現状


「それ? 試作品よ」

 鳳凰を振り向くことなく、作業を続けながら白沢は言った。

 鳳凰の掌に収まる、液体の詰まった小瓶。
 一見すると何てことのない、水のように見える。
 しかしこれは、白沢が作った「薬」だと言う。

 ノートに書き込みを続ける手は止めず、白沢はまるで独り言のように淡々と続けた。

「最鬼の細胞をちょっと拝借した分が残っててねぇ。それから分析重ねて、骨と筋繊維に有効な毒を調合してみたのよ」

 白沢の言葉を注意深く聞いていた鳳凰が、は、と目を見開いて反応した。
 単純に驚いたのだ、話の内容が予想外だったせいで。

 もう一度小瓶に視線を向ける。
 どう見ても、毒などという恐ろしいものには感じられない。

「そりゃあねぇ、相手は何千年と生きてきた鬼神だもの。細胞の解析が出来ただけでも凄い功績よ」

 書き物が一段落着いたのか、ようやく顔を上げ、白沢が鳳凰を振り向いた。
 相変わらず愉快そうに口許を緩ませている。

「……何をする気だ?」

 鳳凰は白沢のこの表情が苦手だった。
 苦手、よりは嫌悪している、と言った方が適切かも知れないほどに。

 鳳凰はその嫌悪から来る苛立ちを何とか隠しながら、白沢に訊ねた。
 何のために、こんな物騒な薬を作るのか。

 しかし白沢は、別に~、と軽い態度で答え、椅子に座ったまま左右に身体を回す。

「作ったというか、その毒は出来ちゃったってーのが実際のとこ。別のもん作りたかったんだけど、途中でこれ毒薬になるなって気付いたから形にしたの」

 ちなみに効果はねぇ、と白沢は動きを止めて、鳳凰を真正面から見詰める。
 そこまで聞いてない、と鳳凰は拒否したものの、白沢がこちらの話を聞かないことくらい、嫌になるほど把握している。

 案の定、白沢は勝手に続けて来た。

「最鬼の体内に打ち込めば、骨と筋繊維だけを巧く溶かしてくれるのよね、まぁ計算上ではだけど。最終的に残るのは血液と体液がパンパンに詰まった“皮袋”って感じ?」
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