霊場
食事の際にはテレビを点ける。
特に見るためではないが、習慣と言えば適切だろうか。
そこは幸い華倉も魅耶も認識に乖離はなかったため、今もこうして食事の間はテレビをBGMにしている。
お互いの会話が中心となるため、番組にはこだわらない。
電源を入れたときのチャンネルのまま掛けっ放しである。
華倉が何か思い付いたことを口にしようとしたときだ。
不意にテレビからの声が、とてもすんなりと耳に入って来た。
『――本日未明、山中にある養鶏舎に何者かが侵入し、飼っていたニワトリ約三〇〇羽が被害を受ける事件がありました……』
え、と反応し、華倉はテレビへ視線を移す。
華倉の反応に気付き、魅耶もテレビを見た。
場所が総本山の近くだったせいもある。
テレビからのニュースによれば、鶏舎は柵や壁などが力任せに破壊され、中は逃げようと暴れたニワトリの羽根や、千切れた脚などが散乱していたという。
人間の犯行にしては粗暴な有り様から見るに、警察や関係者は野生動物による被害という見方も視野に入れている。
「えー、こっわ」
ニュースが次のものに移り、華倉が本当に驚いたように呟く。
この近くだね、という華倉の呟きに、魅耶も頷いた。
先ほどのニュース映像に少しだけ移った現場の様子から見えるに、犯人は外から力任せに鶏舎に突っ込んでいったような有り様だった。
しかし、野生動物とは言え、イノシシやシカなどにあんな壊し方が出来るだろうかと疑いたくなる状態にも思えた。
「えぇーあれか……ヒグマとかじゃない?」
「国内に限ればヒグマは北海道にしか生息してませんよ」
クマだとしたらもしや、と華倉が零す。
それに対しての魅耶のフォローは淡々としていた。
「でもそうですよね。あんなに派手にやれるのはクマくらいですね」
この辺の山にもやっぱいるのか、と華倉の表情がやや暗くなった。
今日はこれから、総本山の見回りに出掛けるためである。
育ち過ぎた杉の木を何本か伐採する予定を立てているため、地形と山菜取りのルート、日光の当たり方などの調査のために、山に入る。
勿論華倉1人ではなく、魅耶も同行するのだが、こんなニュースを聞いた後では気が重たくなった。