文芸部は渡しません!
「先日はうちのバカが失礼しました」
彼はそう言いながら、何の躊躇も見せずにわたしに頭を下げて見せた。
あまりにも清々しい謝罪だったので、ちょっと意表を突かれてしまった。
あ、はい、とこちらが動揺する始末だ。
しかし、身内のミスを謝罪しているとは言え、あくまで君はその会長さんを補佐する立場なんじゃ。
そんな相手をバカ呼ばわり……と、そう考え直すと、わたしはやっぱり彼を警戒した。
そうだ、いくら丁寧に接して来ようとも、彼もうちの部を廃部にしようと企んでる生徒会の人間だ。
騙されちゃいけない。
わたしは自力で正気に戻ると、むん、と目元に力を込めて、表情を硬くさせた。
油断させておいて、じゃあ廃部でいいね、だなんて流れにならないように。
そんなわたしの警戒心を、彼は感じ取ったのだろうか。
聞いてた通りですね、と彼はわたしの目を捉えて呟く。
その言葉の背景がよく分からなかったけど、取り敢えずわたしは再度訴える。
「とにかく、このまま文芸部を廃部になんか出来ません! 生徒会なら別の場所確保するとか、もっと別の方法も検討してください」
あくまで強気の姿勢を見せる。
すると彼は溜め息を吐き、やってますよそんくらい、と答えた。
「俺たちだってそんな安直な発想で行動に移ったりしてません。場所も部費も、生徒の要望も聞いて、精査した上でのベターチョイスの結果なんですから」
なんて、すっごく正論且つまともな返答をされてしまい、ぐうの音も出なかった。
ううう、わたしの方が1つ先輩なのに、何だこの子めっちゃしっかりしてる。
怖っ。
あの会長さんが俺様ワンマン独走タイプだからか、副会長であるこの子――速水君河(きみか)くんの冷徹なまでの落ち着きっぷりがめっちゃ相性いいな。
ですけど、とそれでも怯んだら負けと自分に言い聞かし、わたしは言葉を続けようとする。
しかし、それよりも一拍先に、君河くんが話を続けた。
「俺は姉から貴女の話を聞いていたから、哲辻(てつじ)にも忠告しといたんですけどね。貴女がひとりで守って、立て直した部活だから、そう簡単には潰せないぞ、って。まぁ俺のいうことなんか、半分も聞かない奴なのも知ってますけど」
ん?
どういうこと、とわたしはちょっと落ち着いて、君河くんに訊ねる。
わたしの話を、お姉さんから聞いてた?
確かにわたしは今年の文化祭までの間、部長として、何とか文芸部を守って、付いてきてくれた部員2人と文芸部を立て直した。
でもそれを知っているのは、ごくごく一部の人のはず……。
だってわたし他校に友人っていないし、そもそもこの話も限られた相手にしか……。
……あっ。