霊場


「まぁ今のところ総本山には流石にクマはいませんから」

 あまり気にせず、と魅耶が苦笑を浮かべながら華倉を励ます。
 華倉も、そうだけど、と答えたものの、イノシシの生息は把握しているため憂鬱感はそうすぐには拭えなかった。

「そうですね、イノシシの罠の点検もしておきましょうか」

 話題に上がったため、魅耶がそう提案した。
 固定電話の傍にあるメモ用紙に、簡単にメモを書き付ける。

 その魅耶の様子を視界の端に入れながら、華倉は話題を変えた。


***


 この辺りは特に木々が密集していた。
 暗い、と思わず呟きが零れてしまうほど、はっきりと分かる。

 足元は木々の根が不規則に伸びていて、気を付けていないと転びそうになる。
 念の為持ってきた懐中電灯を使い、2人は周辺の様子を観察する。

「間、3本ずつくらいは伐採出来そうですね」

 みっしり生え揃った幹に触れながら魅耶が言う。
 お陰でこの辺の地面に生えているのは、苔や茸類ばかりだ。

 最近雨降ってないのにジメジメする、と華倉は見知っているはずの総本山に、軽い警戒感を抱く。
 そんなに広くはないはずなのに、まだ、足を踏み入れたことのない箇所がありそうだった。

 勿論そんなはずはなく、長くても2年に1度は山中を1周する。
 全部確認してあるはずなのだ。

「……この辺か」

 ふと魅耶が足を止め、そう呟いた。

 警戒していた華倉は魅耶の声に肩を震わせ驚く。
 何、と恐る恐る訊ねる華倉に、魅耶は返事をする。

「そうじゃないかなとは思っていたんですが、確証が持てなかったので……でも今ようやく分かりました」
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