(贖罪)
真鬼は仕事が早いから、色々やらせてたらかなり使えるようになってしまってな。
以前そんなことを菱人が漏らしていたことを華倉は思い出した。
それも、真鬼本人を目の前にしながら。
所用で実家である篠宮本家に来た華倉は、真鬼にも一言掛けておこうと事務室に寄った。
菱人は今しがた出掛けたところである。
色々仕事を手伝わせている真鬼だが、外回りに連れていくことは滅多にないらしい。
主に事務処理などを担当している部下も他に数名いるが、その中のひとりが真鬼という現状が未だに不思議だった。
「今日はひとりか?」
見積書の作成をしていたらしい、真鬼が「一桁」と何らかのツッコミを呟いてキーを打った。
その後、視線を華倉に向けて上げる。
大体俺だけだよ、と華倉は答える。
魅耶は書類の上では篠宮の人間という扱いではあるが、彼にとって用があるのは華倉にだけ。
総本山での仕事なら何でも受けるが、魅耶は基本的に本家には関わらないのである。
年始の挨拶くらいには来るが、何でもない平日、仕事関係で来る華倉にまでくっ付いてくることはまずない。
そうだったな、と真鬼は頷きながら答える。
取り敢えず、と少しPCを操作した後、一旦画面を閉じた。
「魅耶に何か用事あった?」
そう思って、伝言を受けようかと提案する華倉。
しかし真鬼は首を横に振り、そういうわけではないが、と続ける。
「私も力の安定を図りたい。そのためには出来るだけ魅耶の近くにいた方がいいなと」
「力の安定……」
魅耶と真鬼は元々「憑依」に過ぎず、だから現在個々で独立した存在でいられる。
しかし、一体の鬼神の力を分けた存在に変わりはない。
今も魅耶には真鬼の力を左右する調整役としての価値がある。
分離してからの数十年は、さほど気にならなかった事実だ。