必然性仮定形

 ありがとう、と浅海は礼を述べるものの、内心は非常に恥ずかしかった。

 みっともない姿を曝してしまったものである。
 何そんななるまで呑んだんだろ、と考えてみるものの、心当たりが閃かない。
 代わりに現れたのは、ずーんと鈍く広まる頭痛である。

 うえぇ、と同時に襲って来た吐き気で、浅海は軽くえづく。
 裕が溜め息を吐きながら、水、とコップを差し出して来た。

「面目ない……」

 水を1口2口飲むと、浅海は覇気のない声で謝った。

 多分冷静になって考えることが出来れば、色々原因は出て来るだろう。
 仕事のストレスや、自分の能力の悩みなど。
 けれど、だからと言って、それに振り回されていることが情けない。

「まぁ、俺も吃驚したけどね……何事かと」

 苦笑いをしながら裕が呟く。
 そういうことなのだ。
 それは浅海なりのプライド、見栄とも言えるもの。

 まだ裕の前では、カッコ良く振る舞っていたいのである。
 青かろうと何だろうと、浅海にとっては重要な問題だった。

 なのに、アルコールの所為で、一発でおじゃんである。
 くっそ、と浅海は思わず舌打ちしてしまった。
 勿論自分に対してである。

「えっ、何、どうしたの」

 裕が驚いてしまった。
 浅海は顔を上げ慌てて、ごめん、と言ってしまった。

 今自分が置かれている状況が、正直なところ浅海にはよく分かっていなかった。
 多分、混乱していたのだろう。
 今度は自己嫌悪で俯いてしまう浅海に、まぁ、と裕が続ける。

「事前に連絡くれたから、俺も対処出来たけど」

 だからそんな落ち込むな、と裕が笑う。
 浅海は下から覗き込むような視線で、裕を見た。

 申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 けれど浅海には何となくその時の裕の気持ちが読み取れた。
 謝って欲しいわけではない、と。

 では、他に何を言えばいいのだろう。

 色々考えてみたが、結局何も気の利いた言葉は出なかった。
 コップをサイドテーブルに置いて、浅海は裕に背を向けて再度横になった。

 不安定なものである。
 責められたわけでもない、笑われたわけでもない、ただ自分が勝手に決めていたルール通りにならなかったことに動揺して、凹んでいるだけ。

 カッコ悪過ぎて、裕の顔を見ていられなかった。
 同時に、こんな自分を裕に見られたくなかった。

 まじか、と両手で顔を覆い、ショックに打ちひしがれていた浅海だが、ふとその時、何やら映像が脳裏を過ぎる。
 その映像に気付き、ん、と意識をそちらへ移動させた。

 何だろう、2人の少女の姿があった。
 仲睦まじく並んで座って、お互いを見ていて。

「……あー……」
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