豆合戦!

 その手には、何故か箒が持たれていた。

「えっ、何それ」
「鬼の金棒の代わり」
「ん、何言ってんの?」
「は? だって鬼丸腰じゃフェアじゃねぇじゃん」

 馨と司佐が順番に扇に訊ねた。
 扇の回答は至極適切だった。
 しかしそれは、前提に豆まきがあってのものだった。

「いやいやいや、豆まきしねぇから」

 馨が何となく状況を理解して、扇にそう訴える。
 しねぇの、と首を傾げる扇。
 さっきまでやる流れだったじゃん、と扇は続ける。
 どうやら、扇はリビングに入る手前で有佐の話を聞き、金棒代わりになるものをそのまま探しに戻ったらしい。
 変に真面目か、と奇特なものを見る目で司佐が呟く。

 やらんよ、と再度馨が告げるものの、扇は箒を手離さない。
 箒の柄の先端を掴んで、穂先を上下に振るようにパシパシ左手に当てている。

 やる気だ。

 暫しそのまま誰も喋らず、場に沈黙が流れた。

 しかし、すっと忠雪が立ち上がると、扇に近付く。
 そして、手を伸ばして何やら扇の頭に取り付けた。

「……」
「……似合うなー」

 うん、とひとり頷く忠雪の背後で、有佐が思わずそう告げた。
 有佐が先ほど用意していた鬼のお面を、扇の頭に付けてみたのだ。
 紛うことなき鬼であった。

「やはり扇は似合うと思いました! 適役ですね!」
「こんなやる気のない鬼でいいんか」
「いや……今のお前からは殺る気しか見えねぇ」

 真顔で箒を片手で振り回している鬼(のお面を付けた男子大学生)。
 確かに要らん恐怖しかないわ。

「……しょーがねぇなぁ」

 さすがにこれでは埒が明かないと見た馨が、諦めて溜め息を吐く。
 有佐が持って来た福豆の升を指差し、ルールを決める。

「ここにあるだけだぞ。取り敢えず鬼役の扇にギブって言わせたら俺らの勝ち、その前に豆がなくなったら扇の勝ち」
「鬼俺だけ?」

 馨のルール説明に対し、ぽすぽす、と箒で肩を叩きながら扇がクレーム。
 お前ひとりで充分迫力あるわ、と司佐は言うのだが、そうですねぇ、と忠雪が口を挟む。
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