君宵


 その日は家呑みでよかったなぁとほんとに思う。

 俺も給料日前で金欠だったし、いつも忠雪(ただゆき)さんに支払ってもらってるのも気が引けてた。
 だから今日は家呑みしようってことなった。

 デート自体久々だったから、ほんとはどっか行きたかったんだけどさ。
 こういうとき、まだまだ学生って不自由だなと思う。

 俺はもう1日も早くモデルとして自立するから、大学なんか辞めてもいいんだけど、忠雪さんは「ちゃんと行きなさい」って言う。
 だから行ってる、感じ。

 その日もそんな話をしながら、枝豆やらもろキュウなどをつまみに呑んでいた。

 俺がトイレ行くためにその場を外したのは、多分その1回だけ。
 数分もかからなかったその時間。

 忠雪さんに何があったと言うのか。

 俺は、あー、とダルさを醸す声を出しながら、忠雪さんのいるリビングに戻った。
 すると忠雪さんは、ローテーブルに突っ伏していた。

 およ、と思って、忠雪さんに声を掛ける。

「どしたっすかー? 酔っちゃいましたかー?」

 はははと笑ってやや茶化すように訊いたつもりだった。

 しかし。
 忠雪さんは顔を上げて、ふにゃりとした視線で俺を捉える。

 んで。

「っ、亜貴緋(あきひ)くーんっ!」

 がばり、と俺に抱き着いて来た。

 !? ってなった。

 何!?
 こういう時いつも抱き着くのは俺の方じゃんすか!

 忠雪さんからこういうことって、多分今までで1度もない。
 ごろごろと機嫌のいい猫のように、忠雪さんは俺にべたべた甘えて来た。

「亜貴緋くんかわいい~」
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