バトルシーン練習習作2


 掴むと同時にそのまま抜刀した。

 途端。
 一瞬俺と相手以外の一切の形が消える。
 音も色も無くなったと思ったら、パッと元に戻った。

 けれど周囲に人影はいない。
 時間も止まっているかのように景色の総てが無機質なものになっていた。

「……あとちょっとだったのになぁ」

 首の骨を鳴らしながら、ゆっくりと立ち上がる。
 その姿は今の今まで商談をしていたビジネスマンではない。
 もっと歪な、人のような形を真似た別の生き物だ。
 足の長さが揃っていないのか、立っているだけでも左右にゆらゆら全身が揺れ続けている。

「……最初から俺を食らうつもりだったのか?」

 正直今まで何回か会ってきたその相手が、人間じゃなかったとは思えなかった。
 違和感も殺意もまるで感じなかった。

 だとすれば。

「そうだなぁ、今日は、なぁ」

 どこに口が付いているのか分からないその顔で、そいつは確かに喋っている。
 今日は、が意味するもの。
 ――食われた。

「そういう卑怯な真似はやめろ」

 鞘を足元に放り投げて「鍾海」の切っ先をそいつに向けた。
 俺の血肉のために、無関係な人を犠牲にするのはやめてくれ。

 しかし相手にはそんな同情が通じるはずもない。
 それなら最初から人を殺したりはしない。

「それなら、お前が自ら食われに来いよ」

 ゆらゆら肩を大きく揺らしながら一歩ずつ歩み寄る異形。
 そういう話はしてねぇんだよと目で威嚇して、俺も両手で「鍾海」を低く構える。
 べたっ、べたっ、と粘着質な足音を響かせながら、不気味な汚らしい笑い声が上がる。

「憂巫女の血肉だぞ? 食えるんなら何でもするわぁあっ!!」

 その咆哮だけがその場に広まっていく。
 姿が一瞬で消えてしまった。
 突然のことに怯んだものの少々動作ががさつなせいで、すぐに気配が読めた。

 柄を逆に持ち替えて、そのまま背後に刃先を突き出す。
 手応えはあった。
 刺したまま真横に振り払うように腰を捻って上半身を回転させる。

 しかし相手の手が「鍾海」をがっしり掴んで離さない。
 このままでは飛ばそうにも飛んでいかない。

「しゃらくさっ……!」

 口なんかどこにあるのか分からないその顔で、確かにそいつはニタリと笑った気がして。
 前屈みに体重をかけながら地面を蹴って飛ぶ。
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