豆合戦!

「いきなりですが、豆まきと言う名の鬼退治やるぞ!!」
「それ例え逆だろ」

 お徳用福豆を構えた有佐ゆうさが、突然そう宣言してきた。




   【 豆 合 戦 ! 】




 本日、紫龍しりゅうとして初めて、本格的にオリジナル曲を作る目的で、西朋にしとも家に集まった。
 司佐つかさと有佐が2人暮らしをしているマンションである。

 最初のうちは真面目に話し合いをしていたのだが、そのうちせんが離脱し(喫煙)、有佐が離脱し(ゲーム開始)、忠雪ただゆきが離脱し(行方不明)、休憩と相成った。
 駄目だこりゃ、これは酷い、と残った真面目組であるけいと司佐が溜め息を零しつつも楽曲の方向性にある程度の目途を付けたときだった。

 有佐が升いっぱいに入ったお徳用福豆を持って、リビングに戻って来たのである。

「豆まき……あー、明日節分か」

 怪訝そうに眉をひそめながらも、馨がすぐに気付いて理解した。
 そうです、と頷きながら有佐が笑う。

「やってみたかったんだよねー。この面子なら結構ガチの奴出来そうだし」
「何でメインが鬼退治になってんだ」

 わくわくしている様子が一目で分かる有佐に、馨が冷静に指摘を入れる。
 こいつは本当に分かってない可能性があるぞ、と呆れて呟く司佐の声に、何がですかー、と忠雪が戻って来た。

「忠雪、扇呼んで来い。豆合戦すっぞ!」
「えっいきなり何ですか、楽しそう!」

 阿呆と天然だけでこれ以上話を進めるのは危険だ。
 馨と司佐は無言でアイコンタクトを取り、メッセージを送り合った。

「もしもし。今日は遊びに来たんじゃないんだぞお前ら」

 馨が腕を組んで、盛り上がっている有佐と忠雪に忠告する。
 まだ曲のジャンルしか決まってねぇし、と馨は何とか本日の目的である楽曲作りに戻ろうとしていた。
 しかし、こういうことの手際は誰よりも早い有佐は、既に鬼のイラストが描かれたお面を用意。

「……ここまで盛り上がっといて……今更お預け?」
「いや、元々豆まきは予定にねぇよ」

 そこを何とか、と馨に鬼のお面を手渡ししながら有佐は懇願する。
 それ賄賂のつもりなのかな、と冷ややかな視線を送り、司佐が溜め息を吐く。

「やめろ有佐。後片付けも大変なだけだろ」

 そもそも何でうちでやる、と司佐に諌められ、有佐がやや大人しくなる。

「こうやってズルズル時間ばっかり過ぎてくのも勿体ないだろ。分かったら曲作りに戻れ」
「残念ですけど、またの機会にしますか」

 むー、と膨れつつも、司佐の正論に言い返せず、有佐が渋々折れた。
 忠雪も素直に諦めて、話し合いの席に着こうとしていた。

 のだが。

「おい、向こうに丁度いい箒あったぞ。これ戦えるだろ」

 一切空気を読まず、ひょっこりと顔を見せる扇。
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