親友発見。

 だって……今の時代に添わない、「何の舞台の役ですか?」って感じの煌びやかな着物である。
 ずっと思ってたけどよく動けるなぁと……。

 そんな俺の疑問はさておき、あまり時間がないってことで、篠宮本家へ連絡して、菱兄ィに適当に見繕ってもらった。
 大体サイズが同じくらいってこともあったし。

 現代の服装なんか着るとは思ってなかった鳳凰は、着方から分かっていなかった。
 ……どうでもいいけど普通に結婚して子供がいたらこんな感じなのかなってちょっと思った。

 で、約束の時間。
 俺は魅耶と鳳凰と3人で、最寄駅に降り立った。

 何で俺までって言うと、魅耶曰く「僕と鳳凰だけでは危険なので」ってわけらしい。
 そんなことないだろ、と返したけど、心の中で納得しちゃう俺もいた。
 ので付いてきた。

「えーと、そろそろ着くそうです」

 魅耶が浅岡さんからのメールを確認して呟く。
 その魅耶の隣では、カジュアルな服装に身を包んだ、落ち着きのない鳳凰がそわそわしている。
 落ち着けー、と俺が言っても曖昧に答えるだけ。
 何か……珍しいな、こんな鳳凰。

「ところで、浅岡さんって男性? 女性?」

 勿論本名ではないと思うけど、「浅岡都」ってキーワードだけでは判別がつかない。
 来て見て判断すりゃいんだけど、何となく会う前に分かっておきたかった。
 俺の質問に、魅耶は答える。

「男性ですよ。明るくて喋っていて楽しい人です」
「へぇ……」

 なんて。
 何だろう……このもやもや。
 さっきから俺、妙に気掛かり覚えている。
 うーん、と考えている俺が目を離したときだった。

「逢坂さーん!」

 なんて、陽気な魅耶を呼ぶ声。
 あ、と魅耶も声に気付いて、一方を見て手を振った。
 見えたのは、ちょっと幼い感じの顔をした、元気のいいわんこのような男性だった。

「お久し振りでーす!」
「お久し振り。いきなり済みません、お呼び立てしてしまって」
「いいよぉ! ちょうどカンヅメ飽きてたとこだったし!」

 いいんですかそれ? と魅耶が吃驚している。
 そんなテンション高めの浅岡さん。
 そんな彼が、俺たちに気付く。

「……逢坂さん、今日、奥さんとその友人連れてくるって言ってませんでしたっけ?」
「え、ああ、はい」
「魅耶!?」

 何言ってんだ!?
 取り敢えず吃驚して人前だけど叫んだ。
 幸い、金曜の夜ってことで、気に留める人はいなかったけど。
 あんたはー、と魅耶を諌めようとした俺より先に、浅岡さんが笑う。

「……うん、細かいことは訊かない! で、どちらが友人?」
「こっちです」

 浅岡さんの華麗なスルーで、魅耶があっさりと鳳凰を紹介する。
 鳳凰、珍しく緊張している。
 言葉がうまく出てきてない。
 まじか、と俺が吃驚した視線を鳳凰に向けていると、俺には浅岡さんの視線が注がれていた。

「何でしょうか?」

 気付いたので控え目に訊ねた。
 ら、こう一言。

「……なるほど!」

 どういう意味?
 しかしその真意は訊けなかった(何か怖いし)。
 取り敢えず魅耶が鳳凰の簡単な紹介をして、鳳凰に挨拶させて、予約してあった店に向かった。
 駅近くの居酒屋であるが。

「しかし珍しいねぇ。僕に会いたいなんていうファンがいるだなんて」

 わくわく、とこちらも珍しそうに鳳凰を見ている浅岡さん。
 鳳凰は程よく緊張が解けてきたのか、そうなのか、と受け答えも出来ている。
 取り敢えず適当に、と魅耶が注文をしている向かいで、鳳凰と浅岡さんが喋っていた。

「そうだよー、僕の書く話って基本暗いしエグいでしょ? だから本人もそうなんだろうなってことで、あんまり声掛けてくる人いないんだよー」

 なんて、自虐なんだかネタなんだか分からない浅岡さん。
 そうなの、と俺が声を掛けてみると、浅岡さんは頷く。

「だよー。僕もね、時々思うんだよね。何でホラー小説なんか書いてんだろー、って。それに僕が書いてるのは小説じゃないと自分では思うんだけどね」
「? どういうことだ?」

 まずお手拭きで手を拭きつつ、浅岡さんがのっけから喋り倒す。
 鳳凰既に話に聞き入ってるし。
 聞く体勢ばっちりな鳳凰に、引かないでね、と浅岡さんが前置きしてから話す。

「僕はねぇ、事実っていうか、昔の自分の体験を書いてるだけなんだよね。だから小説っていうかあれ日記のつもり。なのにそれ読んだ人みーんな、『怖い』とか『何このホラー!』とか全然信じてくれなくて」

 ……ん?
 はぁ、と溜め息を吐く浅岡さん。
 てゆーか、どういうこと?
 鳳凰もやや怪訝そうな顔をしているけれど、まことか、と受け入れてる。
 それっからふたりでどんどん会話を進めてしまった。
 てゆーか……何者?

「魅耶、彼は何者?」

 注文を終えてお冷を飲んでいた魅耶に俺は訊ねる。
 魅耶は多くは語らず、「ああいう人です」とだけ返した。

 ……何だろう、鳳凰と凄く話が合うのが分かる気がする。
 そんな浅岡さんを見ていると、自分とは別世界の人種に思えてくる。
 まぁ、小説書けるだなんて早々いないし、でもこんなテンション高い人、今まで近くにいなかったからかな。

「では、あの作品も事実なのか? 浅岡氏が十三の頃……」
「そうなんだよー! 夜中目が覚めてね、押し入れから光洩れてて! 何だろーって思って開けたら……」

 何か怖い話始まってたので慌てて耳塞いだ。
 華倉さん、と魅耶が隣で笑っていた。

 そこへ運ばれてくる料理。
 ドリンクに気付いて、浅岡さんが音頭を取った。

「取り敢えずかんぱーい!」

 わー、とほんと底抜けに明るい。
 ……見た感じ、何か大学生にも見える。

「……失礼ですが、お幾つなんですか?」

 かしゃん、と浅岡さんのグラスと交わしつつ、俺は訊ねる。
 浅岡さんはあははと笑って、嫌だなー、と切り出す。

「確かに童顔だけど、ちゃんと成人済だよ! むしろもう三十路だよ!」
「ええええええ!」

 今年、と付け加える浅岡さん。
 大して歳違わないことに取り敢えず吃驚した。

「にしても落ち着きないですよね浅岡先生は」
「あははーよく言われるー」

 ほんと、と自分でツッコむ浅岡さん。
 楽しそうだなぁ。

「いや、人格は関係ないぞ。我は純粋にそなたの書く作品が好きだ。それにむしろその性格は有り難い。こうして気兼ねなく会話も許されたのだから」
「鳳凰さん!」

 突然に鳳凰が真面目に告白し始めた。
 吃驚する浅岡さんだったけど、えへ、と嬉しそうに笑った。

「え~照れるなぁ。でもだったらほんと嬉しいなぁー」
「浅岡先生友達いませんでしたしね」

 にへにへしている浅岡さんに、魅耶が頷いている。
 そうなの、と訊くと、浅岡さんが答えてくれた。

「こんなホラー体験とか毎日のようにしてて、何の躊躇もなく喋ってるもんだからさ、オカシイって言われてて。僕高校出てないんだよ?」
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