バトルシーン練習習作2
「ではこれで、はい、よろしくお願いします」
タブレットに今纏まった案件のメモを打ち込んでいく。
相手も安堵したような明るい笑顔だ。
出先で偶然出くわし、世間話の延長から話し合いを続けてきた案件に目途が立った。
「済みません、こんな立ち話で進めちゃって」
相手はそう断りを入れてくれるけど、俺も助かったのは事実だし、という気持ちも持ちつつ構いませんよと社交辞令。
「1つ仕事が片付くんですから、悪いことじゃないですよ」
まぁ完全にイレギュラーではあるし、今この場で1つの商談が成立したとは思わないな。
なんて無駄に自分を客観的に理解していた。
しかし。
「じゃあこれ上司にも……」
と、相手に確認を取りつつ顔を上げると、目の前に相手の顔が迫って来ていた。
思わず吃驚して肩が飛び上がった。
しかし相手はあまり悪びれた様子もなく、どうしたんですかと呑気そうに訊いて来る。
いや、あの。
さっきから薄々気付いてたんだけど、この人少しずつ近寄って来てるよな……。
今までそういうイメージはなかったんだけど。
今日は往来で偶然出くわしたとは言え、別にそこまで親しいと感じたことはなかったし……。
なのに、何だ?
「いや、あの、近くない、ですか?」
機嫌を損ねてしまうのも恐ろしいが、必要以上に近付かれるのも別の恐怖がある。
俺がそう下手から訊ねてみると相手は一瞬真顔になった。
けれどすぐにっこりと今までのように笑うと、そうですかと返す。
「何か篠宮さん、いい匂いするんですよね」
「は?」
突然そんな言葉を投げられたものだから、普通に変な声が出ていた。
何言ってんだこいつ。
相手は俺の警戒心を気にも留めず、さらに一歩近付いて来る。
いやいやいやいや、と右手を出して何とか制止するように意思表示するものの、イマイチ通じていない。
しまいには肩の辺りに鼻を近付けられて、ぽつり、と零す。
「とても旨そうな……その、血の匂いだ」
そこでようやく分かった。
相手の左手が俺に届く前に、何とか反応することが出来た。
鞄ごと腕を大きく振るって、相手の耳元辺りに叩き付けるとそのまま地面に押し倒す。
間合いを取るように大きく背後に飛びながら、左手を宙へ。
「――鍾海」
小さく呟くだけでも、その刀はちゃんと姿を見せる。