたいよね! でも今日は本当に有り難かったよ~!」
「……そうですか。では、その方をよろしくお願いします」
浅岡さんの申し出に、魅耶はあっさりと乗っかる。
てゆーかこの人適応能力高過ぎる。
なんて思っていた俺も、一応浅岡さんに挨拶をして、鳳凰にも一言伝えとく。
「迷惑掛けないようにね」
「安心しろ華倉! そんな粗相はせん!」
キラッキラの笑顔で、力強く返された。
のが、また複雑。
そうしてふたりは金曜の夜の街へと消えて行った。
手を振って、見送って、溜め息。
「華倉さん何寂しそうにしてるんですか」
「えっ!」
自分では隠していたつもりだったんだけど、魅耶にはばれていたらしい。
そんなこと、と返すんだけど、魅耶にはちょっとだけ睨まれた。
「鳳凰が楽しそうにしてるのはよいことでしょうに。嫉妬ですか?」
「べ、別にそんなんじゃ……」
全く、と、拗ねる魅耶。
そう反論する俺だけど、でも、嫉妬、って言われて、何となく腑に落ちているのも事実だった。
鳳凰のこと、一番分かってるの、俺なのかなって思っていて。
でも、そんなんはただの筋違いの優越だ。
大体鳳凰を選ばなかった俺にその権利はないし、第一傲慢だよな。
はぁ、と溜め息を吐いて、俺は独り言のつもりで呟く。
「ごめん、俺ってほんと阿呆だな」
「そうですねー」
「魅耶!?」
思わず返事があったので取り敢えず吃驚した。
じゃあ帰るか、と駅に向かう俺たち。
しかし、その途中で魅耶が思い出したように呟く。
「……そう言えば鳳凰、お金持ってましたっけ?」
あれ、と首を傾げる魅耶。
それを聞いて、俺も思い出す。
「……あっ」
翌日。
魅耶が浅岡さんに謝罪の電話を入れている頃。
俺は珍しい鳳凰のマシンガントークを聞かされていた。
2017.2.25