必然性仮定形

「どうした」

 そういう夢か、と浅海が呟いたので、裕が声を掛けた。
 浅海はまだ裕の方を見られないまま、話だけ続ける。

「今起きる直前に夢見ててさ」
「へぇ、珍しいな」

 裕のそんな相槌に、そうだな、と浅海も頷く。
 浅海も裕もさほど夢は見ない。
 よく眠れてるってことだな、と軽く流していた話題だったが、ここに来て存在感を示すとは。

「何か、2人の女の子が仲良くしてんだけど。あれ多分好き合ってて……」
「……どんな内容だそれ」

 別にそういう趣味はないんですよ、と浅海は念押しした。
 裕の声が何だか訝し気だった所為である。
 話しながら、次第にはっきりと思い出してくる。

 あれ、は、そう。

「その、少女2人っての、多分……俺たち」
「……ん?」

 裕のきょとんとした反応が聞こえてきたが、浅海にはそれへの上手い切り返しが思い付かない。

 夢の話だ。
 ストーリーはほぼフィクションで、荒唐無稽なものだ。

 けれど、夢には多少なりとも、自分の思考や感情が絡んでいる。
 夢の内容について、無理に意味を見出すことはないだろうとは思う。
 それでも今の自分の心理状態を、そこから探ってみようとしてしまうのは、何かが気掛かりな所為だろう。

「俺も浅海も、女の子だけど、恋愛関係ってこと? なかなかぶっ飛んでるね」

 何故か冷静に分析する裕。
 浅海はそうね、と簡潔に呼応するのが精一杯だった。

 ふーん、と何やら考えているような、意味有り気な裕の声。
 浅海はふと、ようやくそこで裕の方を振り向いた。

「……夢でもさすがに有り得ないよな」

 浅海はそう呟く。
 裕がこちらに視線を寄越して来たので、浅海は顔を合わせないかのように再び裕に背を向ける。

「俺ならまだしも、いや良くはないんだけど、裕が女の子とか……ちょっとイメージ出来ない」
「何で。それはそれで酷ェな」

 有り得ない、と自分で自分の夢を否定する浅海に、裕がそう返して、複雑だが、で締める。
 だってそりゃ、と浅海は裕に続けた。

「裕はほんとにカッコ良いから。今の裕である存在が、裕に一番合ってる」

 少なくとも、浅海にとっては、それが真実なのだ。
 予想外に、おう、と裕が驚いていたが、それは浅海も同じことだった。
 自分で言っていて、浅海は微妙に照れてしまっていた。

 本音だけど、事実だけど、気恥ずかしい。

「うん、裕を女の子にしなきゃなんないんなら、俺が女の子でもしょんないと思う」
「どういう条件の世界なんだ」

 どっちか選べと問われたら、きっとそう答えてしまう。
 浅海は自分の考えに納得していた。
 同時に、そこには寂しさも孕んでいることに、落ち込む。
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