好きで居続けたら、こうなった。
何か気に食わなかったのだろうか。
わたしは社長室までの道のりをぶつぶつ考えながら歩いていた。
本日出勤すると同時に、社長から呼ばれている、と連絡があった。
わたしは一介の事務OLに過ぎず、社長とはあまり接点がない。
だから何故今、社長直々呼び出しなんて食らったのかさっぱり分からないままなのである。
確かに、わたしはここに入社する以前から、社長のことは知っていた。
知ってて入社したとも言える。
しかし……やはり接点はない。
何だろう、クビかな、と半ば諦めながら社長室に到着する。
控え目にノックすると、中から「どうぞー」と社長の声がした。
「失礼致します」
ドアを開け、深々と頭を下げた。
そんなわたしに社長はまず確認を取る。
「えーと、北崎(きたざき)さん、だよね?」
頭を上げたわたしに、社長が訊ねる。
はい、とやや緊張しながら答えるわたし。
だって相手は社長だぞ?
ある意味わたしの「初恋」相手である――……。
そんなことを考えながらドキドキしていると、その社長がざっくばらんに笑って、切り出した。
「突然で悪いんだけどさぁ、俺の秘書やってくんない?」
……と。
「えええええ出世じゃんそれ!」
焼き鳥を口に運ぶ手を止めて、優花(ゆうか)が驚いた。
そういうことになるのかも知れないけど、とわたしは答える。
けど、わたしにとってはそれ以前の問題であった。
一介の事務員でしかないわたしが、突然何の前触れもなく、社長秘書に異動とか!
……理由は、社長の話によると、どうやら今まで秘書を務めていた人(男性)が、社長のファンキーさについていけなくなって、辞表を出してしまったことが原因らしい。
確かにうちの社長ファンキーとフランクとテキトーのハイブリッドみたいな性格である。
そういやあの秘書さん、バリバリA型っぽかったもんなぁ。
それはお気の毒に、と思う反面、何故わたしに白羽の矢が立ったのか。
わたしは実を言うと、臨時社員として入社したのだ。